※軽く性的表現あり。及び、ラビュ以外のカプ表現がありますのでご注意下さい。神田にビッチ疑惑あり。※









 あれから、初めての任務を終えてから俺は神田を良く視線で追っかけるようになっていた。
 新人の上に厳密に言えば教団のメンバーではない俺なんかよりも神田の出動回数は断然多く、帰って来たと思ったらまた出て行く、その繰り返しだ。
 時折あの後にも組んで任務に出たが神田はその度にファインダー、もしくは知らない相手――――――恐らくは男だろう――――――と行きずりの関係を持っていた。既に俺が一度見ているからだろうか、全く俺に気を使う様子はない。あられもない最中の姿を見せつけられることがないだけ、まだマシだろう。
 任務に出る度に、首筋の違う場所に紅い跡を付けて帰って来ている事に気づいている人間は一体どれだけいるんだろうか。

「あー、クソッ」

 集中できない。何時もなら容易く脳に入ってくる筈の本の中身が、全く入らない。目の上だけを滑っていって、それで終わっている。
 苛立ちを籠めて思わず舌打ちすれば、そういえば神田も良く舌打ちするな、とそんな事を思い出して余計に苛立った。

 誰か一人に感情を向けるのは、ブックマンとしては禁忌だ。
 忘れてはいけない、此処を訪れた理由。場合によっては容易く「向こう側」へ行くだろう俺達の立場。

 深入りするな、とまだ冷静な部分の自分が言う。
 けれど同時にこんな状態になっている以上、最早深入りも何もない、と諦め気味に考える自分もいた。

 どちらにしろ、許容できる事じゃなかった。
 心にしつこく居座る相手が、よりによってあの神田などと。

「…………あぁ、」

 頭に入れることを諦めた本を閉じた。
 内容に対して気乗りしないに違いない、と無理な理由を付けて別の本を探しに外へ出た。


 それが間違いだった。


 幾つもの蔵書を保管している図書室。
 紙とインクの匂いに心を癒されて、適当に辺りから引っこ抜いた本を抱えた、そんな俺の耳に届いたのは、男の荒い息遣いと淫猥な水音、肉同士を打ち付け合う音。

「…………」

 嫌な予感がした。
 どちらにしろ、こんな所で性行為に及ぶような奴がまともな神経をしているとは思えない。
 関わり合いにならないのが吉、そう分かっていたのに。

 それでも抗いがたい引力に負けて、俺は覗いてしまった。

 予想通りだった。
 読書の為のテーブルに腕を突いて、団服のズボンだけを脱いで男と交わっていたのは神田だった。
 神田の腰と髪を掴んで後ろから犯す男の呼吸は荒く、多分終わりも近いんだろう。だけど神田の表情は随分と冷め切っていた。横顔も、微かに朱が差している位でいっそその目の冷たさなどは初めて出会った時以上だ。時折強く髪を引かれて、不愉快そうに眉根を寄せている。

 分かっていた筈なのに、少なからず衝撃を受けて、思わず抱えていた本を取り落とした。
 その音に、丁度いいところだったんだろう相手の名前も知らない男は気付かなかったけど、神田は確かにこちらを見た。
 少し驚いたように片眉を上げ、それから、


 心底俺を嘲るように、唇の端を跳ね上げた。


 他人の性行為なんて目にしたところで今更どうにかなるほど子供じゃなかったし、禁欲主義者でもない。
 だからどうって事は無いはずなのに、だけど。

 微かな欲情を見透かされたような気がして、背中が泡立った。






 神田の相手の男に気付かれる前にと、気配を消しつつ図書室を出て自室に戻った。
 ベッドに転がって溜息をつく。ジジィがいないのは幸運だった。

「…………」

 忘れろ、忘れたい、忘れられない。
 どうしてこうなるんさ。
 記憶に残すべきものの取捨選択位、出来る筈なのに。

 体の奥に熱が燻っている。冷ます方法は勿論知ってるけど、だけどそれでは負けた気がする。あんなのに当てられて欲情したなんて、死んでも認めたくなかった。

「くっそ、」

 本日何度目かはカウントするのが馬鹿らしくなる悪態をついたとき。

 ドアが、乱暴にノックされた。

 ベッドから飛び起きて、ドアの前に立つ。相手に誰何する事は忘れてドアを開いた。

「はい、誰? …………っ」

 息が、止まった。

「…………」

 一瞬言葉を忘れて立ち竦むと、そこに立っていた神田が俺の胸を強く押して下がらせた。応じて一歩踏み込んできて、後ろ手にドアを閉めて、…………鍵を掛ける。
 ぽた、ぽた、と髪の先から雫が滴っている。シャワーでも浴びてきたんだろうか。…………そりゃ、あんな事の後だ。
 雫に濡れた白いシャツから素肌が透けて見えて、思わず目を逸らした。

「何の、用さ?」
「…………」

 暫く入って来た所で黙って俺を見ていた神田は、たっぷり十秒位置いてから皮肉げに唇の端を吊り上げて、言い放った。

「お前、俺を抱きたいんだろ。いいぜ、ヤらせてやるよ」
「――――――…………」

 絶句。
 というのがこれほど似合うシチュエーションは、これまでになかっただろう。

 隠していた筈の欲望に気付かれていた恥ずかしさよりも何よりも、言われた内容に二の句が継げない。

 …………抱く? 俺が? 神田を?

 やっぱり何も言えなくて、俺はただ傲然と佇む神田を呆然と見つめるしか無かった。






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