俺達は互いに「永遠」も「絶対」も、無いと理解していた。互いの望みの果てに辿り着く時には、俺達はきっと孤独だろう。
 俺は記録者になるという夢の為に。向こうは生きる意味としての探し人の為に。
 今、近い距離にいるとしても、全てはいずれ離れ行くものであると理解していた。

 それが寂しいとは考えないようにしている。

 

 


「   」

 それは唐突に、全く自然に。例えて言うならばそう、おはよう、とかごちそうさま、とかの挨拶でもするかのように、いとも容易く口にされた。

「…………は、?」

 ぱさり、と手元から次に向かう土地についての情報が記載されている紙が落ちた。既に内容を頭に叩き込んであるから用済みだったから、其の先は追わない。
 今、何を言われたんだろうか。言葉が音として耳に入り脳で理解する、その普段全く意識せずに出来ている筈の事が何故か今日の今この瞬間、出来ない。音を牛のように反芻されて理解するまでに要した時間はたっぷり十秒間。 余りにも自然で、食堂のざわめきに紛れてしまうような何気なさ。なのに、見事にその音を拾い上げた自分の耳の優秀さを今だけは恨みたい。
 しかも、その音、いや言葉の発信者は俺がその横顔を凝視しているにも関わらずそ知らぬ顔で好物を啜っている。つまり、きっと今のこれは俺の都合の良い聞き間違い。きっとそうに違いない。

 聞かなかったふりをしよう。

 そんな思考に勘付いたらしいユウは横目で俺を見た。

「おい」

 低い咎めるような声。そんな声出されたって、――――――、だ。

「あー、うん、えーと?」

 何ですっけ? と曖昧に笑う。
 途端にユウの眼光は鋭くなる。何時もだったら逃げるか宥めるかで悩む所だけど、今日はそれどころじゃない。
 先程俺が理解した内容を反芻する。
 だってそんなの、だ。
 暗黙のルールだった筈だ、そんなような事は口にしない、そもそも胸中で抱く事すら許されない。気づいてしまったら離れるしかないからだ。適度を通り越した近さは、何れ望みの為に独りになると決めていた俺達だからこそ、分かれ道が来た時には振り返ることもなく必要な方を選び取れると思っていた俺達だからこそ、だったのに、どうして残り少なくなった平穏を愉しんでいるはずの今にそんな事を。

「おい」
「へ、」
「それで、返事は?」

 何時の間にかユウの目の前の蒸籠は空っぽだった。まずい。逃げられない。聞こえなかった振りで逃げ出すタイミングを完全に失った。
 返事、と極当然のように要求するユウの顔は至って普段通りだった。悲壮感も無いし躊躇いも無いし、…………勿論アレに焦がれている少女的な表情もしていない。いやユウはそもそも少女じゃない。

「えっと…………新しいジョーク?」

 瞬間思いっきり顔を顰められて(それは泣き出しそうな顔にも見えたけど違う、主に目つき的なものが)、あぁこの答えは外れも外れ、大外れだと悟る。知ってたけど。

「テメェじゃあるまいしそんなつまらねぇ冗談なんざ言うか」
「デスヨネ」

 ですよねー。
 あ、駄目、頭ぐるぐるしてきた…………。
 思わず頭を抱えてテーブルに突っ伏す。目を閉じてちょっと現実逃避的な気分になっていると、つむじ辺りの毛を引っ張られた。

「返 事 は?」
「…………うぁー」
「イエスかノーかで訊いてんだよ答えろ。ノーなら十文字位で理由も言え簡潔にだ」
「なにそれ難しい!」

 そんな要約スキルは持ってない!
 知っている癖に、俺にはイエスにもノーにも理由があることを!
 何だかどんな顔をしていればいいのかも分からなくなってきて、突っ伏したままでいる。
 不意に抜こうとするかのように引っ張っていた髪をユウは手放した。
 周囲に憚るように少しだけ抑えた声量で、呟く。

「もう、俺の願いは叶った」
「――――――!」

 呟かれた内容に顔を跳ね上げた。
 意味が分からない訳じゃない。例の件――――――ユウの探し人、そしてアルマ・カルマの件は聞いていた。目の前の当人と、それからその場に居合わせたアレンから(そしてどうしてその場に俺は居られなかったんだろうと、少しだけアレンに妬いた)聞いて。

「お前は勝手に好きなトコへ行きやがれ。…………が、」
「ユウ、」
「人の中に土足で入り込んできたのはお前だ。――――――思う存分追いかけてやる。逃げられると思うなよ」

 そんな不敵な台詞で、ユウはにやり、という表現がぴったりな笑顔を浮かべた。

 


 きっと俺達が「  」を手にする日は近い。






 背負ってたものが昇華されたされて色々とふっきれた神田がラビを追いかけ回す宣言。
 ラビュです。ラビュ。ユウラビではありません(と言い張る)
 私が考えるラビュの、一番幸せな未来。


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