#マリとクロス。





「…………失礼致します、閣下」
「あぁ? 誰だお前?」

 ティエドールの襲撃から逃れ滅多に帰らぬ私室で寛いでいたクロスの元を訪れたのは、大柄な男だった。服装からしてエクソシストのようだが生憎と男の顔と名前を覚えるのに脳の容量を使うのは勿体無いと考えるクロスには知らない顔だ。

「…………ティエドール元帥靡下、ノイズ・マリと申します」
「あぁ、あいつの所の…………」

 つい先程騒ぎを起こしたばかりだ。
 此方は対抗して断罪者で暴れた訳ではないのであの攻撃に寄る本部の被害は全てティエドールの所為になるだろう。いい気味だ、と思い出し含み笑いを零す。そんなクロスの胸の内など知らないマリは怪訝な顔だ。

「それで? 何の用だ。男とだらだら世間話は好みじゃねぇぞ」
「…………私の妹弟子、神田の事です。…………クロス元帥。どうか我が師を挑発する事に神田を利用するのはおやめ頂きたい」

 苦渋、そんな表情のマリにもクロスは何処吹く風だ。無言で先を促す。

「あれは貴方が思う以上に幼い…………未だ、貴方の戯れを戯れだと理解出来ないのです。ましてや貴方が戯れで掻き口説く市井の女性達程敏くもない」
「…………」
「神田は貴方から見れば小娘でしょう、どうか誂うのは止めてやって下さい」
「期待に添えずに悪いが」

 まだ続こうとしたマリの言葉を面倒そうに遮ってクロスは片手を上げた。最も盲目のマリにはそんな事は無意味であったが。

「生憎、冗談や酔狂でやってるんじゃないんでな。その願いを聞き入れるつもりはない」
「――――――、神田は子供ですよ」
「子供は何時までも子供か?」
「しかし、」
「あぁ、お前の言いたいことは十分に理解したノイズ・マリ。可愛い妹弟子が毒牙に掛けられないか心配か、麗しい兄妹愛だな」

 揶揄する台詞に逆上しないマリは元が気が長いのか、それとも身の程を弁えているのか。どちらにしても関心なことだ、とクロスは薄く笑う。
 
「まぁその兄妹愛に免じてもう少し育つまでは待ってやろう。――――――心配するな、元より無理強いのつもりはねぇ」

 無理強いする程女に飢えている訳でもない。そもそも今すぐの話ではない。特に何の譲歩でもないが、それでも多少は目の前の男は納得したか、無言で頭を下げて退室して行った。

 ――――――将来の愉しみの為だ、今は待つのも悪くない――――――

 そんな呟きが余人の無い部屋で静かに響いた。




 人でなしクロス。
 事妹弟子の事についてはティエドール元帥よりもマリの方が大人。
 でもちょっと諦めても居る。


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