「来ないさね…………」
「来ないわね…………」
「ああああすいませんごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
迷宮の入り口。
僕らは此処で立ったまま、小一時間程待ちぼうけだ。
ラビとリナリーは苦笑顔で気にしない気にしない、と言ってくれるけど…………師匠…………!
勿論師匠の事なんて放っておいて、僕らだけで行くという手もある。だけどそれは後から師匠が来た時のことを思うと非常に、とっても、怖い。
神田は…………無言で樹の幹に凭れかかって眼を閉じている。うう…………このまま怒らないでいてくれるといいんだけど…………
「どうしよ、呼びにでも行くさ?」
「駄目です。きっと呼び鈴押したらお姉さんが出てきますよ」
「そりゃなんとも羨まし…………」
「コホン」
「…………失礼しました」
ラビの不適切なコメントはリナリーの咳払い一つで回収されられた。
…………それにしても、太陽が登り始めた頃に来たのにもう太陽は割と高い所だ。
ああもう…………師匠…………!
僕が何度目になるか分からない溜息を吐いたとき。
「、」
「? 神田?」
神田が、それまで背を預けていた樹から身を起こした。
ひた、と無言のまま遠くを見据えていた神田の視線の意味は程なく分かった。
ふらり、と現れた大柄な影。
「…………ししょー。おそようございます」
「あぁ? まだ朝だろーが」
そういう問題ですか!?
文句が色々口をついて出そうになったけど堪えた。口に出したらどうなるかは長い修行生活の中で嫌というほど教え込まれている。具体的に言うと鉄拳制裁される。
でも流石にあんまりにも腑甲斐無いからラビとリナリーに向かって手を合わせておいた。
「おい、早くしろ」
その声に顔を上げれば何時の間にか神田が磁軸を起動させ、師匠もちゃっかりその隣にいて僕達を待っている格好だ。
慌てて磁軸に向かって僕達も近寄った。
そして桜の花が舞う美しい樹海は、硝煙と血の匂いに塗れることになった。
うわぁ…………早い。
相変わらずな師匠は出会い頭に魔物の群れに片っ端から掃射や跳弾を放って蹴散らしている。確かにこの位の魔物の群れ、師匠にとっては道端の石ころ程度の障害物にしかならないんだろう。そして神田は神田で最初の一刀で狙った魔物を切り捨ててるし…………
僕は元々後衛のラビと、あと後衛に下げられたリナリーの護りを固めるように言われ(後ろから攻撃された時の為だ)、最後尾にいる。誰よりも防御に欠ける神田の護りを抜けるのはちょっと不安だったけれど心配は杞憂に過ぎない。だってワンターンキルだし。
師匠と神田が通った後は魔物の死骸だらけだ。
…………うーん…………もう魔物も出てこなければいいのに…………
「アレン君、野営はどうするの?」
「うーん…………」
確かにもうかなり暗くなってきている。でも前の二人が余裕そうなんですよね…………。あの二人、このまま夜通し行軍でも平気そうな気が…………。
と、突き当たりで前の二人の足が止まった。
「どうかしたんさ?」
「泉だ。野営はこの辺りで良いだろう」
「あ、へい…………」
確かに魔物の気配も無い。いい加減師匠と神田の殺気に気付いてくれたんだと、そう思いたい。
「ありがとうございました。野営の設営は私達に任せて休んでください。神田もね?」
一歩を踏み出したリナリーが優雅に腰を折ってそう言うと、師匠は僅かに笑ってから大きな樹の元へと向かった。神田も少しの間考えるようにしてから、その程近くで座り込む。但し刀はいつでも抜けるようにしたままで。
「日が落ちきる前に設営するさ」
「そうですね。リナリー、ご飯の準備頼めます?」
「ええ、勿論」
僕ら三人は頷きあい、散り散りに自分に割り当てた仕事に取り掛かった。
「…………」
見てる見てる…………凄く見てる…………。
神田は先程から、師匠の手元をじっ、と見つめている。
師匠は木陰で愛銃を分解しての手入れの真っ最中だ。細やかな部品が多いあれがどうしていとも簡単に分解され、そしてあっという間に組み立て直されてしまうのか、本当に僕には謎だけど。
「銃が珍しいか」
「、」
師匠に話しかけられて神田は少し肩を震わせた。僕の耳はダンボになる。
「…………東にはありません」
「あっちはロングレンジは弓だけだったな」
「師姉は弓の扱いに長けていました」
「ああ…………そうだったな。500メートル先の的を容易く射た」
…………。
「大昔、あの娘がそうやって的を射た所為で」
「?」
「それを見たあそこの馬鹿弟子が弓を欲しがって面倒だった」
「僕ですか!?」
突然振られた話題に思わず振り向いた!
「だから覚えてないですって! お団子以外!」
「それもどうなんさ、アレン…………」
「アレン君、ヤマトの国に行ったことがあったの?」
「らしいんですけどそれが全然覚えてないんです…………」
覚えてるのは…………だ。
「仕方無く買い与えた雀小弓も直ぐに馬鹿力で壊したしな」
「ああ…………」
神田が何処か納得した顔で頷く。
…………駄目だ、全く覚えていない。
「なのに当の本人は団子の事しか覚えてやがらねぇ」
ひゅんっ!
「う゛わっ!」
師匠が放り投げてきた何かを辛くも避ける。樹にぶつかって落ちたのは…………銃のメンテナンスに使うオイルの缶だ。
「捨てとけ、空だ」
「普通に渡してくださいよ普通に!」
何でわざわざ頭狙ってくるんですか!
ゴミを散らかすわけにはいかないから、拾って行きはするけど!
文句を言いながら拾いあげてゴミの袋に閉まっておくと、ふと視線を感じて顔を上げた。
…………リナリーとラビが、なから唖然とした顔で僕を見ている。ええ、言いたいことは分かります。
「いつもこんな感じです」
「「…………」」
ちょっと忘れかけてたけどこれが僕の日常だったんだなぁ…………。
遠い目になって遠くを見据えると、ご愁傷さま、とラビが手のひらをくっつけた。
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