<7>

 値引き戦には参加せず、一人店の片隅で寝ていたティキが翌朝見たのは、満面の笑みを浮かべるラビとアレン、それからさめざめと泣いているコムイの姿でした。
 その様子に何か別のモノを思い浮かべそうになりましたが、頭を振ってその妄想を追い払います。…………泣いているのは美女でも美少女でもなく、三十近い、いい年の男です。

「うう…………酷いよ、あっちのレイピアだけならまだしもあの四大コレクションまで入れてこの金額なんて! これじゃレイピア二本分位の金額じゃないかっ!!」
「何言ったってサインした時点で遅いさぁ。なぁアレン?」
「ええ、そうですよ。売買契約は成立したんですから。ねぇラビ?」
「…………」

 ひっでぇな…………

 ティキが言葉にはせずに呟きました。
 一晩掛けて値切りに値切り倒したラビとアレンの顔は、徹夜したにしてはつやつやした良い色艶です。
 
「あんた金持ちだろ? 定価で買ってやったって…………」
「バカ、何言ってるんさ。四大コレクションに値段なんて付けられる訳ないっしょ? 定価なんてあってないようなもんだって」
「うううう…………」
「大体これから旅が始まるんだから、少しでも出費は少ないほうがいいでしょう? 道中何が起きるか分からないんですから」
「…………そりゃそーだけどさぁ…………」

 正論なのですが何処と無く納得は行きません。
 ティキはごそごそポケットを漁り、出てきた銀貨一枚と銅貨数枚をそっとカウンターの上に置きました。

「…………気持ちは嬉しいけど、焼け石に水…………」
「…………だよなー」

 子供の駄賃程度、増えたところで大した事はありません。

「アレン、後で薬草とか買出しに行く時も頼んだ!」
「了解です!」
「「…………。」」

 まだやる気か…………しかも薬草を…………と二人は溜息をつきました。
 そして、気分を入れ替えるかのように首を振ったコムイはラビに問います。

「ラビ、どういうルートで魔王城へ?」
「んー、真っ直ぐ北へ行って、そこから船旅さねぇ。此処の国発行の通行証も貰ったし」
「そうかい、なら、此処から北東のリングベルの村に寄るといいよ」
「? 何で?」

 リングベルは小さな小さな村ですが、温泉が有名で旅人が多く集まる村です。

「そこに僕の妹のリナリーがいる」
「女の子!?」
「何で其処に食いつくんですかティキ」

 …………思わず叫んだティキに、アレンが白い白い目をして言いました。

「…………リナリーに手でも出した暁には…………」

 
 ちゃっ


 コムイは何処からか取り出した大きなドリルを手に、不気味な笑顔を浮かべました。

「楽に死ねると思わないでね?」
「……………………。」

 首筋に寒気を覚えたティキは、無言で摩ります。

「まぁまぁコムイ。俺がしっかり見張っとくからさ。もしバカな真似しそうだったら殴って縛り付けとくから」
「何で俺そういうキャラにされてんの!? 何もしないよ!!」
「貴方顔がエロいからじゃないですかー?」
「何それ!!」

 何このいぢめ…………とティキは顔を覆って泣き真似をします。…………手から何か溢れてますがきっと泣き真似でしょう。

「んー、じゃあ取りあえず。アレン、ティキと道具屋行って来て薬草買出し頼んでいい?」
「いいですけど、ラビは?」
「俺はちょっとコムイと商談パート2」
「はぁ、分かりました。ほらティキ、泣き真似してないで早く行きますよ」
「…………。」

 ずるずるずるずるずる…………

 ティキを引き摺って、アレンが店から出て行きました。




小説頁へ