「!?」
突如として響き渡った竜の咆哮に教室の硝子窓がビリビリと震えた。
「…………ユウ?」
怒り狂った竜のそれは聞き覚えのある声。
ふ、と眉根を寄せた傍にいた赤竜種の青年が窓に駆け寄った。
「うわ、ヤベェな。悪ぃ、ちょっと出るぜ!」
「あっ!」
窓を開くなり彼はそこから飛び降りた。
地面につく瞬間には竜の姿に戻っている。ふわりと浮かび上がったその姿に、未だ竜使いではない子供達は歓声と恐怖の声をあげた。
彼の向かう先は砂場の方だ。
「先生、俺も行ってくるさ!」
「あ、ラビ!?」
教室から駆け出す瞬間何やら言われた気がしたが、そんなもの聞いては居なかった。
「わっ!?」
砂場についたラビはその場の惨状に思わず声を上げた。
竜の姿をとっている神田が、自分より遥かに小さい――――――大きさで言えば三分の一も無い――――――子竜を口に咥えている。胴を咥えられて持ちあげられている白い子竜はジタバタと手足を動かし暴れて精一杯抵抗しているが、まるで効いている様子はない。
「キィィッ! キィィィィ――――――!」
子竜が悲鳴を上げた。
「ユッ、ユウ、駄目、ちっちゃい竜さん食べちゃ駄目さ!!」
離れた所にいたラビを認めて神田はちらりと視線をやった。
「食おうとしてるんじゃねぇよ」
「赤い竜さん?」
「竜は同族なんざ食わねぇ。躾だなありゃ、牙も立ててねーし…………でもどうすっかな、長がなんてゆーか」
「キィ――――――! キィィィィィ――――――!」
困ったように頬を掻く赤竜は助けに行くつもりはないらしい。その間も子竜はもがいている。喉で唸り声を上げている神田は怒っているのだろう。
困り果ててその場で見上げていると、
グォォォォォォッッ
「「「「!」」」」
低く、迫力のある咆哮が響き渡った。
声量もその低さも神田のそれとは相当異なる。
出所をキョロキョロとして探す。と、森の奥の方から、大型の赤竜が現れた。
「長!」
瞬く間に森を越え、砂場にやってくる。着地するともうもうと砂埃が立ち込めた。
「…………大きい…………」
神田も、そして勿論神田に咥えられている子竜をも圧倒するその迫力にラビはごくり、と喉を鳴らした。
暫し睨み合い――――――というより、睨まれていた神田は砂場に子竜を下ろすと姿を変え、人の姿をとった。応じて赤竜の長も、そして神田に咥えられていた子竜も人の姿を取る。人であれば五、六歳であろう小さな姿だ。
「うわぁぁぁぁん! ししょー!」
そしてさっ、と赤竜の長クロスの背後に隠れた子竜は恐る恐る神田を見る。
背に隠れた子供の頭をさりげなく撫でてやりつつクロスは、
「何の騒ぎだ? ユウ。うちの養い子に何の用事だ」
「〜〜〜〜〜〜〜! あんたの子かよっ! あんた、どういう教育してるんだっ!!」
「…………?」
竜は子が乳離れしたあとは群れ全体で育てる。
見た所既に乳離れしているであろう子竜が何故赤竜の長自らが育てているのかは深い事情もあるが、神田にそんな事に思いを巡らす余裕など無い。
「そのガキッ、俺のっ…………、胸と、足、の間んとこ、舐めてきたんだぞ!?」
「…………」
「…………」
「…………」
じっ、と視線が子竜に向かう。
「まちがってないです! だってししょがおうちで女の人と仲良くするときこうするもん!」
高らかに宣言した子竜の言葉に神田が絶叫した。
「あんたの所為か――――――!」
「ちょ、長!! 子供の前で何やってんすか!?」
「?」
「…………」
あさっての方向を見上げて知らぬ存ぜぬの顔をするクロスに対して神田と赤竜の青年の目は限りなく冷たい。
話の内容はまだ分からないラビは、既にクロスの背後に隠れている子竜に興味津々だ。
成竜にならねば住処より出てこない竜族の子を人間が目にするのは、稀なことだった。
「ちっちゃい竜さん?」
「!」
ととと、と駆け寄ったラビに子竜、アレンはさっ、と再度影になるような辺りに隠れる。クロスを軸にして追いかけっこを始めた二人を、赤竜の青年はにへらとした顔で見ていた。子供同士が遊んでいるのは、見ていて楽しい。竜の繁殖能力は高く無い為、二度脱皮してしまえば体格が圧倒的に異なってしまう子竜に同世代の遊べるような相手がいる事は稀だから尚更だ。
「?」
反対側から回りこみ顔を合わせようとするラビに、アレンは逃げる。
相手が珍しいのは子竜にとっても同じ。
仲間とは違う匂いを持つ生き物が何なのか図りかねているようで、
「ししょ、」
「あー…………そりゃ人間だ。食うなよ」
「はい」
「!?」
食べる気だったのか、と慌てて神田がラビを引き寄せた。
物を知らない子竜は、これだから恐ろしい…………と溜息をつく。
「長ぁ。子供の前でヤるのは止めときましょーぜ。ジョーソーキョーイクって奴に悪いんじゃねーっすか」
「寝てりゃいいと思うだろうが」
「アレン、いつも長が雌と「仲良く」してる時って何時だ?」
「? ねてたら、おっきい音がするから…………」
「ばればれじゃねーすか長」
「…………」
神田は相変わらず冷たい目。
話が見えないラビは神田を見上げ、クロスを見上げ、また神田を見上げる。
「ユウ、「仲良く」ってなーに?」
「…………お前はまだ知らなくていい」
「う?」
「あのね、ししょが女の人の…………」
「うわっとぉ!」
「説明しなくていいチビ!」
さっ、と青年がアレンの口を塞ぎ、神田はラビの耳を抑える。
きょとんとした顔の二人に「そういうことを人前で言ってはいけません」と説教する青年を見やりつつ、神田は溜息を付いた。
→8
よく考えたら10歳も割とショタだったかもしれない。
しかし5歳とのかき分けができていない件について。
そして竜はやっぱり子供大好き。
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