「…………おい」
「はい?」
「何でお前等が堂々とついてきやがる!?」

 十五階。
 階段を上ったところで神田が振り向いて怒鳴ってきた。

「何でって」
「一緒に行きましょう? 目的は同じなんだから」

 神田を宥めるために僕らは言葉を探す。

「ふざけんなっ!」
「…………何言ったって無駄さぁ」

 …………ラビがのんびりした調子で遮った。

「あぁ?」
「だってさぁ、さっき神田…………俺「達」つったじゃん」
「…………、――――――!!」
「あ、」
「そういえばそうだったわね」

 うっかり聞き逃してたけど。
  
「なっ…………」

 神田が言葉を失う。

「んな事言ってねぇ!!」
「言ったさー、俺の記憶力舐めないで欲しいさ!! 一年前の夕食のメニューだって覚えてる位だし!」

 …………それは…………
 凄いんだけど凄くないです、ラビ…………。

 僕はそんな事を思って隣のリナリーを見た。…………ら、やっぱり彼女も同じ考えだったみたいで思わず苦笑いしてしまった。
 けど神田はそうでもないみたいで、ちょっと驚きと賞賛の入り混じったような微妙な顔をしていた。
 彼女の考えることはよく分からない。

「俺は…………」

 神田が何か言いかけた瞬間。


 ギョアアアアアアアアッ!!


「「「「!!??」」」」

 響き渡った咆哮に、僕らは一瞬凍り付いた。
 隙はその一瞬だけ、すぐさま僕は防御の構えを取り神田は抜刀する。


「…………げ、」

 背後に回ったラビが小さく呟いた。
 紫色の、大型の竜だ。

「ラビ、あれは!?」
「魔界の邪竜――――――強いさ」
「っ!」
「厄介なのが出てきやがった」

 神田も厳しい顔で敵を見る。
 僕達は先程の戦闘での傷も癒え切ってはいないし、しかもTPも残り少ない。

「リナリー! 頭狙え!」
「解ったわ!」
「アレン、全体が飛んでくるからっ…………!」
「了解です!」

 神田とラビがそれぞれに指示をくれて、僕とリナリーは応じて構えを取る。
 竜が大きく尾を振り上げた!

 
 ガァァァァァッ!!


 その叫び声を開幕の合図に、僕らは駆け出した!! 





「うわっ!」
「ラビ、回復下さい!」
「あいよっ…………うわ!」
「痛っ!」
「リナリー、大丈夫ですか!?」

 ――――――魔界の邪竜はこれまで対峙したどのFOEよりも強力だった。
 一撃一撃が重い上にたまに毒付加の全体攻撃が跳んでくる。
 僕が上手くその度に庇えればいいんだけど、タイミングを合わせるのがとても難しい。

「――――――!」
「神田っ!」

 前方で、邪竜に飛び掛っていた神田が尾で叩き落されて近くの樹にぶつかった!

「っ、」

 意識は失ってないみたいで、すぐに立ち上がろうとして…………だけど失敗して膝を突いた。

「くそっ…………!」
「ラビ、神田を優先でっ!」
「解ってるっ!」

 焦りを滲ませたラビが、回復術を神田に向かって放った。
 だけどそれよりも、邪竜の攻撃のほうが早い!

「――――――!!」

 僕らが息を呑んだ瞬間、


 ヒュンッ

 
 鮮やかに空気を切り裂く音が、した。

「神田っ、頑張って!! もう少しなの!!」

 ――――――リナリーの鞭が、邪竜の前足に絡み付いた!

「頭狙えっつっただろ! この阿呆っ!!」
「今殴られそうになってたでしょう!?」

 邪竜の腕を封じたリナリーに神田が早速食って掛かり、言い返されている。

「チッ…………あとどんくらいだよ」
「私で、三、四回だわ」
「はっ…………上等だ」

 回復で癒えた身体を起こして神田が邪竜を睨む。
 

 ―死人の法―


「!」
「うわっ、何してるんさっ!」
「!?」

 神田の発動させたスキルに、ラビが焦った様子で声を上げる。
 それがどういうものか知らない僕には、何のことだかさっぱりわからない。

「どういう事ですか!?」
「元々防御低いのに尚更下げてどーするんさっ!!」
「!?」

 良く分からないけど、それは神田が危なくなるものらしかった。


「神田っ…………無理はっ…………!!」

 しないで下さい、そういい終わる前に神田は邪竜に飛び掛った!
 紅く炎が纏わりついた剣で、三回切りかかる!

