ある所に、白い髪に赤い瞳、顔には不思議な傷跡に赤黒い左手の、山の麓で一人暮らしている少年がおりました。
 親はおりません。異相であった為に村から離れ、ひっそりと一人で暮らしております。
 …………少年には義父代わりの師が居た筈なのですが出奔して何処へ行ったやら。少年――――――アレンは一人になって今回二度目の冬を迎えました。

「ふー…………」

 異相とは言え、食い扶持は必要です。というか、普通の人よりも大分必要なアレンは、毎日村に降りて重労働を請け負ったり、山から降りてくる獣を退治したりと、主に力仕事で生計を立てておりました。
 けれど今年の冬は例年よりも厳しく、謝礼として渡される食料もかなり少ないものです。一日くたくたになるまで働いて、それでも貰える米は一食分にもなりません。
 怪力を持つ代わりかのように大食漢であるアレンは、切なく鳴るお腹を抱えてとぼとぼと山の麓の小屋への雪のちらつく帰り道を歩いていきました。

「あー…………お腹空いたなぁ…………」

 独り言に答える声もありません。
 寒さに獣ですら気配がないのです。
 
 ――――――この季節は、他の季節よりも尚一層寂しさを感じさせます。

 数度目の溜息をアレンがついた時。
 突然茂みの向こうから激しい音がしました。

  
 バサバサバサッ!!


「…………え?」

 羽音です。
 ついでに何かが暴れているような気配もします。

「…………?」

 ひょい、と茂みの向こうを覗き込んだアレンは――――――目を見張りました。
 其処にいたのは、一羽の白い羽を持つ鶴でした。
 見ればその足にはざっくりと前の狩猟期に仕掛けられたのであろう錆びた罠の牙が食い込んでいます。
 鶴の方も突然の人間の姿に驚いたのか、一瞬羽を動かすのをぴたり、と止めました。

「…………鶴って食べられたかな…………」

 思わずアレンが呟くと鳥類と言えどもその気配に感づいたのか、鶴は怯えた様子でバサバサと羽を動かして逃げようとしますが相変わらず罠は外れる気配がありません。
 余計にその足に牙が食い込むのを見て、慌ててアレンは羽を片手で押さえつけました。
 …………手入れをされている罠ではなさそうです。仕掛けたきり忘れ去られたのでしょう。――――――ならば、この鶴を逃がしても良い筈です。

「ああ、駄目だよ暴れちゃ…………余計に食い込むから」
 
 暴れる鶴に嘴で突付かれて手に血が滲みますがアレンは気にせずに、罠を力任せに捻り壊します。


 バキィッ!


「よっ…………! と、ほら、もう大丈夫」

 …………どっちみち食べるところなんて無さそうです。出汁だって出るかどうか分かった物ではありません。

「ほら、行きなよ。…………もう罠に掛かるんじゃないよ」

 羽を押さえていた手を離してやると、鶴はバサバサと羽音を立てて飛んでいきました。
 暫くぼんやりそれを眺めたアレンは、余計にお腹空いた…………などと考えながら、元通りの小屋への道を歩いていくのでした。   






 その夜は、いつもよりも冷え込みが厳しい夜でした。
 囲炉裏に薪を放り込んで、その傍らまで布団を持ってきて横になります。


 ぐー…………


「…………お腹空いた…………」

 寒い時に空腹ですと大層辛いものです。
 それでも無い物は無いのですから諦めて寝るしかありません。
 囲炉裏の温もりで体がなんとか温まってきて、うとうととして来た頃――――――


 コンコン


 小屋の戸を叩く音がありました。


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