その日、神田は久しぶりに師匠や兄弟子と共に過ごしていた。
 神田は師の手を離れてから一人で任務に向かうことが多かった。時折複数のエクソシストと共に向かう事もあったが、元来人と慣れ合うことを好まない、というよりは人見知りをする彼女は他のエクソシストよりは単独で向かう事が多かった。無用なエクソシスト同士のトラブルを起こしたくない、という室長コムイの配慮もあったのだろう。
 今回の任務にはその前に出ていた任務先から向かった、途中マリと落ち合い、現地でティエドール元帥と合流した。
 任務内容は大規模なブローカーの摘発と伴うアクマの討伐。数多くのアクマの出現が予想され、想像通りレベル2,3が溢れんばかりだった。最もティエドール元帥に対しては物の数にも入らないような形で蹴散らされていたが。
 日の出から始まった討伐は深夜まで及び(因みにブローカー本人は討伐戦途中にアクマに殺された、因果応報だ)、漸く己のイノセンスを仕舞った三人は宿に戻った。
 深夜にも関わらずニコニコと人のよい笑みで三人を出迎えた女将は宿泊のためとは違う部屋に三人を案内する。
 そこに用意されていたのは深夜にはやや重いディナーと、ワンホールのバースデーケーキ。
 何事、と目を見開いた神田に二人の目は優しく穏やかだ。

 当人すら忘れていたが、今日神田は十六歳になったのだった。

 深夜のディナー、それからケーキ(これは甘いものを余り好まない彼女には中々厳しかったが、用意したであろう女将と手回しをしただろう師に対する礼儀として何センチ分かを食べた)の食事を終え、最後に師から新しい髪飾り、マリからは六幻につける飾り紐を貰った。
 始まりの時間が遅かった為、早々にディナーは終わりとなり、三人は其々の部屋に戻った。既に彼女は異性の師や兄弟子と同じ部屋で眠ることはなかった。








「…………ん、」

 日頃取らない程の量のディナーを取ったせいか、中々寝付けずに神田はベッドの中で寝返りをうつ。
 体は疲れているのに脳が奇妙に覚醒していて寝付けない。連続での任務だったから、明日は本部に帰還だ。多少疲れが残っても問題ない。だがそれを許容するようではエクソシストとして失格だ、とも思う。彼女は若年ながら誰よりもプロ意識が高かった。

 やがて時計の針が三時を示した頃。

 突然何かに口元を覆われ、神田はビクリと震えた。乾いて大きなそれは恐らくは男の掌。指らしきところで顎のラインを掴まれる。

「ん゛、!?」

 侵入者の存在に気づかず、それどころか触れられた瞬間まで気づかないなんて失態だ、最悪だ、と彼女が自分を激しく呪っていると。

「そう驚くな、俺だ。騒ぐな」

 その低い声に、彼女の動きはぴたりと止まった。
 暗闇では何も見えない。だがその声には聞き覚えがある。
 二年前からずっと、たった今まで恋焦がれた相手。最後に実際に会えたのは二年前、それも過保護な師匠に邪魔をされた。暫くはそれを恨みに思ったものだ。
 ジュ、と音がしてベッドサイドのランプに火が灯された。声で想像が付いていたとはいえ改めて相手の姿を視界に入れてしまうと頬の赤みが止められない。

「マリアで遮断してるとはいえお前の兄貴は耳がいいからな」
「?」

 独り言のように呟かれた言葉の意味を理解せず、神田は不思議そうな顔をする。
 騒ぎを回避したクロスは彼女が包まっていた薄い毛布を引き剥がした。ワンピース状の白い夜着(恐らくティエドールが渡したものだろうと予想を付ける)一枚の体がランプに照らされて夜闇のなかで薄っすらと浮かび上がった。下着を付けていないのか、胸の頂点はツンとしておりそのあとに続くなだからな曲線をクロスの視線のもとに晒す。
 未だ未完成ながら、これ位育っているならば雄を受け入れる事も出来るだろうと一人納得したクロスは顔を紅くしながらも不思議そうな顔をする神田に囁いた。

「二年前、俺が言った事は覚えてるか?」
「、…………」

 一拍を置いて神田は頷いた。

「どうする、お前が決めていいぞ」
「…………、」

 選択を委ねたのは余裕の現れだ。意味を知って怖気づくのなら止めるでも先に伸ばすでも良いし、望むなら今直ぐにでも。
 神田はmあの時の言葉の意味を二年経って理解していた。元帥や周りの大人が神田を嗜める際に「それがどういう意味なのか」を教えたからだ。最も回りくどく婉曲的な表現を用いられた所為で彼女が真の意味を理解したのはつい最近だった。
 顔を赤くした神田は暫くの沈黙の後、

「おねがい、します」

 蚊の鳴くような小さな声でそう応えた。





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