あるところに、狼の一家がおりました。
おじいさんの狼と、その四人の息子達です。
おじいさんのティエドール。長男のマリ。次男のチャオジー。三男のデイシャ。末息子のユウ。
末息子が一番態度がデカかったりするのは反抗期的な(或いは性格上の)仕様です。次男の腰がやたら低いのも仕様です。
まぁそんな事は置いといて。
森の奥深く。小さな泉の直ぐ近くに、小さな一軒家があります。
その傍らの大樹に寄り掛かり、目を閉じるのはまだ年若い一匹の黒狼。
そこに、家の中から白に近い色の灰狼が出てきて声を掛けました。
「ユー君。いるかい?」
「…………何ですか」
おじいさんに声を掛けられ、不機嫌そうな声で返事をしたのは末息子、もうじき10ヶ月になるユウ(人間換算13〜15歳)です。
「ちょっと夕飯のキノコを採ってきてほしいんだ」
「…………」
この狼一家は狼にしては珍しく草食です。ユウの好物も植物の実を引いた物を練り茹でる麺類です。尚草食の時点で狼じゃないだろという突っ込みは却下します。
「一人で行けるかい? もし危ないようだったらマー君を…………」
「いらねぇよ! その位一人で出来る!!」
ユウはおじいさんから細い枝を編んで作った籠を引っ手繰ると、ぷりぷり怒りながら森の中へと入っていきました。
「うーん、反抗期かなぁ…………?」
おじいさんは、顎に手を当てて首を傾げました。
ユウはぷりぷり怒りながら森の中を駆けていきます。おじいさんや兄達に子供扱いされるのが気に入らないのでした。
まだ子供ですが、それにしたって産まれて一月でこの森の中を駆け回っていたのです。今更何が危ないというのでしょう。
ユウは子供ですが誇り高き狼の戦士でもあったのです。
「くそ、あのおっさんもマリ達も人をガキ扱いしやがって…………!!」
毒吐きながらもそのスピードは全く緩むことはありません。
そして、彼は一際開けた花畑に出てきました。
芝生と花が織り成す森の住人の憩いの場です。最近では芝生に薄紫のきのこが生えていて、此れが中々美味なのです。
ユウは、辺りを転々としながら籠にきのこを放り込んでいきました。一所から根こそぎにしないのは森の住人として当然のマナーです。
そして籠を半分程満たすと、その手の動きを止めました。
「こんくらいでいーだろ…………」
どさっ、と芝生の上に寝転がります。
空は澄んで高い秋特有の色。
数種類の甘い花の香りが鼻を掠めていきます。
夏の湿度を孕んだ熱い風とは違う、心地良い秋の風に身を委ねていたユウは、
ふと。気付きました。
「―――――――!!」
身体に緊張が走り、ばっ、と素早く跳ね起きます。
風向きが変わったのです。その瞬間彼の鋭敏な嗅覚が捕らえたのは、人と―――――――硝煙の匂い。
人、特に猟師と呼ばれる人種は、森の住人の天敵です。
狩る者と狩られる者。運良く打ち倒せたとしても、むしろ打ち倒してしまうと彼等は徒党を組んで討伐しに来ます。世界で一番凶暴な生き物達です。
「―――――――っ」
逃げ出すことすら出来ずに、凍りついたまま一点を凝視します。
ガサッ…………
木々が、草が揺れました。
そして、そこから姿を現したのは、
「―――――――獲物の気配がすると思ってきてみりゃ…………」
紅い髪の、大男でした。