「…………終ったな」
「ええ」
魔法使いは溜息をつき、シンデレラ(旧)を見やります。
「お前は此処で出番終わりか、楽なもんだな」
「え? 神田だって終わりでしょう?」
魔法使いがそんなに出張るものではありません。
「…………俺は二役だからな」
…………心底嫌そうに溜息をつく魔法使い。
「え? 聞いてないですよそんなの。因みに何をやるんですか?」
「…………」
そして魔法使いが差し出したそれに、シンデレラ(旧)は――――――声にならない悲鳴をあげました。
「ううっ…………ユウもアレンも酷いさ…………」
こちらはさめざめと泣く兎の妖精改めシンデレラ(新)。問答無用で馬車に放り込まれてからずっと、この調子です。
「何で二回連続女役…………」
呟いてシンデレラ(新)が見つめる先は、王城です。
――――――王城。
国王陛下の一人息子の婚約者を選ぶこの舞踏会には、国中の貴族政府高官あるいは裕福な家のご令嬢、そして家柄財産はぱっとしなくとも美しいといわれる娘達が続々と着飾って集まっていました。
誰もかれもが王子に見初められることを夢見て、うっとりと頬を染めています。
そして――――――その中には、
「ティッキー、次はあっちのね」
「はいはい」
シンデレラの二人の義姉の姿もありました。
舞踏会前に供された食事の数々。二人は適当にそれらを食い漁っています。元よりお妃の座になど興味のかけらもない二人、この「食事無料」がなければ来る筈もないのでした。
継母の千年伯爵は、貴族の皆さんとご歓談中です。
ゴーン、ゴーン…………
大時計が六時になった事を告げます。
もう間もなく舞踏会の始まりです。
――――――と、そこに。
「あれ?」
見たことのある赤い頭を見つけて、ティキとロードは首を捻りました。
「…………何の辱めさ…………?」
周囲は皆美しい(一部例外もいなくもないですが)ご令嬢、お嬢さん達。そんな中に18(♂)が女装して入っていくのは中々勇気がなければ為し得ません。
顔を引き攣らせながら入っていくと、シンデレラ(新)の周囲からは人がザッ、といなくなりました。当然です。いじめに負けてはいけません、シンデレラ(新)。
「…………いじめも何も…………」
力無く項垂れたシンデレラ(新)は、さっさとこの茶番を終わらして貰うべく自分と同じような色合いの頭を探しました。
しかしまだ王子はお出ましではないようです。いっそこのまま出てこないでくんないかな、とシンデレラ(新)は淡い期待を抱きますが、
『そんな事有る訳ないでしょ』
天(監督兼脚本のリナリー嬢)の声がそんなことを仰るので、まぁそれは無いのでしょう。
シンデレラ(新)もヤケクソになって、適当にお料理のところに向かいました。やけ食いでもしてなきゃやってらんねぇ、といった心境なのでしょう。
そこに、
「ねーねー、何でラビが此処にいんの?」
「ロード、…………と、ティキ…………」
「何その格好? それシンデレラ役のでしょ?」
「…………アレンに押しつけられたんさ…………」
「「え?」」
ティキとロードが顔を見合せます。
「…………何でぇ?」
「何で、って…………普通嫌さ、女の子役なんて!」
「…………お前さん達さぁ、もしかして自分以外の役知らない?」
「…………へ?」
『国王陛下、並びに王太子殿下のお出ましです』
場内に響き渡るアナウンスと、人々の歓声。
そして予想通りの紅い頭の大男と一緒に降りてきた黒髪の青年の姿に――――――シンデレラは目を見張りました。
「ユ、ウ!? 何で!?」
「神田は人手がないから二役なんだぜ? 魔法使いと王子の」
「おおおおお王子ってクロス元帥じゃっ…………」
「えー? 何それにあわなーい」
「クロスの奴は父親の国王役でしょ。…………何の勘違い?」
…………そう。
シンデレラ(旧)が速攻で握りつぶしたあの写真。
あれは、父王と息子の2ショットであり――――――
身長の高い王の隣には、それより若干小柄な王子もちゃんと映っていたのでした。
「アレン絶対喜ぶと思ってたんだけどぉ、そーでもないの?」
そのシンデレラ(旧)は現在、おうちで燃え尽きて灰になっています。文字通りの「灰かぶり」です。
「良かったじゃん、役得で」
国王と何やら会話していた王子は、ゆっくりとシンデレラ(新)に視線をやり――――――歩み寄ってきました。
「えーと? 『俺と踊って下さい?』」
「「「ユウ(神田)棒読み過ぎ」」」
感情も何も籠めていない王子様の台詞ですが――――――シンデレラ(新)は、笑顔を浮かべ、
「喜んで」
王子様の手を取りました。