「やぁこんにちは」
「ああ、こんにちはティエドールさん」
此処は壁の兄妹のお家。壁なのに家…………意味不明でも気にしてはいけないところです。
「…………? お一人ですか、珍しいですね。神田君は?」
「うちの子は家でお留守番だよ。ちょっと君に用があってね」
「僕にですか?」
「ああ。…………うちのユー君のお婿さんに来ないかい?」
「…………え? 僕がですか?」
壁(兄)は驚いたように目を見張ります。それは当然です。鼠のお父さんが息子を溺愛しているのはよく知られています。
「うーん、ううー…………そうですねぇ…………」
更には顎に手を遣ってブツブツ呟きながら真剣に考え込む壁(兄)。
「神田君のお婿さんは悪くないんですけど、うちにはまだリナリーがいますし…………リナリーを置いて婿に行く訳には行きません。しっかりリナリーに僕の眼鏡に適うような旦那さんを見つけてからにしなくちゃ」
「…………君のお眼鏡に適うような男はこの世にいるのかい?」
「いないかもしれないです」
「そうか」
「ええ」
…………余計なお世話だろうなぁ…………。あの妹さんも自分で恋人くらい見つけてくるだろうに…………
壁の兄のシスコンっぷりに鼠のお父さんは思いました。
しかし人に聞かれれば(特に息子に)「お前もだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」っと全力で突っ込まれたことでしょう。
「けれど何でまた僕の所に?」
「実はね…………」
お父さんは話しました。
強いお婿さんを貰おうと思った事。けれど一番目と二番目に強い太陽と雲の師弟は性格上に難があり、風には有耶無耶にされた事。
それを聞いた壁は、言いました。
「でしたら僕よりも適任な子がいますよ」
「え?」
「それは貴方方鼠です。私達壁は貴方達に簡単に食い破られてしまいますから。――――――お隣のラビはどうです? 神田君とは歳も近いですし、あの子等は意外に仲も良いようですし。頭もいいですから神田君の足りないものを補える、良い伴侶になれると思いますが」
暗に息子に足りないもの=頭と言われた訳ですがお父さんは其処には反応せず、しかし眉根を潜めました。
「…………私は彼は気に入らないんだよ」
「何故です?」
「うちのユー君にベタベタするし、あの目は絶対下心満載だっ! 私の留守中に勝手に上がりこんで何を企んでいるのか…………」
…………うわぁ…………。
壁の兄は内心溜息をつきました。
ここまで子離れ出来なければどうしようもありません。(妹に聞かれれば「兄さんもでしょ」と突っ込まれたでしょう)
…………というか婿探しとは言っていましたが実際には本当に結婚させるつもりがあるかどうかも怪しいところです。
ぶつぶつと恨み言らしき事を続ける鼠のお父さんに、壁(兄)は肩を竦めました。
「…………上等こいてるとぶっ殺すぞこるぁっ!!!」
ドゴッ!!
「げふっ!」
一方こちらは鼠の息子神田と、隣家のラビ。
お父さんの留守中に神田を押し倒す事に成功したのにも関わらず、見事な鳩尾狙いのアッパーで哀れラビはすっ飛ばされたのでした。
自然界の掟は常に厳しく、オスの選択はメスの権利です。…………この場合は両方オスですが。
「渡したくない? まずいつから俺がテメェのモンになった? あ? コラ」
吹っ飛ばされて壁に激突し、その場で引っ繰り返ったラビの上に馬乗りになって神田はラビの顔を覗き込みます。
「ご、ごめん、ごめんなさい」
「大体誰があのクソ親父が連れてきた野郎となんか結婚するか。本当に俺がはいはいっつって結婚するとでも思ったのか? お前俺を何だと思ってんだ」
「…………思いません…………」
…………神田でしたら間違いなく「殺して埋める」です。
「相変わらずお前頭いいのに筋金入りの馬鹿だよな」
呆れた声。呆れた眼差し。
それに晒されたラビはまさに「穴があったら飛び込みたい」心境です。
けれど。
「…………相手は、俺が選ぶんだよ」
「…………へ?」
ちゅっ
ラビに降って来たのは、優しい額への口付け一つ。
「…………あの。ユウさん?」
「…………五月蝿い黙れ」
真っ赤になって二人は見詰めあい――――――
ラビの手は神田の頬へと自然に伸ばされます。
しかし。
「ただい…………ま…………」
ドサッ
手に抱えた荷物から、木の実が転げ落ちます。
「「…………」」
イイ所を邪魔された若人二人と、
「…………」
愛息子「が」隣家の幼馴染「を」押し倒している(ように見える)現実に、お父さんは。
「あっ…………」
「「「あああああああっ!!!!!?????」」」
其々に絶叫を上げたのでした。
次の春、ふきのとうが顔を出す頃に、誤解を解いて妨害(=お父さん)をどうにかした二人は目出度くも結婚し――――――
「お義父さんの為にも一杯子供作るんさっ!」
「いやまて出来ねぇだろ馬鹿」
いつまでも仲良く暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
<終>
ネタを頂戴したよ文その1.
よく考えたら婿入りになってた