ラビに続いて神田も浮気します注意。






「初めてじゃないって、どういう意味ですか」
「どういうもこういうもねーだろ」

 察しろとばかりに腕を組む神田にアレンは首を振る。
 いや、文脈から察すれば自ずと理解は出来る。出来るがしかし、だ。
 面倒臭そうに溜息を吐いた神田は、ラビにとっては死刑宣告とも取れるような言葉を投げた。

「そいつが他の女此処に連れ込むのも女とヤるのも、これが初めてじゃねぇって意味だ」

 


 衝撃から立ち直ったアレンは、震え上がっているラビの首根っこを掴むと笑顔で脅しつけた。

「ラビ今直ぐその股間の情けなく縮み上がったブツを切り落としなさいさぁ今直ぐに!!」
「ぎゃああああ!」
「おいモヤシ、ラビが去勢されたら俺だって困るんだよ」

 聞き様によっては非常にアダルティな事を言い放って神田はペットボトルに口を付けた。
 アレンに首根っこを掴まれたままのラビが慌てながら言い募る。

「何でっ、知って、」
「…………あのな。お前が俺を馬鹿だと思ってんのは知ってるが、いくらなんでも馬鹿にしすぎだ。お前と俺のシフトが違う時や俺がサークルで留守してる時に限って買って開けたばっかのゴムが一気に目減りしてんだぞ? これで気付くなって方が可笑しいだろ」
「ラビ…………」

 ラビ。君、馬鹿だったんですね。
 アレンが心底残念そうに呟いた。だが続く言葉に残念、そんな言葉すら浮かばなくなる。

「ピアスとか落としてった女もいるしな。あとお前、女と使ったゴムそのままゴミ箱に放り込むんじゃねぇよ、誰が片付けると思ってんだ」
「ラビ…………」
「…………」

 ラビは最早浮気を隠す気すら無かったのか。いや、それ程までに証拠を残しても神田が気付く筈がないと踏んでいたのか。どちらにせよとんでも無い話だ。そんな事をしても神田が自分から離れていく事はないと驕っている訳ではなさそうだから、そこだけは救いだった。

「それはこれまで何度位あったんです?」
「あ? 六回」

 即答した神田の台詞にラビの顔色が更に悪くなる。つまりその数は多すぎず少すぎず、ほぼ彼の浮気の実回数と等しいと思っていいのだろう。

「…………。良く愛想つかしませんね」

 アレンにとって神田は短気で直情的な人間であったが、これからはその認識を多少なりとも改める必要がありそうだ。アレンは自分の恋人が他の誰かと性的に触れ合うことなど、想像するだに恐ろしく、そして腸が煮えくり返る。とても許容できそうにない。後見人の奔放な異性関係に若干トラウマめいたものを感じているから余計にだ。

「そりゃ、仕方ねぇだろ。なんだかんだ言ったって女の方が抱くのに都合良く出来てるのは分かってる」
「ユウっ、俺はっ!」
「ラビ、黙って」

 何事か言い募ろうとしたラビをアレンがベッドの上に押し付ける事で黙らせた。ラビが何か感動的な事を言った所で今は何の説得力もない。

「それに、俺にとっても丁度良かったしな」
「浮気が丁度いいって…………?」
「脱童貞出来た。ティキの野郎とかに『非処女なのに童貞とか男としてどーよ』とか言われなくなったからな」
「「…………は?」」

 それはどういう意味か。今度こそ、本当にアレンは意味がわからない。前後の文脈を辿っても何処がどうしてそうなったのか全然理解できない。

「え、と神田? ちょっと僕、本当に意味が分からないんですが」
「ラビがヤッた六人、全員俺ともヤッたってだけだ」
「「…………えっ?」」

 

 

 それは大学に入学してすぐの頃。始まりは最初の一人だった。
 神田が知る限り、そして恐らく実際にもラビが初めて彼らが大学入学と同時に同棲を始めたマンションにれ込んだ浮気相手は、彼らの部屋に華奢なデザインのピアスを片方落としていった。

『…………何だこれ』

 発見したのが丁度神田がサークルの合宿から帰ってきた翌日というタイミングと減っていた避妊具とその明らかに女物である落し物とを照らし合わせ、それがどういう意味を持つか神田が導き出すまでに時間は必要なかった。
 しかし、ラビの浮気を知った神田に湧き上がったのは怒りや悲しみなどの負の感情ではなく、純粋な興味、好奇心だった。

 その頃、神田が性的な意味で知っている相手はラビただ一人だった。性に興味を抱くのが一般に比べるのが非常に遅すぎた事もあり、異性と関係を持つ前にラビと恋人同士になったからだ。一応神田にも良識や常識として恋人が居る身では操を立てるべきで他者からの誘いに乗ってはいけないというものはあり、大学で掛けられる声の全てを拒み続けていた。
 その事に疑問も不満も抱いていなかったが、此処でラビの浮気という新事実が判明する。

 そして神田の中には二つの興味が湧き上がった。
 一つは、ピアスの持ち主、ラビがこの部屋に連れ込み欲情し、抱いた女とはどのような人間なのか。どんな風に、この部屋で抱いたのか。
 もう一つは、ラビ以外の相手との行為は神田にとってどのような感情と快楽を齎すのか。

 嘗て神田の中にあった恋人に操を立てるべき、という良識はラビの浮気という事実により何処かに押し流された。ラビが浮気をしたのに神田がしてはいけないという理由は無いだろう。神田は、やられたらやり返せ派の人間だ。やられっぱなしでは腹も立つ。
 
 しかし、もし此処であの電話が来なければそれらは神田の中だけで終わった事だろう。二つの興味は持ちつつも、だからといって誘いをかけてくる相手に誰彼構わず付いて行く程神田も浅はかではない。
 だが、電話は鳴った。

 ラビがたまたま、すぐ近くのコンビニに行っている間に鳴り響いたラビの携帯。着信を示す表示に神田は躊躇うこと無く応答した。彼らにとって互いが不在の時に相手の電話に出ることはけして珍しい事ではなかったからだ。
 その相手は、神田が手にしていたピアスの持ち主だった。


「「…………」」

 神田の説明に、アレンはごくりと喉を鳴らした。とてもじゃないが、それでそれで、などとせっつける雰囲気ではなかった。
 隣のラビは青を通り越して死人のような顔色になっている。
 行く着くオチは既に分かっているとはいえ、これは非常に聞いていて心が苦しい。ラビが責められた立場ではないが、これから聞かされるのは神田の浮気の話なのだ。
 そして間違いなくその引き金になったのはラビの浮気である。今更後悔しても遅いのは分かっているが、それでも、ラビは後悔することを止められなかった。


 




 
 ティキは大学の先輩ポジション。




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