「…………」

 疲れた。
 半端無く、疲れた。

 戦利品整理は奴等に押し付けてある。
 先に酒場の席確保の為に来た俺は一人ソファーに身体を深く沈めさせた。

 何であいつらあんなに騒がしいんだ。馬鹿じゃねぇのか?
 俺は寺子屋の師匠になった覚えはねぇ!

 モヤシは考え無しにスキルの連発であっという間に動けなくなるし、リナリーは無鉄砲にも程があるってくらいに敵に突っ込んでいきやがる。
 比較的まともなのはラビだが…………

「今日も最初に沈みやがって…………」

 そのラビですら瀕死で先程薬泉院で治療したばかりだ。しかも目が覚めて最初の一言が「メシは?」だ。殴ってやろうと思ったがリナリーに察知されたから諦めた。
 
「クソ、」

 舌打ち一つしてから目を閉じた。酒場の騒々しさには閉口するが致し方ない。
 
「おう神田! 元気か?」
「…………」

 …………休めなかった。

「お前の仲間はどうしたんだ?」
「…………収穫を売り飛ばしに行ってる」
「はぁん。成程なぁ。取りあえず何か喰うか?」
「何でもいい…………」

 どうせ俺が食べなくてもモヤシが食うだろうしな。
 そういう意味では便利な奴だが、便利なのは其処だけだ。

「大分疲れてんな、オイ」
「…………疲れない訳がねぇ」
「お前の性格だしなぁ…………お、そういえばこないだ漬け込んだ姫リンゴ酒が飲み頃だぜ。やってくか?」
「ああ」

 酒でも入れなきゃやってられねぇ。

「お前はロック派だったな…………ほれ」

 匂いだけは甘ったるいが、味の方は全くだ。
 度数の強い酒に漬けただけあって、一口嚥下すると胃の奥が燃えているかのように熱くなる。
 つまみに運ばれてきた揚げ芋をつまみながら、口をつけていると。

「お待たせしました」
「待ってねぇ」

 人を苛立たせる声がした。
 笑みを含んだ、奴の声。

「何飲んでるんさ?」
「…………姫リンゴ酒」
「へー、いいな…………あ、マスター俺にもユウと同じの頂戴!」
「だから名前で呼ぶんじゃねぇっつってんだろクソ兎が」

 何度言ったら分かるんだこいつ。

「神田、そういう事言わないの」
「えー、何々?大キノコの子のマリネ…………美味しそうですね!」
 
 …………ゲテモノじゃねーか…………

「あと、ジャイアントモアのローストと、飛三頭南瓜の肉詰めオーブン焼きと…………」
「アレン君、お肉ばっかりじゃ体に良くないわ」

 そういう問題でもねぇだろ。
 モンスターの肉なんざ良く食う気になるよな………… 
 
「…………か〜! 辛っ! 強っ! 熱っ! 何、ユウこんなの飲んでるんさ!?」
「一気に呷るな馬鹿」

 運ばれて来た姫リンゴ酒を飲むなり大騒ぎのラビはもう放っておく事にする。
 
「じゃあマスター、これと、あれと…………」
「あいよ。ちっとばかり待ってろや!」
「ユウ、これつまみ? ちょっと貰っていい?」
「好きにしろ」
「あ、あ、ラビ僕も欲しいです!」
「はいよー」

 一々声がでかくて五月蝿くて騒がしい。
 閉口してソファーに体を沈めると、隣に陣取ったリナリーが苦笑顔だ。
 んな顔する前に、奴らを黙らせるのを手伝え。 

「神田、それ美味しい?」
「甘くねぇぞ。やめとけ」
「ふぅん…………」

 リナリーは俺のグラスの中身に興味を示している。

「大体お前に酒なんか飲ませたらコムイが五月蝿ぇだろ」
「…………うー、」

 あのシスコン医者が。
 
「…………」
「ほらよ! ジャイアントモアのロースト、一丁上がりだぜ!」
「うわ、旨そう!」
「神田、どこがいい?」
「お前俺が肉は食わねぇって知ってるだろうが」
「あら駄目よ好き嫌いしちゃ。髪やお肌の為にも」
「どうでもいいそんなもの」

