「神田、今日の夕ご飯何頼みます?」
「テメェそればっかじゃねぇか…………」
「アレン君、お酒は駄目よ?」
「分かってます…………」

 一日の探索を終え戻ってきた僕らは何時も通り酒場へ向かった。
 酒場以外にも食事が出来るところは色々あるんだけどやっぱり酒場が一番だ。情報収集も出来るし。
 酒場の入り口が見えた頃、僕はその入り口に人がいることに気づいた。…………酒場のマスターだ。

「あ、マス…………」
「おい! ぼうず!」

 声を掛けようとしたら逆に慌てた様子のマスターに呼ばれた。

「あのお人はお前さんの知り合いか!?」
「え?」
「店の中がえれぇ事になってんだよ! 在庫の酒も切れやがった!」

 …………。
 …………。

 まさか。まさか。
 それって、もしかしないでも。

「あのーマスター今すぐ僕回れ右して帰ってもいいですか?」
「「「?」」」

 僕の言葉に、僕とマスターのやり取りからして意味が分かっていなさそうな三人は不思議そうな顔をした。

「駄目に決まってるだろ! 早く店入れ!!」

 そして小突かれてマスターに店に押し込められた僕は予想に違わないその人の姿に、べったりと床に手を付く羽目になった。

「ああああ…………」

 やっぱりね。そうだと思ったんだ。
 嫌な予感はいつでも当たるんだ…………。

「…………ほう。三つ指ついて土下座とは中々分かってんじゃねーか」

 その言葉に、僕は大きく溜息をついて――――――前を向いた。

「…………別にそんなつもりじゃありません。お久し振りですね師匠。殴られて以来です」

 多少の嫌味を籠めて言ったつもりの言葉は師匠に鼻で笑い飛ばされた。

「何だ、記憶喪失にでもなってやしねぇかと心配したが。こいつは重畳」

 店内の一番奥、綺麗な女性を何人を侍らせながらお酒の瓶を煽った師匠はニヤリと笑った。







「え、アレン君のお師匠様…………?」
「あー、つーとあれか、お前さんの借金の…………」
「そうです…………」
「…………」

 師匠に呼ばれた僕は、神田達と一緒に師匠の前に立った。

「しかしまぁ、驚いた。まさかお前がギルドマスターとは…………精々どっかの弱小ギルドで下働きかと思ったんだが」
「仕方ないでしょう入れなかったんだから!」

 そもそも誰のせいだと!

「それも未熟者の分際で綺麗どころ侍らせて冒険か。おいお前ちょっと代われ」
「嫌です駄目です何するつもりですか!? 毒殺されますよ!?」
「何だそりゃ」

 僕達のやり取りにラビは片頬だけで力無く笑った。

「噂に違わぬ人さねぇ…………」
「どういう噂だ? 言ってみろエトランジェの若造」
「え゛ 何で…………」

 突然話を振られてラビは引き攣った顔をする。

「お前の一族…………いや、正しくは祖父さんか。この世界じゃ十分有名人だろ」
「はぁ…………」
「ラビ、紅の銃神って二つ名、聞いたことないですか?」
「へ? あ、ああ、あるけど…………あれだろ? 北方大陸の戦争に参加して侵略国側の軍勢三千を単騎で撃破したって奴。伝説クラス…………の…………」

 言いながら気付いたらしい。僕が何を言いたいのか。
 ラビの視線は師匠の髪へ、そして腰の銃へ。

「微妙に違うな。単騎じゃねぇ、三人だ。こいつと…………」

 師匠は言いながら僕を指さした。

「あともう一人、補給役に連れてったからな。それから三千じゃなくて五千だ」
「「「…………」」」

 事も無げに言い放つ師匠の台詞はラビ達を黙り込ませるには十分だった。
 ええ、大変でしたともあの戦争。銃弾や魔術が飛び交う中、師匠の後ろで震えながらアムリタを投げてたんだから…………。

「つっても大陸縦断で疲弊しきってる兵なんざ薙ぎ倒してみたところで何でもねぇがな。木偶の坊みたいなもんだったか」

 心底どうでも良さそうに肩を竦める師匠は本当にそれを大したことだと思ってない。確かにまぁ、他にも色々やってたしあったから、あの戦闘だけが特に大きいという訳でも無かった。
 …………師匠といるとその辺の感覚狂うんだよなぁ…………。

「おい主人、酒追加だ。…………んで? どうなんだ進み具合は」
「先行するギルドは幾つか。僕らは後発だったので。速さはそこそこ僕らもあるんですが、」
「ふむ」

 先日僕らは、ついにスキュレーさん、いや、氷姫を倒して十七階に上がった。
 そこはこれまでの雪景色から一転して、一面花に覆われた幻想的な空間だった。神田曰くその花は「桜」という花でヤマトの国の国花らしい。
 何でそんな花が此処に…………と思わなくもなかったけど、あるものはあるんだから仕方ない。僕がそういうと神田は「それはそうだ」と頷き、ラビは微妙な顔で笑っていた。
 そんな僕らを順番に見回し、師匠は言う。

「お前ら何で四人なんだ」
「入ってくれる人が見当たらなかったんですよ」

 本当だ。
 それに今更、って感じもするし。

「…………」

 師匠は運ばれてきたお酒の中身を大きなジョッキの中にドボドボと注ぎながら(女の人を侍らせていても師匠は手酌を好む。多分自分のペースで飲みたいんだろう)思案顔だ。
 ふわりと漂ってきたお酒の匂いがこの間の姫リンゴ酒だったから、思わず息が止まる。…………ところでそれってそういうジョッキに注いで飲むものでしたっけ? 神田とラビは小さなグラスに注いでちびちび飲んでた気がするんですけど。
 バケモンだ…………とラビが小さく呟いたのが聞こえた。

「仕方ねぇな」
「はい?」

 何が?

「一週間ばかり時間が空いた。手伝ってやろう」
「「「え」」」
「…………」

 僕と、リナリーとラビの声が重なった。神田は黙ったまま師匠を見ている。
 手伝うって…………探索を、だよね?

 …………手伝うも何も僕の「理由」は師匠の借金返済なんですけど…………。

「明日朝、入り口で待ってるぞ」

 かなり一方的に言い置いた師匠は、「とっとと行け」とでも言いたげな顔で手を振った後で一番近くの女の人の腰を引き寄せた。
 このまま「とんでもないこと」を始めそうな師匠から視線を向け、僕は回れ右した。その瞬間酒場のマスターが「どうにかしてくれよ」と言いたげな顔をしていたけどゴメンなさいその人は僕にも止められません。
 無言のままラビとリナリーの背を押して酒場から出て溜息を付いた。ああ、ご飯…………。
 色んな意味で意味での溜息にリナリーが困ったように笑ってから、

「私、家に帰って何か作ってくるわね」

 …………ありがとうございます。

 僕らはそこで別れ、リナリーは自宅へ、僕らは宿屋へ向かった。

 途中、黙ったままの神田が何を考えていたか、僕にはよく分からなかった。




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