最初は六人、閉じ込められた。同じような背格好の、同じような歳の奴ら。
互いの名前も何も知らなかった。俺達は全員、互いのことを知らない事と同じように自分のことも知らなかったから。知らない、筈だったから。
けれど、あいつと俺だけは――――――
『 』
『 』
あいつと、俺だけは。
『覚えててね、 。僕が を忘れても、僕が僕を忘れても、その時は僕に僕の事を、 のことを教えてね』
それはきっと、果たされなかった約束。
「それが、お前の名か」
「、」
眠っているわけでもないのに王が寝台に入ってきても気付かず、こうして触れられる迄気付かない程酷く摩耗した体力と精神力。
俺の全ての生殺与奪を握る男は何の気紛れかまだ俺を生かし続ける。受けた傷の重さから自分の命の残り時間を計算していたがそれらは全て無意味と化している。
その絶対的支配者は相変わらず寝台に身を委ねるだけの俺を覗き込みながら何かを話しかけてきた。
「『アルマ』」
「…………、」
王の唇は俺の知らない音を紡ぐ。
暫く俺を観察するかのように見据えてから、
「何だ、ただの寝言か…………外れたか」
舌打ちした王は寝台を離れて椅子に戻っていった。
ふらつく頭の中で、ゆっくりとその単語を咀嚼する。
――――――『アルマ』――――――
不意に、子供の高い声が脳裏に響き渡った。
『約束だよ、 !』
約束――――――
それに、お前は…………
お前は 俺が 殺した
「あ、あ、」
ぞわり、と背中に冷たいものが這った。
訓練されていた筈なのに、震えが止まらない。カチカチと歯が不快な音を立てる。
アイツが、四人を、俺が、アイツを、
どうしてお前が、
そうだ、殺さないと、
死なない、と。
バラバラと頭の中で繋がらない単語が落ちていく。
殺して、死んで、それで、それから?
最後に認識したのは、俺を驚いたように見下ろす王の表情だった。
中庭の護衛兵に様子を聞いていたアレンはふと感じた騒々しさに眉根を寄せた。嫌な予感がする。
数十秒後にはその嫌な予感を裏付けるかのように、蒼白な顔の兵が走ってきた。
「た、隊長! 隊長殿ぉ!!」
「何事ですか、騒々しい」
「へ、陛下が囚えていた罪人が放たれ、暴れまわっております…………!」
「…………だからあの時殺していれば、」
低く毒づいたアレンが踵を返して先に駈け出した兵を追い、走り始める。その後ろに着いた護衛兵達に素早く命じた。
「陛下の寝室を確認して下さい。ご無事であればそのままお傍に!」
「承知いたしました!」
途中で離れていく気配を感じながら、彼にしては珍しく焦燥に唇を堅く噛み締めた。
探すまでもなく見つけられた暗殺者は広間の中にいた。
剣先からはぽたぽたと赤い雫が滴り落ち、その形相に周囲は固唾を飲み、或いは青ざめた表情で後退る。アレンはその血が誰の物であるか思い巡らそうとして、止めた。心休まるような結論など出せるわけがない。
前の方には部下達に混ざってラビが王宮の人々に下がるように叫んでいる。
人波の前に出て、ラビの横に立ったアレンは鋭い眼で見据えた。
視線に反応したかフラリ、と暗殺者が顔を向ける。が。
「ガ、ア、ァァァァァァァァァァッ!!」
「…………っ」
喉から血でも吐くのかと思う程の、文字通りの絶叫。
直ぐ近くで聞かされた二人はその声量と勢いに眉根を寄せた。
「脳味噌弄り過ぎて気でも触れましたかね」
「さぁな」
黒い髪を振り乱し剣を手にしたまま絶叫するあの暗殺者の姿はどう見ても正気では無い。
既に刃を抜いたアレンに続きラビも腰に珍しく腰に下げていた剣を取った。剣鞘を直ぐ側に居た別の文官に押し付ける。
「しょ、書記官殿」
「持ってて。――――――俺達が殺られたら直ぐに逃げろ、陛下んとこ行け」
「ラビ、僕が左から行きます」
「じゃあ俺は右から。殺るつもりでいいさね?」
「勿論。生け捕りに出来る程弱くはないですよアレ」
ジリ、とアレンが先に左側に歩き始める。
応じて右に動き始めたラビが、
「にしても、最近剣なんか持ってないし鈍ってんだよね。参ったさぁ」
「これに懲りたら文官でもちゃんと鍛錬して下さいよ。緊急時に武官も文官もありませんよ」
「そりゃそーさ」
アレンもラビも遣り取りの最中にも一瞬足りとも目の前の「標的」から視線を逸らす事は無かった。死に損ないであっても王の不意を突き、警備を倒す程度の力を持った相手なのは事実だ。
一頻り叫び終わった後は虚ろな表情で虚空を見つめている暗殺者には動きはない。だがその俊敏性を目の当たりにした二人にとってそれは気を抜く要素にはならない。
紫がかった薄い唇が小刻みに震えながら何事か呟いている。――――――内容が周囲に知られるほどの大きさではない。
最初から首を落とすつもりで狙いを付け、襲いかかろうとしたその瞬間。
「アルマ…………何処に、いる…………?」
幼子のような呟きと共に、暗殺者が重い音を立ててその場に倒れた。
混乱中。
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