 死ぬ訳じゃねぇだろ。

「あちちちち、酒酒…………って、あれ?」

 ラビが酒に手を伸ばすが(だから一気に呷るような酒じゃねぇっつーのに)、その手は空を掴んだ。

「「?」」

 その間抜け声に俺達も視線をグラスがあった辺りに向ける。
 そこには何もない。
 そして視線で辿っていくと…………そこには、そのグラスを掴んで呷っている、モヤシがいた。

「ちょっ…………」
「アレン君、それお水じゃないわ…………」

 止めるまでも無く、グラスの七分目まで残っていた筈の姫リンゴ酒は空になった。
 グラスを空にした張本人は、グラスの縁に口をつけ上を向いた姿勢のまま動かない。
 …………やっちまったのか。

「おい、」


 ポロッ 


「わっ! …………セーフ!」

 口許から落とされたグラスが床に触れる直前にラビが受け取る。
 そして、ゆっくりと傾いだモヤシは…………


 ガタンッ!!


 その場でぶっ倒れた。






 馬鹿じゃねぇのか、こいつ。
 肩で支えた荷物を白い目で見る。つい先程酒場で倒れたモヤシを見てこれは駄目だとラビが判断し、奴は敢え無く宿屋へ強制送還される事になった。(因みにラビとリナリーはこのクソガキが頼むだけ頼んだ料理の後始末に当たっている)
 顔を真っ赤に染めたクソガキはウンともスンとも言いやしねぇ。
 ガキの分際で一丁前に酒なんか飲むからだ馬鹿が。

 クソモヤシ引きずって、漸くを宿まで帰ってきた。適当に奴の懐を探ると直ぐに部屋番号が書かれた木の札付きの鍵が見つかる。最も、モヤシの部屋は何の因果か俺の部屋の隣なのでわざわざ部屋番号を確認する必要は無い。
 受付にいる女将が驚いた顔をしていたが特に気付かない振りをした。説明なんぞ明日目が覚めたこいつがすればいいんだ。
 二階に上がるには難儀したが、それでも辿りついた廊下奥の部屋。


 ガチャ。


 …………。
 汚ねぇな…………

 ごちゃごちゃと食い物やその袋らしき物が散らばった部屋に眉間に皺が寄ったのを感じた。
 ベッドだけが清潔に保たれているのがせめてもの救いだ。
 取り合えず中に入って、ドアを閉める。
 
 部屋のつくりは俺の部屋と全く同じだ。
 ベッドと箪笥が一つずつ。ベッドが占める面積とそれ以外の面積が全く同じという狭さ。
 一人部屋なんてこんなもんだろうがな。

 菓子の類を踏まぬよう気をつけながら歩き、直ぐに辿りついたベッドの上に勢い良く肩の荷物を放り出した。モヤシの体は派手に跳ねて、すぐに静かになる。
 …………此処までつれて来るのに骨が折れた。
 この埋め合わせ、どうさせてやろうか…………。

「…………う゛…………」
「目ぇ醒めたか馬鹿」
「…………う゛う゛…………」
 
 …………違うのか。
 吐かねぇだろうなこいつ。まぁ俺の知った事じゃねぇけどな。
 
「…………」

 暫く呻いていたかと思うと、モヤシは静かになった。
 寝てるならまぁいい…………そう思って踵を返した俺に届いたのは、小さな声だった。

「…………ナ、」
「?」

 寝言か。

「マナ…………皆…………」


「ごめんなさい…………」
「…………」

 その寝言に――――――わざわざ酔っ払いの寝言に付き合う俺も相当な暇人だと自分を自嘲しながら、ベッドの脇にまで戻る。
 モヤシの頬には、涙が伝っていた。

「…………」
「みんな…………、」

 僕だけ生きてて、ごめんなさい。

「――――――!」




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