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 町外れの茂みに隠されるようにして設置されていた階段。それを降りていくと其処には岩を繰り抜いて作った、人一人通るのが精々の通路がありました。
 薄暗さと時折滴る水滴がまるでどこぞのダンジョンのようです。等間隔で設置されている燭台とそこに灯る火が、そこに人が出入りしている証拠となっていました。
 その地下、空間の先の扉の前には屈強な男が一人扉を護っています。

「…………客かい? 入店許可証は」
「これでいい?」
  
 ラビは男の言葉を遮り、持っていた紋章を掲げました。

「…………! お通り下さい」

 それを認めると男は頭を下げ、静々と扉を開けます。

「…………、」

 何とも思っていなさそうなラビとアレン、そして必死でポーカーフェイスを浮かべるティキの三人は、扉の内へと入っていきました。





   

「やぁやぁラビ、久し振りー!!」

 …………場違いに明るい声。
 扉の中は武器に囲まれた部屋。その奥のカウンターの向こうにいるのは黒い巻き毛の男性でした。
 扉の護りと似たり寄ったりの屈強な男か或いは老人を思い浮かべていたティキは驚いて瞠目します。 

「久し振りー、コムイ。何、最近城の中で見ないんだけど?」
「ご老体も王族も、高官も皆健康って事だよ。何よりだけどね」
「ふぅん…………そうそう、多分聞いてると思うんだけど」
「ああ、君の出立の件だね。城内は噂で持ちきりだ。明日明後日には他国に通告するらしいから城下に広まるのも時間の問題だね」

 ラビと店主は何やら親しげに話し合っています。
 …………店主の顔に見覚えがあるアレンとティキは、揃って首を傾げました。

「…………何処かで…………?」
「紹介するさ二人とも。此処の店主兼王宮医師団団長のコムイ」
「「あ!!」」

 言われてようやく思い当たった、と二人はポンと手を打ちました。
 年明けの国王の参賀で高官連中に混ざって彼の顔もあったのです。

「コムイ・リーだよ。宜しくね〜」

 軽々しくひらひらと手を振るコムイ。
 
「あ、宜しくお願いします」
「ところで今日は何を見に来たんだい?」
「この二人の装備。金に糸目はつけないから、一番良い奴出してやってよ」
「ほうほう…………見た感じ、盗賊と商人だね。じゃあ重くないレイピアとダガーでイイのを…………」 
「あ、僕重量級ので大丈夫です」
「「え」」

 アレンの言葉にコムイとラビが目を見張りました。
 二人してアレンの身体を見ます。
 成長期の、まだどちらかと言えば子供よりの細い体つきです。同じ成長期でももう成人と変わりないようなラビとは話が違います。

「無理はしないほうがいいよ。成長期に無理をすると成長の妨げに…………」
「無理なんかしてませんよ。このお店で一番重いのは何ですか?」
「え? えーとあそこにある戦斧かな。クレセントアックスで、でもあれ30キロ近くあるんだ」
「何でそんなにすんの!?」

 ティキが驚いた顔をします。
 長い柄に三日月形の刃を付けたクレセントアックスは大型の斧ですが、通常精々3〜4キロの代物です。それですら戦場で振り回すには重いため、余程の体力のある大男でもなければ使いこなせる代物ではありません。

「普通クレセントアックスってのは刃は鉄製だけど柄は木製だよね? あれは柄の部分まで全部鉄製なんだ。しかも普通のより若干長いしね。だけど重さがあるから、使いこなせれば殺傷力は相当高いよ。殴る為だけじゃなくて斬るのにも対応できるよう十分刃も研いであるしね」
「うわぁ…………」
「あれ? これって所謂アレだよね? 四大コレクション」
「そーそー」
「コレクション?」
「伝説の初代勇者の四人の仲間が使ってた武器の総称だよ」
「それって国宝じゃないの!?」

 ティキの言葉に、コムイはくい、と眼鏡を上げました。

「王宮に飾られてるのはレプリカさ。お偉いさんが見て愉しむだけなのに本物である必要は無いだろう? 現に国王陛下なんて、毎日子供の頃から見てたはずなのに摩り替えられたことにも気付いてない」
「…………まさかあんたが?」
「ふふ」

 悪戯っこのように微笑むコムイに、ティキが唖然とした顔をしました。
 …………流石というべきか何と言うべきか…………むしろ盗賊になるべきです。

「僕らの物を取り返してとやかく言われる筋もないしね。まぁともかく、それは本物だからアレン…………君…………?」


 …………コムイの声は、途中で不自然に途切れました。



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