うつら、うつらと船を漕ぐ。
 陽だまりの中、思い出すのは小さな高い体温と、太陽の匂い。
 歓声を上げて飛びついてくる小さな体を、幾度抱きとめただろう。ラビからふわりと香る同族には有り得ない匂いは、最初こそ違和感を感じたけれど嫌いじゃない。
 小さな指が、俺の唇に触れて――――――

 そこで、目が覚めた。

「…………。近ぇよラビ」
「え? そう?」

 草むらで転寝していた俺の直ぐ側、顔を寄せてまるで覗き込むようにしていたのは今さっきまで夢で見ていた小さな子供、の成れの果て。
 最早子供ではない。立派な体躯の、人間の大人の雄だ。本体はともかくとして俺がこうして人の形をとっている時など、既にラビの方が背丈も肩幅も大きい。
 産まれて二十年も経たない内に大人になるとは、成長の早い生き物だ。同じ頃出会ったはずの白い子竜は変わらず小さなままだというのに。
 けれど立派なのは体格だけで、

「、こら、やめろラビ」

 俺の胸に頬を付けて、目を細めて喉を鳴らすその姿は子が親に甘えるそれと大差ない。
 相変わらず柔らかい髪が胸を擽り、くぐもった笑い声を漏らした。

「胸だして寝てるユウが悪いんさー。誘ってるの?」
「何にだ?」

 服をはだけて寝ていたのは単に暑かったからだ。それ以上でもそれ以下でもない。大体誰を何に誘うっつーんだ?

「…………まぁいいけどさ。呼び出しきてるよ」
「じゃあ早く起こせよ!」

 文句言われるのは俺だぞ!!

「だいじょぶ、そこまで急いで無いっぽかったし」
「そういう問題じゃねぇよ」

 随分悠長な事を言ってくれる。軍属の竜と竜使いには司令部の呼び出しには即応義務があるというのに。
 スクールを卒業し正式に竜使いになったラビと共に俺も軍属になった。
 戦争が始まると最初に前線に送られるのが竜と竜使いだ。俺達竜に取ってみれば他国の人間など何ら危険は感じないが同じ人間であるラビ達竜使いはそうでもない。勿論契約相手の竜が全力で護るがそれでも背に乗せていた竜使いが流れ弾に当たって死んだというのは良く聞く悲劇だ。
 危険な事であるから軍に入ることにあまりいい気はしなかったがラビの決定だ、従う事にした。ラビ曰く数年在籍すれば年金とやらが貰えるようになるとかで、支給要件を満たすまでの我慢だと言っていた。良く分からん。
 先に立ち上がったラビが俺に手を伸ばした。

「さ、行こう?」












「森の中?」
「あぁ」

 呼び出されていった先は何という事もない、この施設の中にある森の中を巡回してこいという内容だった。
 巡回も何も、そこにいるのは竜と野生動物だけの筈だが。竜だけならともかく肉食の野生動物が犇めく森に密猟者は出ないだろう。

「最近、登録外の竜がいるっつー噂を聞いた」
「登録外の竜…………」

 この施設にいるのは人と契約したかするつもりのあるかの竜で、それらは全て軍により登録されている。
 その登録に無い竜というのはシーズンか、若しくは色種の遣いでもない限り滅多に来ない。
 別に居た所で問題はないが…………

「随分気が立っているらしい。うちの下っ端が当たられたと聞いた」
「赤竜じゃないんさ?」
「だったら俺が知らん訳ねぇだろうが。青の奴らしい」
「…………」

 下位とはいえ好戦的な赤竜種を退ける位ならば相応の力があるのだろう。
 青竜種もどちらかといえば温厚な種だったはずだが。

「分かったらとっとと行け、新人共」

 しっしっ、と手で追い払うような仕草をされて憮然とした俺は、「はーい」と物分かりの良さそうな返答をしたラビに手を引かれて赤の長の部屋を辞去した。





 →12


 でっかくなりました。
 既に狙ってる。

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