二層のボス、炎の魔人は強敵だった。
唯一の救いは名前からして属性が明らかで、ファイアガードなど対策が取り易かったことだ。
長期戦ではあったけど、僕らは何とか炎の魔人を下し――――――
そして訪れたのは、白銀の世界、第三層だった。
「…………寒いわ、」
リナリーが腕を擦っている。
確かに重装備の僕と違い比較的軽装のリナリーやラビにはキツいものがあるだろう。
「一旦戻りますか?」
「ううん、大丈夫。ごめんね」
「だけど…………」
「アリアドネの糸もあるし、不味くなったら帰るさ。な?」
「分かりました」
本人達が良いって言うなら、無理には食い下がれない。
僕らは高みを目指して行軍を始めた。
「…………ねぇ、ペース早くない?」
「だよな…………」
「ですよね…………」
雪に隠れていた小道。そこを通ったら何故かすぐ眼前に階段があった。殆ど戦闘もないまま、だ。
こういう場合怖いのは、敵が強くなってる事。これまで通り、と思って挑んで、あわや、という事がこれまでに何度もあった。だ、だって体の色がほんの一部分違うだけとかのこともあるから!!
階段を上ったところで僕らはおっかなびっくり、ゆっくりと歩きだした。
樹氷に囲まれる白銀の世界はシン、と静まり返っていて僕ら以外は誰もいないんじゃないかって、有り得ない想像をする。(実際には此処は魔物の巣窟だ)
「うわ、滑る…………」
一足氷の上に載せるとあっという間に滑って、対岸まで連れて行かれた。
「これ使えば、早いんじゃねぇ?」
それが中々、そうは行かなかった。
乗れば勝手に動く氷の床は移動は楽だけど代わりに方向転換ができなくて上手く行きたい方向へ行けないのだ。
しかも一度床から降りれば必然的に遭遇するし、その上に容赦ない寒さに体力が削られる。
しかし根性と気合いでのマッピングとラビの記憶能力をフルに活かし、僕らは大きな広間に到達した。
と、だ。
「BRS…………って言ったっけ?」
そこに居たのは、一人の少女だった。
「あれ? あんたエスバットの…………」
「!」
彼女が驚いたようにラビを見る。
「貴方、エトランジェにいた…………それにそっち、薬泉院の…………?!」
「そーそー、久しぶりさぁ〜」
ラビが暢気に手を振った。
「あの、彼女は…………?」
「彼女はアーテリンデ、国ではベオフルフやヤマトと並んで有名なギルドのエスバットのマスターよ」
「へぇ…………」
見た感じ、僕と同い年位かもしかしたらもう少し下に見えるのに、凄い。
「何で貴方達が…………」
「エトランジェ解散したんさ。で、リナリーはちょっくら冒険者になってみるって。で、あっちにいるアレンがマスターのとこに入れてもらったんさ」
「…………」
彼女…………アーテリンデさんが僕らを驚いたように見ていた。
「…………そう。そういうことなのね」
納得したのか頷いた彼女は、表情を改めた。
「貴方達も大公宮に氷花採取の依頼を受けてるのかしら?」
「?」
「何それ?」
この階層に来るにあたっては、何も受けていない。
「…………違うのね。じゃあ、もうすぐにでも上に行きたいのかしら」
「ええ、まぁ…………」
「聞くだけ無駄かも知れない…………。けど、一応聞いておくわ。世界樹の迷宮の探索…………此処で諦めて帰ってくれない?」
「…………え?」
思いがけない事を言われた僕らは顔を見合わせた。
「理由は?」
「…………。」
「悪いけど、俺達…………つか、そこのアレンには特に退けない理由があるんさ。正当な理由が無きゃ、とても肯けないんだけど」
「…………そうよね。訳もわからず冒険を捨てる冒険者はいないわよね」
寂しそうに、アーテリンデさんは呟いた。
「「「??」」」
如何にも「訳アリ」な様子だ。
僕らは暫く顔を見合わせる。
「此処から先は人の力が及ばぬ恐ろしいモノがいるの。それをよく覚えておくのね。命が惜しいならば引き返しなさい。…………それでも先に進みたいのなら止めやしないわ。…………今、はね」
「「「?」」」
彼女はそう言うと、雪の上で踵を返した。
その小柄な体は氷の階段の上へと、静かに消えていった。
「…………何さ?」
ラビが訝しげな顔で彼女が消えた階段の方を見ていた。
恐ろしいモノ、って何のことだろう?
「…………少なくともフロースガルさんは此処を抜けてる訳よね?」
そうだ。あの人は二十階まで登ったと聞いている。
「じゃあ、退くわけには行かないさ!」
ラビがぐっ、と親指を突き出した。
僕らは頷き合う。
「じゃあ、行きましょう!」
登った瞬間。
僕らは寒気に背中を粟立てた。
冷気と――――――殺気。
隠されない敵意。
何処なんだ、
辺りをくまなく観察しながら奥へと向かう。
…………やがてたどり着いたのは大きな扉の前。
「…………」
意を決して開けた扉の先には…………見覚えのある人影を見つけた。
小柄な少女と、大きな、けれど老齢のガンナーの人。
…………見たことがあるからといって気軽に声を掛けられる雰囲気じゃない。
構えられた銃の銃口は僕らに向けられている。
間違いない。
このフロアを満たす殺気の発生源は、彼らなんだ。
「…………どうして?」
隣のリナリーが掠れた声で呟く。
「貴方達が「潰し」なんて…………」
「潰し」、それは報奨金を狙うギルドが他のギルドを襲撃することだ。
戦闘不能で街まで追い返されるなら程度ならまだ可愛げがあって、荷や装備を奪い取られ、命までも奪われるという事件も実際起こっている、らしい。
「潰しじゃないわ。私達は警告した、」
「命惜しくば先には進むなとな! 逆らい樹海を進むならば――――――此処が汝等の墓場となる!!」
「な、」
無茶苦茶だ!!
魔物や盗賊ならまだしも、ギルドの間で戦闘なんて…………!
話し合いを、そう求めようとして…………すぐに無駄だと悟った。
ガンナーの放った一撃は…………僕らのすぐ横の雪の小山を吹っ飛ばした!!
「っく!!」
仕方なしに僕らもそれぞれ武器を構える。
――――――一発響いた銃声が、戦闘開始の合図だった。
(強、い、)
相手は二人こちらは三人、単純な数の利はこっちにあるのにまるで歯が立たない。
「ぐぁっ!!」
「ラビッ!!」
どさっ
炎を纏った銃弾に打ち抜かれたラビが雪の上に倒れる。
「リナリー、回復をっ…………」
「甘いわ!! 現世の舞踏!!」
「きゃあぁっ!!」
蹴りをモロに受けたリナリーが吹っ飛ばされて動かなくなる。
「…………っ!!」
がくっ、
膝から力が抜ける。
ダメージを受けた体は言うことを聞いてくれない。
老人の、ガンナーが前に歩み出てきて、僕に告げた。
「汝等の歩みは、此処で終わる」
「っく…………!」
額に向けられた銃口。
それにただ、僕は彼らを睨むことしかできない。
「仕舞にするとしよう、」
衝撃を予感して、
眼を、閉じた。
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