「えええっ!?」
「申し訳ないんですけど、そういう事で」

 …………村の呉服屋。
 仕事の為に下りてきたついでに何時も通り布を卸しに来たアレンは、ラビにこれが最後の布になる、と伝えました。
 しかし、そう伝えるとラビは何故かうろたえ、次いで慌てた様子で、

「ちょ、ちょっと待ってて!!」
「?」

 店の奥へと走っていきました。
 …………どうしたのでしょう?

 間も無くラビは呉服屋の大旦那と共に戻ってきました。

「あ、こんにちは」
「ああ、いつも世話になっておる。…………今ラビから聞いたのだが、件の布。もう手に入らないとは真の事だろうか」
「ええ、何でも材料が無くなったとか言ってましたけど」

 そう応えると、呉服屋の大旦那と若旦那は顔を見合わせました。
 そして困り果てた様子で、

「あと一反、どうにかならないだろうか」
「…………?」
「実は、今度この辺の領主のお姫様が結婚するんさ」
「殿は最近、貴殿の持ってきている布の評判を聞きつけていてな。姫君の婚礼衣装と嫁入り道具として、三反出すよう命じられている」

 二人が代わる代わる説明します。

「一反は先だって卸して貰った物を保管している、もう一反は今のこれだ。…………しかし、あと一つ…………」
「あちゃー…………」

 …………このあたりの領主が割りと暴虐なのはアレンも知っています。
 出せと言われたのに無いと応えたなら、間違いなくこの目の前の二人は咎められるでしょう。
 ラビは友人ですし、これまで良くして貰った恩もあります。

「…………分かりました、ちょっと頼んでみます」
「ああ、是非そうしてくれ。入用な物があるならば我等が調達してこよう」

 必死な顔の二人に見送られ、アレンは小屋へと急ぎ足で戻りました。
 
  

 


「…………はぁ…………」

 頼むとは言った物の…………もう織れないと言われたのに頼むのも、迷惑な話です。
 けれど事情が事情でもあります。
 先程から一向に箸が進まぬアレンの手元を、神田はじっ、と見詰めていました。

 更には食事時の溜息――――――その様子に、神田が呟きました。

「…………何か、あったか」
「…………」
「もし俺に出来る事があるなら、言え」

 神田のその言葉に、アレンはぽつぽつと話しました。
 友人の呉服屋の話、彼らからもう一反求められていること。
 出せなければ、彼らが咎めを受けるであろう事――――――。
 それを静かに聞いていた神田は、一瞬迷うような目をしてから――――――頷きました。

「…………分かった。どうにかしよう」
「出来るんですかっ!?」

 てっきりもうどうしようもないと思っていたアレンは驚いて声を上げました。
 神田は立ち上がると隣室へ向かいます。

「…………だが、本当に次は無いぞ」


 ぱたん。 
 
  
 戸が閉められました。








 …………縄を結いながら、アレンはほっとした心境でした。
 友人が咎めを受けずに済むのです。先程からパタンパタンと機織の音が聞こえています。

「…………あれ?」

 そういえば、とアレンははた、と気付きました。

『…………材料が無い。…………悪い』
『ああ、是非そうしてくれ。入用な物があるならば我等が調達してこよう』

 神田は材料が無い、そう言っていました。
 けれど彼が材料を買い足したとは思えません。彼は村に降りないのですから。

 …………そもそも。

 あの日、初めて神田が来た日、彼は何一つ荷物を持っていませんでした。
 じゃあ一体、あの布は、何でどうやって織っていたのでしょう?

 不思議な布でした。
 絹ではなく、綿でもなく、かといって植物の繊維でもなく、何とも言えない手触りの――――――…………

「…………、」


 パタン、パタン


 相変わらず隣室からは機織の音が聞こえています。
 一度気になると居ても立っても居られません。 
 アレンは立ち上がり、隣室の戸を――――――開きました。


「――――――え…………?」


 そして其処に広がっていた光景に、思わず――――――息を呑み、目を見張りました。


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