「…………」
カッ、カッ、カッ…………
朝であっても薄暗い、黒の教団総本部の回廊。
そこを無言で背筋を伸ばし足音も軽やかに歩いて行くのは、
「お早うございます、クラウド元帥。どちらへ?」
「ああ、おはよう。…………少しな」
元帥は紅一点、クラウド・ナイン元帥だ。彼女のイノセンス、ラウ・シーミンも「キッ」と返事を返している。元サーカス団猛獣使いクラウド・ナイン元帥。ペット兼武器の躾は怠らない。
「…………」
やがて辿り着いた先、クラウドは、キッ、とその部屋のドアを親か何かの仇のように睨み付けた。
そして覚悟を決めて、ノックも無しに全力でそのドアノブを掴み、
バァンッ!!
そしてその部屋の中、在る意味想像通りの結果に、彼女の額に青筋が浮かび、
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 何をしている―――――――!!!」
彼女の絶叫が、その部屋のみならずそのフロア全体に響き渡った。
「んー…………なんなんだい?」
「きっ、きっさっまっ…………!」
思わずスタッカートを付けてしまいたくなるそんな衝動。
彼女の怒りの矛先は、目の前の男、この部屋の主フロワ・ティエドール元帥。
元帥という立場ゆえか、通常のものより大きめなベッドの上でまだ眠りの最中にあったものをクラウドの絶叫に目を覚まさせられたモノらしい。
中々嫌な目覚めだろうが、生来の温厚さからか特に気分を害した様子も無くにこにこと闖入者を眺め、暢気に挨拶した。
「やぁ、おはよう」
「…………っ!!」
無論彼女の怒りの理由は目の前の四十男が全裸な事ではない。んなものを見たくらいではどうとも思わないし就寝時にどのような格好をしていようが其れは本人の自由だろう。
―――――――但し、そのベッドにまだ未成年の子供を連れ込んでいるとなれば話は別だ。
ティエドールがせめてもの配慮なのか、下半身はシーツに埋めたまま出ようとしないベッドの中、その隣。
その膨らみは、そこに「もう一人」がいることを示している。
そしてその隙間から長い黒髪が覗いているとくれば、その相手も明白だった。
「貴様はペドフィリアかっ!!」
「いやだなぁ、うちのユー君はもう18歳だよ?」
「貴様自分の年齢を言ってみろ」
「40☆」
確かに大層な年齢差だが18歳の人間を愛した所で幼児趣味とは言わない。問題は、まだその相手が間違いなく子供であった頃からこういった事をしている点だろうが、8年間暇さえあれば毎朝通い詰めているクラウドは暇人なのかと問う声もあるだろう。
「黙れロリコン。犯罪者め!」
「ロリじゃなくてショタじゃないのかい? 確かに可愛いけれどこの子は男の子だよ?」
最もだが、そういう問題ではナイ。
もぞ…………。
声に反応して、その膨らみが僅かに身動きし始める。
暫くもぞもぞと動いてから、ぴょこん、と頭を出したその人物は―――――――
「…………、」
しかし闖入者の存在など知ったことかとでも言いたげな風情で、眠そうにまた目を閉じた。
「こら、寝るな神田ユウ!」
名指しで呼ばれたとなると知らぬ振りを決め込むわけにも行かない。そのいつもは鋭いばかりの双眸を、今はまだ抜け切らない眠気で潤ませながら彼は半身を起こした。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………おはようございます、クラウド元帥」
たっぷりの間をおいてから、彼はそう呟くようにして挨拶をした。
「おはよう。…………珍しいな、シャキッと起きられないのも」
「昨日『も』夜遅かったんです」
彼がふぁ…………と欠伸をした瞬間、胸元まであったシーツが肌から滑り落ちた。
そして白い首から胸元にかけて色鮮やかに咲き誇る生々しい跡に、思わず流石のクラウドも絶句する。
元帥とはいえ未婚の女性。思わず固まるのは無理も無い。
「あっはっは、付きあわせてすまないね」
「そう思うんだったら自重して下さい…………」
聞きように寄ってはアヤシイその会話に、片頬を引き攣らせたクラウドに、ティエドールは更に追い討ちをかけるようにして、
「ところでそろそろ服を着たいんだけどね。そこで見ているのかい?」
別に私は構わないけどね、俺もですけど、そんな二人の声にクラウドは無言で踵を返し―――――――出て行った。
「ふーむあれは絶対勘違いしてるね」
「誰が何をですか?」
顎に手をやって呟く師匠に、どうでもよさそうに訊く神田。
「ああいや、何でもないよ」
あっさりはぐらかされるも元々そこまで興味は無かったのか、あっさり引き下がりサイドテーブルの上に畳まれた自分の衣類に手を伸ばす。
背を向けて着替え始める弟子の姿をにこにこと見守るティエドールは自分の服の所在など知る訳が無い。
―――――――二人の間には、少なくともクラウドの想像したような関係は、今のところ無い。
腐っても師匠。まだ大人になりきらない弟子に手を出すほど爛れてはいない。今のところは。多分。
だけどコレも何時まで持つかなぁ、なんて考えて―――――――ティエドールは笑った。
???×神田トップへ
小説頁へ