ラビに続いて神田も浮気します注意。
もう色々酷い。
最初応答した神田をラビだと思って話しだした彼女の要件は、失くしたピアスの行方の心当たりだった。それはたった今神田の手の中でキラキラと光っている。透明の小さな石がついたピアスは確かに大学生には高価な代物だったのだろう。
口を挟む間もなく矢継ぎ早な彼女の訴えを最後まで聞いた神田はそこで初めて自分がこの携帯の持ち主ではなく同居――――――同棲とは言わなかった――――――している相手である事、そしてピアスを持っていることを伝えた。
この彼女はラビと神田の関係も、そもそも同棲している事すら知らなかったので驚かれたが、神田もラビも彼女と同じ大学である事が分かると、後日顔を合わせて受け渡しをする事がなし崩し的に決まった。この時ラビに一切話を通さなかったのは神田なりの意趣返しのつもりだった。精々後々「お前が浮気した相手を見た」とでもからかってやろうと思っていただけだ。この時点ではまだ「興味」はただの興味でしかなく、それらが実現するなどとは神田は思っていなかった。
『嘘…………!?』
『?』
だが、ラビだけがバイトで不在のその日。受け渡しにと指定された場所に現れたラビの浮気相手は神田を視界に入れるなり上から下まで眺め回し、小さく声を上げて口元を覆った。神田には分からなかったが、それはラビ風に言うならば「ストライク★」という意味だ。一方神田は大きめの胸の谷間がちらちら見えるような深いVネックのニットに太腿を露にするミニスカート、明るい色の髪をフワフワと巻き毛に巻いてがっつりとメイクした彼女のことを「派手」と判断し、次いでにラビの本来の好みはこういうタイプ、と認識したに過ぎなかった。神田の異性への認識など自分達より力が弱くて小さくて胸に余分な脂肪のついている。そして子を孕む事が出来る生き物、所詮その程度だ。
一方彼女の神田への興味は並大抵を越えた。彼女が最上級生で神田よりも年長であった事もあっただろう。ラビと自分との情事を仄めかし、(それは神田に対する嫌がらせなどではなく、寧ろ性的な関心を買うためのアピールであった)間接的に、そしてそれが神田に上手く伝わらないとなると今度は直接的に誘いを掛け、そして彼女は神田をホテルに連れ込む事に成功する。
とても美しく、そして性的に無知(というのは彼女の思い込みに過ぎなかったが)な年下の青年をつまみ食いして満足した彼女とは対照的に、良く分からないまま連れ込まれ脱がされ咥えられ上に乗られた神田の感想としては「そう大した事でもない」であった。通り一遍の快楽は与えられたし、実際達しもしたがそれまでだ。だが満足そうな相手にそれを口にしなかったのは正しかった。その彼女とは、彼女が神田の連絡先を知らないこともありそれきりだった。
一度大した事でもない、と判断すれば次からは極めて自然に、抵抗感も無くその行為に及ぶ事が出来る。それは丁度ラビが神田と暮らす部屋に浮気相手を連れ込んでもバレなかったと思い込んだが故に回数を重ねた事と同じだ。
二度目の相手はラビの帰りをマンションのドアの前で待ちわびていた所を遭遇した。同居していると説明し、中に入れた神田にその彼女はラビに二度目はないと振られたと泣きつき、流されるようにして神田は彼女を抱いた。
三度目の相手は大学の同じゼミの同学年の女だった。ラビがその三度目の相手とマンションで浮気した数日後(それを知ったのはラビはメールに返信しようとしたのだろうか、気持よかった、また今度しようね、というような内容の受信メール画面を出しっぱなしにしたまま寝ていた所を見たからだ)にあったゼミ生の交流の為の飲み会の帰り、酔った彼女が神田にしなだれかかり、ラブホテルを前に休みたい休みたいと連呼したため連れて入った。因みに同じゼミであるラビは同じく酔っ払った一つ上のゼミの先輩を介抱するからと姿を消し、二次会と称した二人きりのカラオケで事に及んだ。その先輩からは後日ラビと一緒に居たがゆえに神田も顔を覚えられ、誘われて応じて彼女は四度目の相手になった。当初その気にならず交わしていたがラビとその先輩が既に一度関係したことを聞いて俄然やる気になったのだ。
五度目の相手は自分も恋人が居る身ながら、自分の恋人よりも良物件と判断したラビを落とすつもりで近づいて関係も持ったが、結局途中で神田に鞍替えした。据え膳食わぬは男の恥とばかりに誘いに応じた神田は、付き合うように促す相手にラビとの関係を伝えた。すると変態、との非難の声と平手を貰い、これに不満を覚えた神田が憂さ晴らしに何の理由もなくラビを引っ叩いたのはこの事が原因だ。
六度目の相手は特にどうという事はなかった。容貌が整っていれば誰彼構わず、といった相手で、予想通りラビに手を出し、そして神田にも手を出した。
それだけだ。
極めて淡々と語られた彼の性遍歴にアレンは頭を抱え、ラビはぐったりとベッドの中で動かなくなった。
「君のせいですからね、あぁ…………あの神田が…………」
