※モブ注意※
 ※というか王×モブ女性注意※








 ハレムの中。
 男は王以外は立ち入らせないという建前――――――本当に「建前」だけだ――――――のそこに入り込んだユウは、被った絹の薄布を目深にして溜息を吐いた。
 衣装をいつも与えられている木綿の物からハレムの女奴隷の物に取り替え、一角で息を潜める。

 ユウが寝台で相手をする王は好色だ。
 極普通の男の事は良く知らないが、執務中であってもそういう行為をしようとするのは、ユウが知る限り王宮では王だけだ。あのラビですら、仕事中は真面目にしているというのに。
 ましてや王はニ日と間を開けずにユウを抱くが、同時に同じ頻度でハレムにも通う。ハレムの中で何が行われているか知らない訳ではない。それどころか数度連れてこられて見せつけられた。
 今日だって、昼間の執務中から相手をさせられかけた。嫌いな食事の時間にも近かった事をこれ幸いとばかりに部屋から逃げ出したが。
 ハレムに探しに来ない時点で王はユウを今のところ連れ戻す気は無いのだろう。どうせ夜になれば此処に来る。その後王が寝室に戻る時に一緒に戻ればいい。
 そんな事をつらつらと考えながら壁際に座り込んでいると、ふと近くに影が差した。

「?」

 何だ、と仰ぐとそこには居並ぶ女達。

「あ、」

 小さく声を上げたユウの薄衣を、爪先を赤く塗った指が奪い取って行った。






「ほらやっぱり。陛下の猫だったじゃない」

 女達が口を袖で隠してクスクスと笑う。

「右も左も知らない新入りだと思ったわ」

 女達は皆同じような格好をしている。
 飾りを付けた服が寵姫。付けていないのが女奴隷。前者は王の支配下に入った部族から献上された女達、後者は奴隷市で買われたり、追われて王の元に逃げ込み貞操と忠誠との引換に庇護を求めた女達。
 名前は違うがその扱いは大差が無かった。王は全ての女に平等だ。ユウには王が居ない昼時にハレムの雑務を行うのが女奴隷、という認識だ。

「…………」

 侵入がバレていた用だが、既に王と共に何度か入り込んで女達と顔見知りになっているユウは座ったままぼんやりと見上げるばかりだ。立ち上がれば女達の背を超えるので、怖がらせるだろう、などと思いながら。

「陛下はどちらに?」
「…………部屋だろ」
「一緒ではないの?」
「あぁ」

 寵姫の一人が前にでて問い質す。そんなに焦らずともどうせ夜には来るのに、と思いながらユウは答える。

「ではお前は逃げてきたのね」
「…………」

 図星を刺されてユウは無言だ。

「まぁ、悪い子だこと」

 クスクスと、女達がまた笑う。
 王が相手でないからか、若しくはユウが王の猫であるからか。女達は普段ユウが目にする光景――――――王の元での乱れた姿――――――と比べて随分落ち着いている。最初に女奴隷として忍び込んだ時は王は遠征中でそのような姿は見なかった。一度王に捕まった後、二度目に忍び込んだ時は其れどころではなかった。王が女達を相手にしている姿をまじまじと見たのは最近になってからだ。…………ラビに感想を求められた時に、死骸か何かに蟻が群がる様に似ていると答えたらラビは黙り込んでいたが。

「餌もまだでしょう?」
「あら、じゃあ私達で何かやらなくてはね」
「ねぇ、手の開いている子がいたら、髪の手入れをしてやりなさいよ」

 餌と聞いて尻込みするユウに、女達は笑顔を向ける。
 アレン達兵とは違い、女達を傷付ける事は許されていなかった。女の肌は柔らかく脆い。傷付ける気がなくとも容易く傷がつくのだから気をつけろ――――――そう命じられたのは記憶に新しい。
 下手に抗えば怪我をさせるかも知れない。
 奥の方から女が何やら器を持って来たのを見て、ユウはせめてもの抵抗でその場で伏せた。








「陛下」

 夜も更けた頃。
 一日の執務を終えた王がハレムに姿を表すと、これからが本来の仕事とばかりに俄に女達が活気付く。
 早速今夜寵愛される順番の女が王の腕にしなだれかかると、王が女の額にくちづけを落とし。

「あぁ、今日も美しいな。…………ところでアレはいるか」
「陛下の子猫でしたら、今奥の方に。少々悪戯が過ぎたようですけれど」
「…………悪戯」

 女の衣装を肩から脱がしながら、王は呟いた。悪戯は、猫がしたとは思えなかった。大方女達に悪戯「されている」のだろう。
 何時ぞやかアレン達辺りには猫と言えどもアレも雄、ハレムに入らせて何かあったら、と抗議をされたが王はその辺りの心配は何一つとしてしていない。女を抱くなどそんな器用な真似があの猫に出来るわけがない。
 まぁ仮に万が一そのような事になっても、猫の子なら子猫だ。そういう物として近くに置いておけばいい。
 ハレムの女達は王が子を作る気がない事に気付いている。孕んだとなればそれは王の種ではない。
 だがしかし、小さな猫も、見てみたくないこともない。かといって雌を宛てがうつもりもなかったが。
 薄く笑った王は、甘い香の柔肌に舌を伸ばした。



 猫「助けろよ」