ふわり、ふわり。
 

 柔らかな羽毛が部屋の中で舞っていました。
 アレンの頬にも一つが触れて、そして落ちていきます。

 部屋の中で織機に向かう神田――――――しかしながら、その背には人にはけしてありえない、翼がありました。
 けれど、それは翼と呼ぶには余りにも痛ましい様子です。羽根も羽毛も殆ど無く、あれはもう翼としては機能しないでしょう。
 神田は無造作に手を自分の翼へと伸ばすと、羽根を引き千切る様にして抜いて行きました。同時に小さな羽毛が舞い散ります。

「…………あ、」

 …………自分の声が震えたのが分かりました。   

「…………」

 その声に、神田が振り向きました。
 部屋の入り口付近で凍り付いているアレンに、

「…………見ていて気持ちの良い物でもないだろう。あっちに行ってろ。その内出来る」

 そう言って、追い払ったのでした。







 ガラッ

 
 数時間は経ったでしょうか。神田が姿を現しました。
 手にはいつも通りの布を抱えています。

「出来たぞ」
「…………、」

 掛けるべき言葉が見つかりません。
 何かを言おうにも唇が震えて、言葉がままならないのです。
 そんな事を知ってか知らずか、囲炉裏を挟んでアレンの向かい側に座った神田が言いました。

「…………俺に聞きたい事があるんじゃないのか」
「…………、貴方、は、人間じゃ、ない…………んですか…………?」
「翼を持った人間が存在すると思うか?」
「…………いえ、」

 そんなの、聞いた事がありません。

「…………じゃあ、貴方は一体、いえ、その前に…………あんなに翼をぼろぼろにして、貴方は大丈夫なんですか」
「…………」

 神田はその言葉には答えず、視線を囲炉裏の火に落としました。
 その様子にアレンは言葉を失います。
 あの布の美しさは、――――――それが文字通りの命の輝きだったから、なんて。
 なんて――――――残酷な話でしょう。
 
「どう、して…………どうしてこんな事したんですかっ!!」

 怒りとも悲しみともつかぬ感情がアレンを支配します。
 それは神田になのかそれとも自分自身へなのか、それすらもう分かりません。 
 
「…………俺達は」

 そんなアレンの様子とは対照的に神田は落ち着き払っていました。

「受けた恩には全力で報いる」
「…………?」

 何のことでしょう。一体、彼は、何の話をしたいのでしょう?

「あの日俺はお前に救われた。――――――本来ならば、あの場で俺の命は尽きたのだろう。逃れる事も叶わず、あの雪の中、飢えて死んだか凍えて死んだか、獣に食い散らかされたか。それが自然の摂理だが俺にしてみればどの道悲惨な末路でしかない」
「…………え?」

 神田は足を崩し、そして自分の足首へと手を伸ばしました。傷は癒えたものの、傷跡までは消えなかった――――――罠に挟まれた――――――

 ――――――罠、に?
 雪の中、
 飢えて――――――?

 その言葉が次々と脳裏に浮かんでは消えていきます。
 そしてその言葉一つ一つが欠片となり――――――ついには、その結論へと到りました。  
 
「貴方は、あの時の――――――」

 雪の中で暴れていた、一羽の美しい、

「…………鶴?」
「ん」

 そうだ、と神田は簡単に頷きました。そんなにあっさり頷かないで欲しい所ではありましたが。

「…………そんな…………」
「だから、」

 神田は驚愕するアレンの呟きをまるきり無視して、言い放ちました。

「お前に救われたこの命――――――お前の為に使うならば惜しくない」
「…………!」
「何なりと好きに命じろ。羽根が無いからもう布は織れないが、あとはそうだな…………」

 言いながら自分の腕に触れました。

「…………俺の肉でも食うか? 余り肉は無いが俺を潰せば一食分にはなるだろう。この姿では共食いのようで気分が悪いなら、鶴の姿に戻るぞ」
「えっ!?」

 …………何を言ってるのでしょうか、彼は。

「聞いた話によるとお前達の偉い奴は、俺達を食うと寿命が延びると思ってるそうだ。流石に不老長寿にはなれんだろうが、試してみるか?」
「やっ…………やめて下さいっ!」

 神田は傍にあった包丁を取ると左手で持ち、右手を床に置いて包丁で狙いを定めました。
 
「何故だ? 食えるぞ?」
「お願いですからやめて下さい、そんな事しないで下さい!!」

 半分泣きながらアレンが止めると、神田は心底不思議そうな顔でアレンを見ます。
 
「なら他に俺に何をして欲しいんだ、このままだと俺はただの無駄飯喰らいになるぞ」
「…………それなら、」







 ――――――結局、その最後の一反をラビ達に渡したことにより、彼らは咎めを受けずに済みました。
 そしてお殿様からの莫大な報酬は殆ど全てがアレンの手へと渡りました。
 
「神田、今日の晩御飯は何ですか?」
「今日はな…………」

 アレンが神田に望んだのは、「傍にいて、共に生きる事」。元より飛べなくなった神田は仲間の下に戻る術も無いのですから、あっさりそれを受け入れました。
 昔ほどの重労働はしませんが、相変わらず村の人々の手には負えない力仕事を請け負ったりしながらアレンと神田は仲良くのんびりと、


「――――――ねぇ、神田」
「何だ?」
「あの…………ちょっとだけ、味見してもいいですか?」

 ――――――末永く幸せに暮らしたのでした。
 めでたしめでたし。


<終>


 ネタを頂戴したよ文その2.お二方からリクエストいただきました。
 お わ っ た ・・・!
 ちなみに末永くって鶴は万年生きると言われていますが実際には野生で30年、飼育されるもので80年程度の寿命だそうです。まぁこれでも十分鳥類の中では長命な種ですが。ほぼ人間と同じ寿命なのでこの二人は一生添い遂げたんじゃない かな^^



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