俺が嘗て伴侶となることを約したのは、同族の幼竜だった。
 当時は俺もまだ幼竜。俺よりもほんの僅かに先に産まれたソイツとは同じ巣穴で育てられた。
 共に強力な、黒のストレート同士だった俺の両親達は高齢で父親は俺の顔を見ること無く、母親は俺が孵化してまもなく寿命で死んだ。それでも最後に念願叶って子を授かったのは幸福であっただろうと誰かが話していた。誰だっただろうか。
 同じ巣穴で育てられたその兄弟分のような存在は名をアルマといい、俺とは違い他族の血を持っていた。黒竜だったという母親は卵を産むときに運悪く亡くなり、父親は他族でありまた伴侶でもなかったという。親のない俺達は常に身を寄せ合って過ごしていた。同族の手厚い庇護を受けた俺達は親がいなくとも何一つ不便なく、飢えることも凍えることもなく暮らしていたが極幼少時の幼竜は他の種族と同じように母親の傍にいることを望む。けれどそれが叶えられない願いと理解していた俺達は寒い日も暑い日も寄り添って寂しさを紛らわしていた。
 歳が近く同じような能力を持っていた相手だ、伴侶にと望むようになるのは時間がかからなかった。ただ一つ、俺達は双方共に雄だったから子だけは望めなかったがそれでも良いと思っていた。

 それが叶わなかったのは、アルマが死んだからだ。

 その日、俺達の住処である東部峡谷は数十年ぶりに嵐に襲われた。
 丁度その日俺達に食べ物を持ってきたティキに、危ないから巣穴の出入り口にはけして近づかないようにと言われた。大人の竜なら雨と変わらない嵐でも、子供の俺達には脅威となる。その頃、俺達は満足に飛ぶこともできなかったからだ。
 大人達は俺達を交代で見守っていた。そんな間の、極短い隙間の時間。先に番をしていた竜が交代だと次の番の竜を呼びに行ったそんな瞬間。

『お母さんの、声がする』

 そう言って出ていったアイツは二度と戻って来なかった。
 嵐に打ち付けられ転げ落ち、麓で死んでいたのが見つかったのは二日ほど経ってからだという。

 突然冷たくなった寝床も、何の声もしない巣穴も。
 慣れるしか、無かった。

 一生添い遂げようという約束を護るため同族すら遠ざけて生きてきたのに、此処数年は寝床に小さな暖かいものが一つ、あったりなかったり。デカくなってからはわざと遠ざけた。
 なんてことはない、そう思っていたのに、

「…………寝れねぇ」

 久しぶりの谷底、自分の寝床。
 約束通り綺麗に保たれているアルマの墓前で丸まっても、一向に眠気は襲ってこない。
 それは近くにあるべき気配が無い所為か、それとも季節の所為か。
 仲間の巣穴前を通った時、既に始まっているらしい気配を感じた。伴侶達のシーズンを邪魔するのは忍びなく、わざと気配を消してその前を素通りした。シーズンが終わる前には俺はまた戻るから、今年も顔を合わすことはない。

 谷底から仰いだ空は満天の星。人里にいると灯りの所為で見えないからこの景色を見るのも久しぶりだった。
 それを好んで此処に住処を構えた程なのに、今気がかりなのはそんな事じゃなくて。

「…………」

 今は離れた小さな俺の契約者。
 出迎えの両親に飛びついて笑っていた子供は、恐らくはもうじき雄になる。
 だから何という事もないが、庇護するように言われている立場としてはその時に傍に居なくてよかったのか、少し考えた。
 最も俺は人間の生態など殆ど知らないので、その意味で役立たずな俺が傍にいるより同族の大人が居たほうが断然良いだろう。

 だが。

 子供から大人になって、子を成せるようになって、子を成して子を育ててそして当人は老いて行く。俺達と変わらない流れだが人のその速度は早すぎる。
 当然過ぎる知識の現実を突き付けられたみたいで、どきりとした。
 健やかなれ、と願う反面何時までも小さなままでいて欲しいと願うのは余りにも身勝手なのだろう。人間とは俺達とは違う生き物なのだから。
 自ら命の繋がりからはみ出したくせに、我ながら随分勝手なことを願うものだ――――――そう自嘲して、目を閉じた。









「ティキ」

 いつもなら宿舎の食堂であるそこは今は「補給所」と札をつけかえられている。
 既に雌と一戦交えた後の喉の渇きを癒すため、半裸の姿のまま置かれていた瓶の酒を飲み干していたティキは掛けられた声に振り向いた。

「おぁ? あぁ、赤の長。お久しぶりです」

 ティキは存在を聞いていた赤の長の養い子の姿が見えない事に内心安堵する。今の自分の状態も周囲の状況も、子供に見せたいものではない。
 宿舎一角。
 何時もならば人間と竜が暮らすそこは、今は竜の姿しか無い。半裸に全裸と視線のやり場に困るような格好の雄雌がうろついているが、誰も恥じらったりはしない。それどころか雌はうすぼんやりとした目、雄に至っては鬼気迫る表情。
 繁殖期に入った竜は常より粗暴だ。人がいれば巻き込まれかねない。

「随分とやるじゃねぇか」

 ティキの腰に纏わり付き鼻を擦りつける――――――この雌はどうやらティキが気に入ったらしい、ティキのテクニックを気に入ったのかティキの遺伝子を気に入ったのかは知らないが――――――雌を見下ろしてクロスは笑った。歳も子をなせる程度には近く、力の順位も近い雌だ。子を成す為には丁度良い相手で、ティキの選択にクロスは満足した。シーズン中の子の出来具合が悪いと他の色種の長に文句を言われるのはクロスなのだ。

「あー…………はいはい、ちょっと待てって。まだ相手するから…………長は雌は?」

 纏わり付く雌の青味がかった髪――――――青竜種だ――――――を撫で付けながら続ける。
 雌の格好も上を肌蹴たティキのそれと変わらぬ姿だ。

「後でな。出来具合を確認しなきゃならん」

 人と共に暮らす竜の責任者を務めるクロスは心底面倒そうに呟いた。
 此処でこの季節の揉事解決、子が出来るかどうかの管理も任されているのだ。
 基本的に気が長く同族間の争い事は回避する竜族だが年に二度のシーズンだけはそうも言っていられない。事に雄であれば尚更だ。同色種の仲間ですら自らの子を残せるかどうかという時には敵になる。
 既に数件の雌を巡っての雄同士の小競り合いを調停し(その雌はとっとと別の雄と交わっていたが)、雄同士雌同士で交尾していたペアをさりげなく引き離し(当人かどのような性的嗜好を持つかは自由なのだが、特に拘りがないのに繁殖期に同性と交わるのは止めてほしいところだ、折角の子が出来るチャンスなのだから)あちこち歩きまわっている所為で腰を落ち着ける事も出来ない。また能力的にも長の子を孕めるレベルの雌は稀だろう。顔を出してはいないhが青の時期女王だと目されている少女であれば別かもしれないが如何せん彼女は余りにも若かった。
 竜としては既に成熟しきった壮年の雄だが長の中では最も年若い為他の長にいいようにされているクロスの事情を知っているティキは苦笑い顔で、

「期待に答えられる様、頑張りますよ」
「あぁ」





 そして熱く激しく一部は静かに、春の夜は更けていく。




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 ラビュなのにラビがでないというね。
 次回ラビ更に成長。18にします。そうしないと何時まで経ってもまともにラビュにならない。


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