翌朝。
「史上最年少」
「あ?」
「あの、お前と契約したオチビさんだよ。五歳のテスト終了直後に竜と契約したのはあの子が初めて」
「…………へー」
どうでもいい。
そんな顔で気のない返事をする神田にティキは苦笑する。
国立竜族友好研究所――――――通常は単に研究所と呼ばれる施設内の、竜と、竜とペアリングした竜使いの為の宿舎の食堂。
食後の緑茶を啜っていた神田はティキの皿の上にでん、と横たわるものに眉根を寄せる。
「ゲテモノだ」
「お黙りベジタリアン」
「青の奴らでもなきゃ魚なんて食わねぇだろ普通…………」
こんがりとローストされた魚に渋い顔をする。黒竜の住居には海はない。川はあるので僅かに小さな小魚程度なら目にしたこともあるが、今ティキの皿の上にいるような大型の魚を目にしたのは神田は初めてだ。川魚も好まない神田にはどちらにしろ「妙なものを食っている」という印象しかない。
ざく、と首元にティキの握るフォークが突き立てられたのに心底イヤそうな顔をして神田は目を逸らした。
「契約は出来たっつーのにこれから十年以上スクール通いっつーのは面倒だよな。人の時間で十年なんて長いだろうに」
「十年? …………スクール?」
何のことだ、と眉根を寄せる神田にティキが、
「此処の裏手にあるでっかい建物。ガキがわらわらしてるでしょ? あれがスクール。正式名称はなんつったかな、忘れたけど。これからオチビさんはあそこに十年通うんだろ」
「あそこって竜使いになる前の奴が通うんだろ。ラビは俺と契約してるじゃねぇか」
「それが教えるのは単に契約の方法だけじゃなくて俺達の生態とか法律とか色々あるらしいよ」
「…………その間俺はどうしてろっていうんだよ」
「さぁ? 昼寝でもしてボーっとしてればいいんじゃない?」
「テメェ…………」
無責任にすら聞こえるティキの台詞に神田は剣呑に目を細めた。
しかしティキはどこ吹く風で、
「十年なんてすぐだよすぐ。あっという間だ」
「チッ。ジジィの言うことは違うな」
「ちょ、ジジィって俺お前のすぐ上! 直ぐ上なんだから!!」
ティキの抗議をさらりと流した神田は、ふと気配に振り向いた。
食堂入口。そこには祖父に伴われた、
「ラビ」
「…………、…………ユウ!」
周囲に犇めく竜達に怖気付いていたようだが、神田を認識するなり満面の笑みを浮かべて飛んでくる。
小さな体を抱きとめた神田に、
「随分懐かれてんじゃん」
「…………知らね」
柔らかい猫のような赤い髪を撫でてやりつつの言葉にティキは笑い、そして。
「じゃあ俺、そろそろ行くわ」
「行くって何処にだ?」
「そりゃお前、谷に帰るに決まってんだろ」
「…………え」
告げられた言葉に神田は目を見張る。
「元々お前が契約するまでってじーさまとの約束だもん。もう帰らねーと」
「…………そうか…………」
「そんな不安そうな顔しないの。赤の長にお前さんの事はよくよく頼んでおくからさ」
ちゅ、と小さな音を立てつつティキが神田の頬に口付ける。
「お前の住処の事は任せとけ。――――――アルマの墓にもちゃんと花は供えとくから」
「…………」
「最後にするけど、神田」
「?」
低く、そして下げられた声量の言葉は神田以外には届かない。
「…………そのオチビさん、可愛がってやんな。でも、愛しちゃ駄目だ。人は脆いんだ、脆くて儚い俺達とは違う生き物なんだ。いいな?」
「…………分かった」
素直に頷いた神田の頭を一つ撫でて、「いい子だ」と笑ったティキは皿を片手にテーブルを離れた。
「…………? お兄さん竜さん何処か行っちゃうんさ?」
「アイツは谷に帰るんだ」
「谷? 谷って何処さ?」
「東の方にある」
ラビを抱き上げ膝の上に載せた神田はまるで問答のようなやり取りを続けている。
そんな神田を入り口辺りで振り向いて見ていたティキに、
「帰るんだってな? ティキ」
「うわ、赤の長。…………あんた本当に気配ないね…………へい、帰ります。うちの末っ子のことも後はお願いしマス。またシーズンになったらお世話になりに来ますよ」
「あぁ。イェーガーに宜しくな。春だけじゃなくて秋も来い、若いのは何人いてもいい。特にお前くらいの力の奴が一番潰しが利くからな。どうせユウは協力しようともしねぇだろう」
「って秋仔は育ちにくいじゃねーすか…………」
二つの足音が静かに食堂から離れていった。
人は脆い、脆くて儚い。俺達よりも早くそしてあっという間に死ぬ。
忘れてはいけない、けして。
俺は「竜」なんだから。
置いて行かれるのは何時だって、俺達の方だ。
→6
邂逅編(別名:ラビショタ編)終わり。次回いきなり成長してます。
竜は個体差があるものの大体三千年ちかく生きる。力が強い個体程長命になるので神田は相当長生きする。
多分黒の長は五千年とか生きてる。
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