出会いは唐突だった。
 高校においての後輩、アレン・ウォーカーが――――――彼は私の学生生活の苦労の原因の大半であった――――――笑顔で私が通う大学に現れたのが今年の四月。
 彼はその際友人だ、と言って一組の男女を紹介した。
 赤髪の、快活な笑みを浮かべるラビと呼ばれた青年(最もその笑みは私にとって非常に残念なことに、あの厄介な後輩と同種である笑みだった)と、その後ろに控えていた黒髪の神田と呼ばれた女性。ひたり、と据えられた視線が不思議なほど強い。
 ぞくり、と背筋に這った寒気にも似たものの名前は、私は知らなかった。








「…………参りましたね」

 久しぶりに学食に来てみればこの騒ぎ。
 いつもは弁当持参の為忘れていた。この時間の学食の混みようは大変な騒ぎだということを。
 指定した定食を受け取ったまでは良いが、空き席がない。食事が終わっても次の講義までの時間を潰す学生達は中々席を立つ事がない。こんな事ならば購買でパンでも購入すれば良かったのに、と今更な事をトレーを抱えながら思って長嘆する。
 同じゼミの知り合いでもいれば――――――と辺りを見回すが残念なことに誰一人としていない。
 空くまで待ち続けるしか…………と覚悟を決めた瞬間、ふと視界の隅で「黒」が動いた。何だ、と振り返るとそこにいたのは。

(神田、ユウ)

 運良く空いた席に着いたばかりと見える、後輩の友人神田ユウの姿だった。
 ピーク時の席取りに順番などというルールはない。空いた席っを、近くにいた人間が取っていく。羨ましいことだ、と暫く眺めていると不意に顔を上げた彼女と目があった。

「――――――!」

 射抜くような強さの「黒」が私を見据える。
 初めて顔を合わせたときと同じような感情が溢れて、それに戸惑う。
 彼女の紅い唇が微かに動いた。兄弟達との遊びの一つで、読唇術のようなものを身につけている。読みとるのは簡単だ。
 有り難いと同時にやや戸惑うその申し出を素直に受け取り、彼女の方へと向かった。
 
 二人掛けの丸テーブルの上、中央に置いていたトレーを引き寄せながら神田ユウは、

「どうぞ」

 と一言促してきた。

「助かります。…………今日は何時もより混雑しているようですね」
「カフェテリアが急な改装工事らしいですよ」
「…………何と」

 それは知らなかった。カフェテリアは別棟にある、軽食を中心とした学食の一つだ。 普段であればカフェテリアの方を利用している学生も流れてきている、そういう事なのだろう。
 掲示板に張り出されていたのだろうが、恐らく普段であればカフェテリアも学食も用がない。不要な情報だ、と切り捨てたのだろう。
 しかし、それはともかくだ。 

「…………その。一人、でしたか?」
「…………?」
「待ち合わせている人物などは、いませんか」
「特には。今日は一人です」

 その返答にほっとした。
 何時も見かける度に彼女はウォーカーかラビと一緒にいる。
 今日もそのどちらか、若しくは両方がいるのでは、と考えたがどうやらそれは杞憂だったらしい。
 神田ユウは溜息をついて、一言。

「…………あいつら、今日はサボりです」
「サボり…………」

 感心しない言葉だ。特に成績優秀なラビはともかくウォーカーのそれは散々で、彼が高校二年、私が高校三年の受験生の頃など毎日勉強を見たものだ。自分の受験準備に宛てる時間などほぼ無かった。何せ当時のウォーカーときたら留年ぎりぎりだったのだから。
 早い内に志望先と定めた通学圏内のこの大学が、十分に合格圏内であって本当に良かった。
 懐かしい記憶にふっ、と遠い目になる。

「昨日ナンパに出かけてったので」
「…………は?」

 だがその言葉に再度意識は目の前の彼女へ。
 ナンパ、と女性が口にするのは如何なものかと思う単語を吐き捨てた彼女は驚く私をチラリ、と見上げた。

「…………」
「ウォーカーは兎も角、ラビも?」
「というよりは、ラビがモヤシを連れてったんです」

 …………驚いた、と言うより、何とけしからん事を…………!

 ラビと神田ユウは恋仲の筈だ。互いの家を行き来しているとも聞いた。そんな相手がいながら、女性に声を掛けに行くだと? ――――――何と不実な!
 だが驚くべきは神田ユウの態度だろう、恋人の裏切りとも取れるはずの行動にそれほど心を乱している様子も無い。

「それは…………何と言っていいか…………」
「別に珍しくもないです。高校の頃からそんなのばっかりでした。…………何が楽しいんだか」

 うんざりと首を振る。…………懐が深いのか、諦めているのか…………
 感心すると同時に、ラビを少しだけ恨めしく思った。

(私であれば、彼女を裏切ったりしないのに。)


 大学生リンク×大学生神田嬢。童貞×処女のじれったい(かも知れない)お話。


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