俺が兄ちゃんさ、と胸を張るラビに「その白いチビはお前の数倍生きてるぞ」とさりげなく子供の純真な夢を打ち砕く発言をしながら神田はラビの頭を撫でる。
 軍の人間に呼ばれてクロスが場を去った為、お守りを仰せつかった青年と神田は不可思議な井戸端会議状態だ。

「…………何で白のガキが赤の保護下にいるんだ」
「あー…………何でも母親が冬越えの為に火山にいたらしんだけどなぁ。白竜種だったから加減間違って火山の中に落っこちて死んじまったらしくてなー」
「…………」

 親を亡くした飛べない幼い竜をそのまま赤の住処で保護している、と青年は続ける。

「元々種は赤の縁者みてぇだし。うちで面倒みるのが筋ってもんだろ? まぁ何も長が自分で見なくてもとは思うけどな」

 大人同士の話になど一向に意に介さず、無邪気な子供達は今度は神田を軸にくるくる回る。

「まーてー!」
「きゃー!」
「…………つーか白のガキって火山にいて大丈夫なのか? 幾ら赤の種っつったって…………」
「んー、以外に大丈夫そうだぜ?」

 白竜種の住処は雪原だ。活火山の中に居を構える赤竜種とは大分異なる。
 その割には元気なもんだ、と神田は走り回る子竜を見た。足取りはまだよたよたと頼りない。ラビが加減して追いかけているようだ。
 ラビに後ろから抱きつかれてけたたましく笑っている。

「…………」

 何やら複雑な念を覚え、けれどその理由は分からず首を捻る。

「シーズンが来る前に里に返さにゃならんわ。子供の面倒見てる場合じゃねぇからな。子育て中の雌に頼むしかねぇわ」
「…………」
「そういやそっちはシーズン来ても顔ださんな。何で? 独身…………だよな?」

 鼻を近づけてふんふん、と匂いを嗅いでくる青年に神田は一歩下がった。
 伴侶持ちの竜は本人とは別に伴侶の匂いを漂わせているから、直ぐに判別できる。

「…………伴侶はいねぇ。が、約した相手は居る」
「?」

 竜同士が伴侶になる事に大した制約は無い。互いに独身であり双方の同意があればすぐにでも伴侶となる。
 明らかにまずい相手――――――例えば血の濃い相手や力の差がありすぎる相手、歳の離れすぎた相手――――――は竜は本能的に選ばないから問題など殆ど無い。
 故に、「約した」という言葉の意味を測りかねて青年が首を撚る。

「…………」

 神田は説明を拒むように口を真横に引き結んだ。

「事情は良く分かんねぇけど…………まだ伴侶いねーなら、今の内に俺と一発…………」
「!」
「ダメー!」

 伸ばされた手に神田が肩を震わせた瞬間、甲高いラビの抗議の声が上がった。次いで、足には軽い衝撃。何だ、と青年が見下ろせばそこには小さな人間の子供が頬を膨らませながら、

「ユウは俺のさ!! 取っちゃダメ!!」
「俺のって…………まーたしかにお前さんが契約者だろうけどさぁ…………」

 よいせ、と呟きながら屈んで視線を合わせる青年を、悪い奴じゃないんだろうが、と神田は見下ろした。
 ぺちぺちぺちぺち、と間抜けにすら聞こえる軽い音を立ててラビが赤竜の青年を叩く。それを何の遊びと勘違いしたか、アレンまでもが真似をして青年を叩き始めた。…………が、音がラビのものとは段違いに鈍い。

「い、いででででっ! アレン、お前はやめろって!!」

 人の姿を取っていても竜の力は人間を遥かに凌駕する。
 人の子のラビに叩かれる程度ならば小雨に肌を濡らす程度の刺激であっても、同族のアレンの手加減無い殴打は確かに痛そうだ。
 今後もラビとアレンが共に過ごすならば、アレンにはよくよく力加減を理解してもらわなきゃ困る…………と神田は悲鳴をあげる青年を人事のように見下ろしていた。













「そろそろ荷物を纏めておけよ」
「はぁい」

 アレンがお腹が空いた、と騒ぎ出したため四人は別れた。神田とラビは自室へと戻る。
 里帰りの時期が近い為、ベッドの上に転がっているラビに神田はそう促した。生返事に、これは今年も荷造りを手伝わされる羽目になるな、と溜息をつく。
 変わりにラビの荷物をまとめる袋を持ってこよう、とドアノブに手を掛けた瞬間。

「――――――!」

 体を電流のように駆け抜けていく、あの感覚。

「…………っ、」

 直ぐ側のラビに勘づかれてなるものか、と必死に声を噛み殺す。
 毎年の苦行だ。仲間達のようにいっそ淫らな行いに耽る事ができるなら楽しみともなるのだろうが(実際若く独身の竜は念に一度のこの季節を愉しみにしている者が殆どだ)それを自ら禁じる神田にとっては文字通りの苦行でしか無い。
 なのに、襲いかかってくる本能的な欲望は年々酷くなるばかり。仲間達が言うにはそれはこれから更に酷くなるのだという。大人になったばかりの神田自身が本当の意味で成熟し切るまで、徐々に強くなっていくのだと。
 …………いつまで、意識を保っていられるものか。
 甘く疼く体を持て余しながら、神田がドアの外に消えた。




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「一発ヤろうぜ」は竜族にとっては挨拶みたいな感じ。

 竜族は能力に差があり過ぎると子が為せない。
 伴侶に迎えるのは似たような力を持った同年代の竜が多い。
 同性同士で伴侶になる場合は能力差は気にしないけど歳の差はかなり気にする。



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