ガンッ!


「ぐっ!!」


 予感していた頭部への衝撃は無かった。
 代わりに体が強い力で引かれて宙に舞う。


 ぐんっ 


 ごんっ!!


「痛っ!」

 頭ぶつけたっ…………!

「えっ!?」
「な、何?!」


「…………こんな初心者に毛が生えた程度の奴ら相手に潰しか。堕ちたな、エスバット」


 一瞬、ああ僕は実はもう死んでいて夢を見ているんじゃないかと思った。
 あんなに逢いたかった人が目の前に――――――僕には背を向けているけど――――――いるんだから。

「ヤマトか!」

 白い世界の中、神田の漆黒の髪が翻った。







「大公宮の命令で来てみれば…………面倒な事しやがって」
「っ、」
「どういうつもりだエスバット。返答次第によっては…………」


 チャッ


 神田は構えていた剣の切っ先を彼らに向けた。


「こいつらに加勢して、お前等を此処で叩き潰す」
「邪魔立てするつもりか!!」
「法に反しないギルドに対して戦闘を仕掛けるのはギルドルールに反する筈だ。まさかお前等がそんな事を知らない訳じゃねぇだろ」

 余所から流れてきた新参ならいざ知らず――――――と神田は続けた。
 
「…………いわ、」
「?」
「私達は、退かない!!」

 …………アーテリンデさんがそう叫んで、僕らに剣を向けた。
 必死な顔。
 何がそんなに彼女を駆り立てるんだろう?

「…………、」
「モヤシ、」
「えっ、はいっ!?」

 まるで神田は僕なんか眼中にありませんって感じだった
から突然話しかけられて思わず声が上擦ってしまった。
 神田は正面を向いたまま続ける。

「女子供とは戦れないとか甘っちょろい事ほざいたらぶん殴るぞ」
「…………」

 見抜かれてる。

「ライシュッツから叩く。お前はアーテリンデから来る奴を受け流せ」
「は、はい!!」


 ひゅんっ


「わ、」

 …………後ろ手に投げられたのは回復薬だった。

「ヘバってダセェ所、晒すんじゃねぇ」
「…………はい!」

 君の前で、そんな真似は出来ない。
 一つ大きく息を吸って――――――先行した神田の後を追って僕も走り出した。
 









「くっ、」
「接近戦は苦手か、ジジイ」

 ガンナーのライシュッツさんの懐に飛び込んだ神田が容赦なく切りかかる。敵に敬老精神も何もあったもんじゃないから間違いじゃないけれど。
 
「はっ!!」

 気合いの一閃で銃の筒を断ち切った神田はライシュッツさんを思い切り蹴飛ばして(どうしてブシドーなのに体術なんですか!!)僕らの方――――――僕とアーテリンデさんの方――――――を見た。

「とっととカタつけろ! ノロマモヤシ!」
「ちょっ…………言ってくれますけどっ! うわっ!」

 アーテリンデさんに切りかかられて僕は慌てて盾を掲げた。

「そうやって防ぐばっかりで何が出来るのかしら!?」
「…………囮になってる間に他の奴が後ろから攻撃」

 ガッ!

 …………アーテリンデさんを、ヘヴィストライクが襲った。

「きゃあっ!」
「!!」

 いつの間にか復活してた(多分神田が回復薬投げてくれたんだろう)ラビとリナリーが背後にいる。たった今攻撃を仕掛けたラビに続いてリナリーも戦う気満々だ。もしかしたらオールボンテージ仕掛ける気かもしれない。
 
「…………で? お前一人で俺達四人と戦るつもりか?」
「っ…………!!」

 悔しげに僕らを睨みつけたアーテリンデさんは…………

 静かにその場で杖を手放した。







「…………何があった?」
「「…………」」

 エスバットの二人を囲むようにして、僕らは座り込んだ。

「…………彼女が、」
「?」
「スキュレーが、魅入られてしまったの、」
「…………どういう事だ?」

 …………僕には今一話が見えない。

「…………お前等の所の巫医か、」
「…………私達は4日前に此処に来て…………此処で、スキュレーは一人命を…………」
「!!」

 僕はハッとして思わず神田を見た。
 …………神田は顔色を変えずに続きを待っている。
 だけど、強く握り締めている拳に思うことがあるのは、すぐ分かった。

「それだけならば、樹海には良くある悲劇だ。だが…………」

 首を落とした二人が、辛そうに続けた。

「樹海の支配者たる王が、彼女を魅入った。…………そして奴らの言う所の永遠の命を与えられてしまったのだ」
「…………王?」
「おとぎ話の一つよ。樹海を支配しているのは、天の王だって。…………でも、」

 リナリーが迷うように先を濁す。

「…………そう、私達もそんな話、信じてなかったわ。けれどあれは本当の事なの。…………だけどその永遠の命というのはね、私達からみれば人であることを止めるに等しいわ」
「その為彼女は人ならざる身となった…………」
「「「「…………」」」」
「それでも、」

 アーテリンデさんの声が、震える。

「それでも、私達は彼女を護りたかった…………」
「…………だから、その「彼女」から僕達を遠ざけたかったんですね?」

 確認するとエスバットの二人は頷いた。

「嫌だったの、彼女が倒されるのも、彼女が人を襲うのを見るのも…………」
「我らが代わりに冒険者を襲うようでは、本末転倒だと主らは思うだろうがな」
「全くだ」
「神田、」

 自嘲気味なライシュッツさんの言葉にあっさり首を縦に振る神田を慌てて窘めるために呼ぶ。

「…………救える見込みはあるんさ?」
「…………」

 ラビが遠慮がちに聞いた。

「ドクトルマグス組合のリーダーのお前の目から見て、どうだったんだ」

 神田も重ねて彼女に問う。
 ドクトルマグスは巫術と呪術のスペシャリスト。
 呪いの類なら、誰よりも詳しい。しかもそれが国内トップの人材ならば。 
 アーテリンデさんは――――――俯いて、首を横に振った。

「あれは呪いによるようなモノじゃなかったわ。勿論、巫術でも魔法でもなくて。彼女は死んだ。――――――今生きて動いているのも、天の支配者の永遠の命によるもの…………その呪縛から彼女を解放するというのは、即ち、」

 ――――――死、だ。

「…………辛いな、」

 ラビが、呟く。

 
 ガサッ


「、」

 神田が、立ち上がった。
 そのまま僕達に背を向ける。

「神田?」
「…………俺の仇討ちのついでだ。お前の仲間は眠らせて――――――仇は取ってやる」
「――――――!」
「え…………」
「俺達に任せてお前等は隠居でもしてろ。エスバット」

 …………幾ら人でなくなったとは言っても、仲間との戦いが辛くない筈がない。

「…………」

 エスバットの二人は、静かに頭を下げた。
 
「…………アーテリンデさん、ライシュッツさん。…………約束します。僕らは、貴方達の仲間の敵を必ずとりますから、」
「…………あり、がとう、」

 顔を覆って、ライシュッツさんの肩に顔を埋めたアーテリンデさん。
 …………二人を置いて、僕らは再び、上階を目指した。




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