「…………やっと見つけた」

 ぽつり、と小さな小屋を見下ろして呟くのは、フードを被った怪しい人間です。
 長いフードにローブという格好ながら、全く動き辛さを感じさせない動きで木の枝から飛び降り――――――小屋に近付きました。
 そっと耳を扉に押し当て様子を伺い、そして何に気付いたかはっ、とした表情で辺りを見回し、さっと草むらに姿を隠します。

 
「あー疲れた…………まだやっと昼だぜ?」
「働けど働けど…………」
「猶我が生活楽にならざり…………」
「ぢっと手をm」「そこー、道楽で身上潰した人の詩やめてくんない?」

 今日も今日とてきこりに精を出していた小人の皆さんです。
 若干一人、何もしてない人もいますが。

「大体あいつ何もしないのに食いすぎ! 俺らの稼ぎ食い潰してんじゃん!」
「あの燃費の悪さは異常だよなぁ…………」
「ヒヒッ」

「…………」

「まぁいいじゃん。昼食おうよ昼」
「あると思う?」
「…………駄目じゃね?」

 
 がちゃっ


 小人さん達が家の中に入っていきます。
 その様子を息を殺して見詰めていた黒フードは、そっと踵を返しました…………。







「パン一つ残ってただけマシってとこだね…………」
「あれだけ働いてパン一個…………」
「ヒヒッ、切ない…………」

 肩を落としながら家の中から出てきた小人さん達。
 紅一点のロード嬢は「もう飽きた」という理由で家の中で白雪姫共々お留守番です。

「…………はぁ、いつまで続くんだろこんな生活…………」

 小人さん達が見上げた先は何処までも蒼い空、でした。





「じゃあ白雪姫、僕遊びに行ってくるから」
「はいはい、行ってらっしゃいロード」

 野郎共の悲哀など知った事じゃない二人は実は仲良しです。
 飴玉を咥えたロード嬢がひらひら手を振りながら小屋から出て行きます。
 それを見送った白雪姫は箒を握りなおしました。
 居候と言っても、満更タダ飯食ってるだけじゃないのです。ただまぁ食事量>>>>>>>>>(越えられない壁)>>>>>>>労働量ですが。

「ふー、小屋が狭くてよかったですよ」

 そんな事を呟きながら箒で床を掃く白雪姫。深窓の王女様にしては手際が良いものです。

「さてそろそろ継母の襲撃ですね。さぁ来れるものなら来て見て下さい。…………ふふ、」

 …………白雪姫の手にはヤーコプ・ルートヴィヒ・カルル・グリム、ヴィルヘルム・カール・グリム共著、童話「白雪姫」が握られていたりするのでした。




 



 〜三日前・王城〜

「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰だ」(棒読み)
「それは王妃様だね」(即答)
「…………」
「…………」
「おい、話が進まねぇだろ!」
「そうだけど、事実だよ?」

 王妃の間。飾られた魔法の大鏡に問いかけた王妃様は溜息をつきました。
 漆黒の髪に漆黒の瞳。纏う物も黒という、「黒の王妃」と民に呼ばれる彼女…………もとい彼は溜息をつきます。
 たった三つしか違わぬ継子のいる夫の下へ、無理に請われて嫁いで三年。そもそも隣国の第三王子であった筈なのに何故に王妃に、と頭痛を感じざるを得ません。というか最初に話が上がったときてっきり王妃様は「王女の婿に」という話だと思ってたのでした。
 しかも継子は三つしか取りの離れていない継母を嫌い? 全くまともに顔すら合わせようとしません。
 そりゃ思春期の難しい時期に父親が再婚したらグレたくもなるよな、と自分も思春期である筈の王妃様は考えたりもしています。
 しかし夫婦とはいえあくまで政略上、普通の夫婦のような仲になる訳でもなければ王妃様には継子の王女を虐めようとも廃そうとも思ってないのですし、城の中で一番歳が近いのは王女なのですからもうちょっと歩み寄ってくれても…………と思ったり思わなかったりもするのでしt

「ナレーション黙れっ!!!」

 …………痛い所を突かれた王妃様は声を荒げます。
 そして、ふう、と溜息をつきました。

 歳の離れた夫は酒好きの乱暴かつ唯我独尊なアレがナニな人ですが若い王妃様に悪くはしません。時折軽く触れるだけの手に、次に会う時は葬式なのでしょう実の父親のそれが重なって見えます。
 望むものは何でも与えられ、真綿で包むかのように一番見晴らしのいい最上階の部屋に置かれています。
 しかし、祖国から連れて来た侍女は暇を出され、夫の許した人間としか面会を許されず(そんな人間殆どいません。なので王妃様の話し相手は謎の魔法の大鏡だけです。)、危ないからと剣の修行をする事も許されません。つまり事実上の軟禁状態です。
 ――――――胸に去来するのは、虚しさだけ。



 ガチャッ



「!」
「おい、何だ? シケた面だな」
「…………陛下」

 突然ノックも無しに開かれた扉。
 顔を上げると目に入ったのは大柄な男。
 王妃様の旦那様、この国の国王陛下です。

「何か御用ですか?」
「おいおい随分な言い草だな。用がなきゃ夫が妻に会いに来ちゃいけないとでも?」
「…………」

 王妃様は首を傾げます。

「…………御用が無ければ陛下はいらっしゃらないんでしょう?」
「…………。そうでもないがな。それはそうとだ」
「はい?」
「アレンを追い出してみた」
「…………はい?」

 王妃様の目が、点になりました。
 因みにアレンとはこの国の第一王女、目の前の陛下の一人むす…………め? こ? 、王妃様の継子の事です。王妃様は心の中で「モヤシ」と呼んでいます。白くて細いからです。

「…………何でですか」
「お前が中々追い出さないから代わりにやった」
「…………はい??」

 意味不明です。
 大体、

「なっ…………にやってんですか貴方はっ!!」

 年頃の深窓の王女を外に放り出すなど言語道断です。供を着けずに外に出たことがあるとは王妃様にはとても思えません。何せ王子であった王妃様ですら、独身時代は一人で城下に行く事など許されなかったのですから。
 因みに実際にはその王女様は怪しげな賭博場に出入りして小遣い稼ぎするのも売春宿に国王陛下を迎えに行くのも全然余裕だったりするのですが。

 言いたい事は言ったとばかりに背を向ける国王陛下の後姿を呆然と見送った王妃様は、鏡の声にはっ、としました。

「…………クロスにも困ったもんだねー…………」
「い、や、困ったとかそういうレベルじゃねぇし! 何考えてんだよあの人っ…………」
「…………息子に気兼ねなく新婚生活送りたかったんだろうねぇ…………」(小声)
「あ? 何だって?」
「いや、何でも?」
「…………ったく、」

 部屋を見回した王妃様の視線は、やたら広いベッドの上に固定されました。その頭の上に電球のようなものがぱっ、と浮かびます。


 ピーンッ


 …………そうして駆け寄ったベッドからシーツを引き剥がした王妃様を、鏡は溜息混じりに見詰めることしか出来ませんでした。



 
 かくしてシーツを結って作った縄梯子で部屋から脱走した王妃様は、王女を連れ戻す為に一人供も着けずに森の方へと走っていったのでした。





 ※クロ→神
 ※王妃は継子を女だと思ってる
 ※珍しくアレ←神からスタート

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