「ラビ」
「ジ、ジジィ?」
「あの黒竜が見つかるまで戻ってくるなよ」
「う、うわぁぁぁぁん!」
辺りにはけたたましくラビの泣き声が響く。
森の入り口。姿を消してしまった黒竜を探してこいと祖父に命じられラビは早くもくじけていた。
「…………」
ラビの泣き声にティキはそわそわとした、心配そうな顔をしている。だが赤竜王に「手を出すな」と視線で威圧されているため、それ以上のことはしない。
「ほれ。行ってこい」
「うー…………」
ぐす、ぐすと鼻を啜りながらラビは追い立てられるようにして森の中に入っていった。
「…………心臓にキツい…………」
そんな頼りない後ろ姿を見送りながらティキがボヤく。
竜族は、幼子を大切にする。それは同色種同族に限ったことではなく、獣や人の子であってもだ。
子供は造物主からの授かり物。どの種族であろうとも大人になるまでは神のものであり、それ故に大切だ――――――それが竜の本能。親を亡くした他種族の子供を竜が育てるというのは、よく聞く話でもある。
故に、幼い子供が泣いて怯えているという状況に心を乱さない竜はいない。
眼前の赤竜の長はそんな様子は露程も見せないが…………。
小さな泣き声が森の奥へと消えて行き、そんな様子をティキは眉根を寄せて見守っていた。
やがて日が暮れ、夜になると他の竜や人間達は引き上げていき、森の前に残ったのは赤竜の長とラビの祖父。
ティキも残ろうとしたものの「休め」と命令されてしまえば逆らうことはできない。
残った二人は、ただ吉報を待っていた。
「うぅぅぅ…………怖いさー…………」
暗い森の中。何時の間にか日は沈んでいる。当て所なく森の中をさまよっていたラビは疲れ果てていた。
暗闇の中動きまわるのは危険だというのは子供のラビでも分かっている。
故に大人しく、大木の木の根に体を預けて蹲る。ポケットに入っていたビスケットとキャンディは先程食べてしまっていた。空腹でより心細くなる。
森に住まうのは何も竜だけではない。肉食の獣だって居る。寧ろ竜よりも他の獣の方が恐ろしいだろう。彼らとは意思疎通ができないのだから。
「寒い…………」
カタカタと震えるラビはより暖かい場所を求めてもそり、と動く。落ち葉の中に入ったラビは、そのままうとうとし、眠り始めた。
自分をじっと見据える、漆黒の視線には気づかないままに。
「…………?」
朝露に顔を濡らされてラビは目覚めた。
寒さを覚悟していたのに体は不思議とポカポカ温かい。
見れば体の上には柴を編んで作ったような布のようなものが掛けられていた。
「…………?」
ラビはもう一度首を傾げた。
「…………お腹空いたさー」
小さく呟き、食料を探しに森の奥へと入っていった。
子供ながらに竜使いとなるべく教育を受けて育ったラビは、食べられるモノと食べられないモノの区別くらいはつけられる。
小さな赤い果実に手を伸ばし、口へ運ぶ。
そんなラビの目には、ふとたわわに赤い実を付けた枝が目に入った。
「…………うん、しょっ、」
小さな体で精一杯手を伸ばし枝を掴み――――――
「馬鹿、やめろっ!!」
誰かの怒鳴り声が聞こえた。
ずるっ
「え?」
ふわり、と体が浮く瞬間。目の前にはぱっくりと口を開けた暗くて深い崖の穴。
落ちて行く、理解するまでに暫く掛かる。掴んでいた果実は宙に浮いた。
「あ…………」
落ちる。
そう理解した瞬間には意識を手放していた。
驚いた。
てっきり、追ってくるのは赤竜の長かティキだとばかり思っていた。
どうせ文句を言われ、赤竜の長ならば俺を殴りつけるだろう、そう思っていた。
なのに、森に入って来たのは小さい人間が連れていたもっと小さな人間の子供。泣き声が響いて聞こえたすぐに分かった。
別に、気になったとかじゃねぇ。ただ、煩かったから見に行っただけだ。
ぐずぐずと泣いていたガキは夜になっても森から出ないでその場で寝こけはじめた。夏でもないってーのに、防寒の毛皮も鱗も持たない、弱っちい人間のガキがだ。
余りの無防備さに人型を取って近づいてみた。案の定森の狼達が近くにいて、そのままにしといたらきっとあのガキは食われていた。敏感な狼は俺が近づくと怖気付いて逃げ出したが。
仕方ない、たまたま持っていた寝床に敷くための敷物をかけてやった。ずっと竜の群れにいた俺は余り見たこと無かったが、人間のガキというものは竜のガキの何倍も脆くて弱い、らしい。暑くても寒くてもすぐ死ぬと聞いている。
勝手に森に入って来て勝手に寝てるんだし、別に死なれて困る訳じゃねぇけど。でもガキに対して物事の道理を説くのも間違ってる気がする。ガキは無条件に守られるものだ、ついこの間までの俺がそうだったように。
人型のまま、ガキが根元で眠っていた木の上に陣取る。此処からならガキが見えるし、ガキに近づく奴も監視できる。そもそも俺の、竜の気配を感じながらも近づいてくる奴なんて見たこと無いが。…………別にガキに近づく奴を監視する必要なんて、無ぇけどな。
朝になって目が覚めたらしいガキはもそもそ動き始めた。しかし鈍い。あのガキが産まれてからどのくらいなのかはしらねぇが、あの鈍さは竜で言ったら孵化したてなんじゃねぇのか。でもならなんで母親が傍にいねぇんだ?
ガキは飯を探してたらしく何やら赤い実を取っては食っている。自分で餌を取れるなら俺が思っているよりデカイのかもしれない。人間のガキの事なんて知らない。
だが、馬鹿なガキは調子に乗って崖近くの枝にまで手を伸ばした。
「馬鹿、やめろっ!!」
思わず叫んだ頃にはもう遅く、ガキは葉っぱが落ちるみたいに、崖の下に落ちていった。
→4
竜族設定。
・子供には無条件に甘い。雌雄差は特に無い。
・子育ては群れ全体でするもの。母親は人間の乳児期に当たる幼竜の頃しか母親としては世話をしない。
・乳離れして子竜になると群れの住処の一番安全な巣穴に移されて、周囲の大人達が持ってくる餌を貰って育つ。
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