王宮で訓練をしていた砂漠の国の兵達の集団は、奇襲を受け突如騒然とした。

「てっ、敵襲!!」
「〜〜〜〜〜っ、またですかっ!! 弓隊、下がれ!」

 だがその命令を遂行する前に、弓を持った兵達が片っ端から倒れ伏していく。
 集団の前で指示を出していたアレンが、悔しげに土埃の舞う辺りを睨みつけた。
 訓練中に襲撃されるのはこれが初めてではない。
 注意を促し、警戒を怠らぬように言っているのにこの体たらく。
 アレンの傍にいたが故に何を逃れた兵達は、今日の残りの訓練は過酷を極めるだろうことに顔を引き攣らせた。
 暫くの後土埃がやんだ頃。
 その場に立っているのは一人だけだった。

「…………」

 用は済んだとばかりに手にしていた長い剣を納め、踵を返そうとする襲撃者にアレンが声をかける。

「待って下さい」
「…………?」

 何、とばかりの顔で振り向く相手に、これにやられるんだからうちの兵は…………とアレンは溜息を吐いた。

「暇なんでしょう。付き合って下さい」
「駄目だ」

 簡潔な答えに、アレンが眉根を寄せる。
 元死罪人、現王の飼い猫である元暗殺者――――――王により明かされた名前は「神田ユウ」という――――――は、飼い猫の名に相応しくその振る舞いは猫そのものだ。王以外の人の話をまともに聞き入れない所が其の最たる部分だろう。

「何でですか」
「終わったら飯だと言われてる」

 待たせてるから、と神田に言われたアレンはついにはがっくりとその場で膝をついた。つまり彼ら兵は、王が昼食を待っても良いと思える程度の時間で撃破されると思われているわけだ。実際そうなのだが。
 頭を慰める兵達に背を向け、神田は身を翻して元いた部屋を目指した。





「終わったか」
「あぁ」

 部屋に戻ると丁度王は書状を片手に椅子に腰掛け、その眼前に召使い達が湯気の立ち上る皿を並べ、焦げ目のついた肉汁滴る分厚い肉を切り分けているところだった。
 流石に傷も癒え、乳粥以外の物も与えられているがユウは王の為の豪奢な食事は好まなかった。その気になれば一週間食わずとも生きていける訓練をしている。好まないどころか生きるのに最低限必要な量以外は食事を嫌がって逃げるユウを押さえつける役目は、最近はラビが負っている。
 今日も今日とて果実を両手にしたラビを視界に入れると、ユウはくるりと踵を返した。

「もー…………ユウは何なら食べるんさー? 折角美味しいの取り寄せてるのにー」

 ラビのように王族の端くれ、しかも高官であっても滅多に口にできないような果実だ。傷一つ無いつるりとした表面は鮮やかなオレンジ色。

「こら。逃げるな」
「…………」

 王の言葉に、部屋から出て行こうとしていた足を止め、ユウは嫌そうに振り向いた。
 嫌なものは何をしても嫌だ。

 王の隣に立ったまま、ラビは器用に果実の皮を剥く。
 匂い立つ瑞々しい香りに、ユウは逃げるように王の足元へ座り込んだ。

「ほら」

 口元にさし出された果実に対して口を真横に引き結ぶ事で拒絶を示すユウにラビは困り顔。

「ラビ」
「へ?」
「それ、こっちに寄越せ」
「あぁ、うん…………」

 手近な皿に載せた果実を王に渡す。食べさせるのは諦めたのか、とラビが見守る中、王はそれを口にし、それから足元にいたユウの脇に腕を差し入れ持ち上げた。

「!」

 問答無用で口移しで果実を与えられ、嫌がるユウがじたばたと暴れる。
 口元で潰れた果実の汁がぽたぽたと滴り、ラビは暫くそれを見つめた後くるりと踵を返した。
 折角召使い達が食事の用意をした訳だが、恐らく彼らがそれを口にする頃には冷め切っていることだろう。
 ラビがまだ皮を剥いていなかった方の果実を皮ごと噛みちぎりながら廊下を歩いていると、殺気立ったアレンとすれ違った。行き先は王の部屋だろうが…………生温く笑んだラビは、何も指摘する事無く、こんなに美味いのに、と呟いた。



 神田が食事を嫌がるのは毒耐性を付けるために食事に毒を混ぜられてたから。喉が灼けて辛かったので食事が嫌い。
 因みにラビは王の従姉妹の息子辺りで、うっすら王族的な立場。