荷物を纏めて持った子供が何人も集まっている。引率しているのは職員だ。
 その子供達の集団の近くには竜が何人か。今は人の形だが同じ方向に帰る子供が揃い次第、此処を発つ。
 国策で竜使いの適性のある子供達を集めている施設では年に数度の里帰りの時期、こうして子供達を親元に送り届けるのは竜の役目だった。
 五歳から上は十五歳までの子供達はそれぞれ騒いでいる。それでも年長の者が幼い者を良く見ているのはスクールの伝統だ。
 僅か五歳で神田と契約したラビは特別速いにしても、十五歳程度になると竜と契約する者も居る。契約を済ませた竜使いの子は自分の契約した竜に送って行ってもらうのが普通だった。

「おーい神田!」
「…………ティキ?」

 ラビの近くにいた神田はその声に振り向いた。半年振りに会う相手は笑顔で手を振っている。

「お前もガキの送迎要員か?」
「そーそー。此処の近くに送り届ける係ね」
「ふーん…………」

 神田は東にある大きな都市へ送る担当だ。ラビの故郷もそこであり、送り届ければそのまま東部峡谷の黒竜種の住処に戻れる。
 自分の住処にある墓に花を供えてそれから…………シーズンの間はそのままそこにいてもいい。宿舎に帰って来ても辛い思いをするだけだ。

「んで終わったら此処でシーズンと」
「…………」 

 ティキも若く独身の竜だ。
 一度伴侶を迎えれば死に別れたとしても次の伴侶を迎えることがない竜は人間達から見ると理想的な夫婦に見えるらしいが(人間の結婚指輪に竜を象った紋章が彫られるのは、国が竜を神聖視する為だけではなくその強固な伴侶の絆にあやかりたいという願いもある)その伴侶を見つけるまでは竜の貞操観念は実に自由だ。障りの無い相手であれば誰とでも契るし、これから始まる春のシーズンは年間最大の繁殖期だから雌は良い種で孕むことに、雄は孕ませる事に必死だ。
 伴侶を持っていない雄の竜は雌と違い実子の子育てに参加することは幼竜の時期であってもないから気楽なものだ。気楽とは言えそれなりに自分の種を残すのに必死なので満更愉しみばかりでもないかもしれない。最も神田には関係のないことだが。

「そういえば、お前の子っていないのか」
「…………痛いトコ突いてくれるね。残念だけど、いない」

 何気なく訊いてきた神田にティキは苦い顔をした。
 竜の繁殖能力はその竜が持つ能力と反比例し高位の竜になればなるほど子を残すのは難しくなる。そもそも一度に一つの卵しか産まない竜の雌が一生の間に育てる子の数などたかが知れている。そしてティキはまだ若い。自分の子が居ないことに焦るような歳ではないが黒竜種は竜族の中でも飛び抜けて伴侶を迎える可能性が高く、周囲には既に伴侶同士ばかりの黒の群れの中では矢張り焦るものなのかもしれない。
 その答えにふぅん、と呟いた神田は実のところ其程興味がないのか、群れ集まっている集団の方に視線を戻す。

「…………竜さん、皆そわそわしてるんさ…………?」

 と、それまで神田の手を掴んで大人しくしていたラビが小さく呟いた。聡い子供なら竜の様子が何時もと異なっている事に気づくのだろう。シーズンはあと二日ほどで始まる予定だ。神田は柔らかくその手を握り返す。
 卒業間近の最上級生達であれば知っているだろう。これから、彼らがこの施設を発った後此処で始まる事を。
 年に二度、春と秋に竜族の言う「シーズン」つまり繁殖期が来る。契る事は何時でも出来るが竜の子を作ろうと思えば普通はシーズン中にしか出来ない。その為竜の殆どは初夏から夏、若しくは冬に産まれる。その中でも夏頃産まれる子の方が圧倒的に多い。稀に繁殖期以外の季節に発情した雌がそれ以外の季節に卵を産むことはあるが、卵から孵った子の育てやすさの点から竜族では春の繁殖期に子づくりをして夏までに卵を産んでしまう事が推奨されている。

「お前には関係ないことだ」

 どうせその内にスクールで習うだろう。生々しい話など子供には聞かせたくない。
 不思議そうな顔をして見上げてくるラビの頭をそっと撫でて、素直過ぎる位に感情を表すその瞳に神田は小さく笑った。
 誤魔化しを兼ねて、その視線を砂場の方へ。
 遠方へ向かう一団から徐々に飛び去っていく。子供達を乗せた竜は普段よりもゆっくりと高度を上げ、目的地を目指す。
 神田の傍にも職員に連れられた子供達が集まり、その数はラビを含めて六人。

「くれぐれも、落とさないようにお願いします」
「あぁ」

 飛び立つ番が来ると竜は竜体に戻り、その背から腹に大縄を回す。そこに別の細縄で子供達と荷物を括りつけて運ぶ。
 乱暴ではあるが早い方法だ。
 やがて呼ばれた神田の一団は砂場の中心部に向かった。










 東の都で子供達とラビを降ろし、神田が向かったのは東部峡谷、嘆きの谷。
 自らの住処であるそこに向かった神田は取り敢えずと長の巣穴に向かった。
 入り口付近で姿を変え、

「長」
「おお、戻ったのか」

 巣穴の奥深くで身を横たえている黒の長の前に膝を着いた。
 目を細めて末っ子の帰還を受け入れた長は溜息を付き、

「…………しかし。この季節に戻ってきたということは今年も子を為す気にはならなかったか」
「生憎ですが一生ならないつもりです。黒の子を望むならティキにでも期待して下さい」

 ふん、と小さな鼻息と共に神田は吐き捨てる。
 黒竜種として、神田の能力は高い部類だ。当然色種の繁栄の為にも子を為す事を期待されている。黒竜種はどの色種よりも個体数が少なく、最も多い青竜種の七分の一、直ぐ近くに済む赤竜種の四分の一程度しかいない。嘗ての、他色種との交わりを頑なに拒んでいた頃に比べれば増えた方ではあるがそれでも色種を存続させるには心許無い数だった。

「種族の事だけではない。お前はその永い生を、独りで生きる気か?」
「…………」

 竜族の生は永い。能力が高ければ高いほど永く生きる。神田も、平均よりも永く生きるだろう。黒竜種であるということも悪かった。他色種よりも伴侶を持つことが多い黒竜には、気紛れや戯れで付き合える相手はいない。伴侶を得て番となった竜は非常に排他的だ。
 本当は解っている。産まれて数十年の内に約しただけの、子供の戯れで結んだ「約束」を頑なに、相手がいなくなって尚守り続ける事など無意味で非効率であることなど。寧ろ相手すら、神田が永すぎる生を誰とも交わらず誰とも過ごさない――――――そんな事を望んではいないであろうことも。
 けれどどうしてもそれが譲れない。それは己を形作る根幹であるとすら思える。
 
「約束は、約束です」
「アルマがそれを望むとは、とても思えないが」

 そんな事は分かってる。
 神田は小さく、口の中で呟いた。




 →10


 竜は能力が高いほど寿命が長く変わりに生殖能力が低くなる。
 黒竜種は排他的。昔はストレート種しかいなかった。子を為し辛いのを解っているから伴侶になる確率が高い。
 他色種は伴侶になる確率が低い。黒竜種だけ妙に高い。



 ラビ×ユウトップへ
 小説頁へ