「――――――!」

 攻撃を終え、下がった神田に邪竜が追撃してきた。
 だけど、――――――させるもんか!!

「…………っ!」

 狙われる人と、狙われるタイミングが解っていれば僕が庇うのは容易い。
 僕の役目は、そういうものなのだから。

 神田を狙った一撃を盾で受け止めて、その衝撃に眉根を寄せた。

 想像以上に、重い。

「モヤシ、」

 僕の背を押すようにして衝撃を一緒に受け止めてくれた背後の神田が、静かに言った。

「気負うな。次で終わりだ」
「え? でも、まだ半分以上…………」

 敵の体力は残っているはずだ。
 そう思って彼女を振り向くと、それより後ろにいたリナリーが目に入る。

 
 ピシィッ!


 彼女の鞭から放たれた音が、何時も以上に冴え渡っていてそれはまるで警告音みたいだ。
 神田と目を合わせたリナリーは、微かに頷いて――――――


 ―ジエンド―

  
 彼女の放ったスキルは、邪竜の命を驚くほどあっさりと奪った。






「何時の間にあんな凶悪なの覚えてたんだお前」
「凶悪って何よ…………最近かな。TPに余裕があったらもっと早かったんだけどね」

 倒れた邪竜を前に、リナリーと神田が軽い調子で会話を交わす。
 僕とラビは邪竜を前に呆然と立つしかない。

 …………な、何あれ…………。

「…………うちの女子は強いさぁ…………」

 ラビのどこか虚ろな台詞にこくこく頷いて置いた。
 …………到底叶う訳が無い。

 思わず溜息をつくと、

「アタッカーが高火力なのは当然だろ。お前らの強さはまた別のもんだろうがよ」

 呆れた調子の神田が、そう言った。

「え、神田…………俺まで惚れさせてどうすんの?」
「ああ? 何言ってんだクソ兎。その目穿り出すぞ」
「やめてよ片方なんだから!!」

 戯言交じりのラビの台詞に、神田が思いっきり嫌そうな顔で脅し文句を口にした。
 …………確かに怖い。

 ラビを言葉で虐め、リナリーに軽く窘められている彼女に――――――彼女を誘うべく、僕は台詞を探して首を捻った。


  

 




「おお? 珍しい取り合わせじゃねーか」

 酒場。
 マスターが、僕達を見てそう言った。

「そうですか?」
「あの時の以来以降お前らがつるんでんのなんざ、始めて見たぜ」
「…………。」
「そういえば…………そうですね。ああでも、これからは全然珍しくないですから」
「…………? 、…………!」

 僕がそう言うと、マスターが驚いた顔をして、それからニヤリ、って笑って僕と後ろのほうで仏頂面の神田を見比べた。

「成程なぁ…………いやはや、戴したもんだぜ!」
「わっ!」

 マスターに手加減無くバンバン背中を叩かれてちょっとつんのめった。
 
「そいつの歓迎に今夜は祝いのメシにするか!」
「それもそうね」
「マスター、何かある?」
「…………おい…………」

 騒がしくなった僕らに、神田が戸惑い気味な声を上げた。
 これから、こんなテンションにも慣れて行って貰わなきゃ。
 毎日の事なんだから。

「…………神田。改めて、」

 リナリーとラビがカウンターを覗き込んでいるのを背後に、僕は神田に向き直った。
 右腕を差し出して、笑う。

「宜しくお願いします。…………君と一緒に旅が出来て、嬉しい」
「…………チッ」

 舌打ちしながらも神田は、手を差し出してくれた。
 其の手をとって、それからその手の甲に口付ける。

「!」

 途端に手を引こうとするのを押し留めて、彼女だけに聞こえる声音で囁いておいた。

「それから、覚悟していてくださいね。ただの仲間で終わるつもりはありませんから」





 ――――――「ヤマト」神田ユウ。
 BRSに、新規加入。





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