友人の余りの変わりぶりに悲嘆に暮れたアレンは動かなくなったラビを殴って気を紛らわせる。あの清廉な生き物がビッ…………いや、積極的な女性達の毒牙に掛かりこんな事になってしまったのだ。アレンは神田の貞操について兎や角言うような立場ではないがそれでも高校生の時分、彼に纏わり付く不心得な外敵から守ってきた人間の一人としては文句の一つは付けたくなる。
ベッドの上でそれぞれに反応を返す二人を無視して神田はベッドサイドの小テーブルに近寄った。その上には携帯が置かれている。それは、神田の物でもラビの物でも、勿論アレンの物でもない。二人が気付かない事を良い事に、神田はロックが掛けられていない携帯を躊躇うこと無く開いてみせる。持ち主当人のアドレスと番号に目を落とし、
「じゃ、次はあの女か」
「「!!」」
その言葉に顔を跳ね上げたアレンとラビは、神田が手にしている自分達の物では無い、可愛らしくデコレーションされた携帯を目にわかりやすく狼狽える。
「ユ、ユユユユ、ユウっ!」
「あ?」
自分の携帯へアドレスを転送し終えた神田は今度は自分のシンプルな携帯を開いて確認する。ラビが取り上げようと手を伸ばしたのを肘鉄で黙らせて、満足そうに自分の携帯を閉じてポケットに捩じ込んだ。
「返しておいてやれよ?」
言いながら神田は自分の物ではない方の携帯をラビの目の前でひらひらと振る。
「それか俺が返しておいてやろうか」
「神田、もしかしてあの子の事知ってるんですか?」
「もしかしないでも知ってる。あの女、バイトの後輩だ。お前はシフトが合わないから知らねぇんだろ」
神田の言葉にアレンはキッ、とラビを睨んだ。何で、よりによって、そんなに近くで済ませようとする!? アレンに睨まれたラビはだらだらと冷や汗を流す。
「…………。良く分かりましたね」
「あの女が入ってきた時から予想は付いてた。ラビの好みだったしな」
絶対手を出すと思ってた、と神田は何でもない事のように言う。
つまり、神田は全てこうなると分かっていて、釘を刺すでも妨害するでもなく傍観していた訳だ。
「ごめんなさいごめんなさい、もう二度としないから浮気しないで下さい!!!」
必死にシーツに額を擦り付けるラビを興味無さげに一瞥した神田は手の中の携帯を弄びながら呟いた。
「それじゃフェアじゃねぇな」
「えーと…………ラビの肩を持つつもりもないんですけどね。勘弁してあげて下さい。ほらラビ、もっと頭下げる!!」
露骨に嫌だ、の顔をした神田に平に平にと頭を下げるラビ。そんなラビを暫く見下ろした神田は、深い溜息をついて手から携帯を落とした。
「お前が手ぇ出した女と寝ても、大して良くもなかった。だからお前が何が楽しくて女取っ替え引っ替えしてたのか、未だに分からない」
「ごめん、…………ごめん、」
何とか和解ムードに漕ぎ着けたアレンは、心地良い達成感と疲労感に、終わり良ければ全て良しと額の汗を拭った。と、丁度その瞬間クラシックをアレンジした空気を読まない着信音が流れだす。その空気を読まない携帯の持ち主のアレンは慌てて通話ボタンを押して着信音を切れた。
『もしもし!? アレン!?』
何時もより大きい音で聞こえて来た声は大学の先輩であるティキのものだ。
アレンは和解ムードの神田とラビに背を向けて、小さく返事をする。
「何ですか、今ちょっと取り込み中なんですよ! 後でかけ直します」
『うわ、セーフ! まだ無事だったか!!』
「え? どういう意味…………」
『お前、間違っても今日神田に付いて行くなよ!? いいな!!』
「は?」
たった今アレンがいるのは彼らの家だ。
『俺が変な風に煽っちまったから、危ないんだよ!!』
「すいませんティキ意味が分かりません、ちなみに此処神田の家なんですけど」
『…………!? 逃げろ!! 今直ぐ逃げろ!!』
「ちょっと意味分からないんですけど…………」
『神田の彼氏いるだろ? 俺、ちょっと前にアイツが他の子とホテル入ってんの見ちまって、神田に教えたんだよ!』
「はぁ…………」
ホテルどころかついさっき部屋に居ましたけどねぇ、とアレンはぼんやり考える。
『そしたら、神田が…………「女に手ぇ出しまくるのは俺じゃ満足してないからだろう。俺は別に女としても良くなかったけどな。――――――男ともしてみてラビの立場にも立たなきゃなんねーな。あぁ、大丈夫だ俺より小せぇのに心当たりはある」って』
「…………。…………え?」
…………えっ?
えぇと、神田。
心当たりって、誰のことだったんでしょう?
その後アレンは、暫く怖くて振り向くことが出来なかった。
<終>
ちなみにティキは「彼氏の事満足させてやってねーんじゃねぇの? ちょっと練習付き合ってやろうか?」って煽った。
神田は「なら突っ込む方試してみるか」になった。
まさかの神アレフラグが立ちかけてた訳ですが此処で終わり。あ、フラグはラビの必死の土下座で折られました。
そしてアレンの「ホモ怖い」に拍車が掛かる。
ラビ×ユウトップへ
小説頁へ