終業時刻丁度、チャイムと同時に席を立った。
 周囲にも今日は用事があるから定時で帰る、と予め宣言してたから皆が口々に「お疲れ様でした」と声を掛けてくる。
 残業組に手を上げて応えて、足早に開発室を出た。
 チームの奴らによると、最近の俺は彼女ができたんじゃないかと専らの噂、らしい。残念なコトにハズレさ。少なくとも彼「女」じゃない。というか付き合ってもない。但しも躰の関係は既に一度ある、なんて言ったらきっと遊び人扱いされるだろう。
 今日の予定は飲み。遊ぶことに詳しくない相手だから店は何時も通り俺が選ぶ。平日だから特に予約などはしていない。予約が必要な類の店に連れて行ったら相手の性格的に引くだろう。転職してからこの会社で貰ってた給料の七割程度になったとかで経済的にも余り楽じゃないらしい。ほぼ全額会社負担だった社宅からも出て自腹切ってアパートに引っ越したのも大きいだろう。奢る位なんてことは無いけれど向こうはそういうのを嫌がる。嫌がられて誘いに応じてもらえなくなるのも困るから、何時も割り勘だ。
 適当に安くて適当に入りやすい居酒屋、と決めてさて何処にしたものかと携帯の画面を表示させ――――――未読メールに気付いた。
 送信者は今日約束している相手。タイトルは「悪い」だったからこれはお断りか、と残念に思いつつ開いてみた。案の定、「今日行けなくなった」との事。
 了解の旨と、一応理由を訊ねるメールを送り返しておく。まぁ会社勤めしてればそんな事だってある。外せない仕事とか、急な残業とか。
 先程までの少し浮かれてた気持ちは沈み気味だ。仕方ない。
 一人で飲んで帰ろうか、それとも職場に戻って残業に入ろうか、と考えているとすぐにリターンが来た。仕事で忙しいなら煩わせた事だろう。
 だが中身を見て、俺は絶句した。


『アパートが火事に遭って焼け出された』


 驚きのあまり会社から出てすぐにタクシーを捕まえて、二十分程で着いたそこはまだ野次馬が高みの見物中で混み合っている。既に火は消し止められていて、辺りには色々な物が焼け焦げたような臭いが漂っている。赤いパトランプいが周囲を照らしていた。警察も来ている。人ごみを掻き分けて前へ前へ出ていくと、ロープで立入禁止にされた内側で消防の人間と何やら話している複数の人間。誰も彼もが着の身着のままだ。多分焼けた建物の住人達だろう。その中には神田の姿もあった。

「神田っ!」
「…………ラビ?」

 俺が呼ぶと驚いたような顔をした神田がゆっくりと近づいて来た。頬が煤でも付いたのか黒くなっている。

「怪我は!? 大丈夫なんさ!?」
「あぁ。帰ってきて直ぐだったからな。――――――家財道具は焼けたが」

 神田は、ふぅ、と疲れたように笑った。火傷を含めて怪我は無いように――――――見えなかった。足を引きずっている。

「その足、」
「少しな。逃げる時、他の奴らとぶつかった」

 庇いながら足を引き寄せて神田は少し眉根を寄せた。

「…………。原因は?」
「さぁ。失火か放火か。捜査が入るらしいが」
「偉いことになっちまったさね…………」
「全くだ。越してきて早々こんな事になるとは思ってなかった」

 神田がこのアパートに越したのはたった一月前だ。
 引越し早々こんな目に遭うなんて…………

「これからどうするんさ?」
「取り敢えずはニ、三日ホテルにでも泊まる。その後引越し先探して…………」

 心底億劫そうに溜息を吐いた神田に俺はふと思いついたことをそのまま口に出していた。

「じゃあ、暫く俺ん所くればいいさ」






2

 そして同棲へ。
 最早「オフィス」ラブではないのでタイトルが変わって続き。