「っていう訳さー」
「はーそれはまた…………」
「…………」

 何だこの状況は。
 ラビと図書室で話したその当日の夜、たった今。私はラビとウォーカーに居酒屋に連行されていた。
 最終講義の終わりに誘われ、家に夕食の支度をして貰ってあるからと断った筈なのに、何故私は此処にいる?!

「リンクに遅――――――い春が来たのはめでたいんですけど、相手があの神田…………ってのは、ねぇ?」
「なー? レベル1のゆうしゃが挑むには強すぎね? レベル1で装備がぬののふくとひのきのぼうなのにバラモスとか竜王に挑んじゃう感じじゃね?」
「あはははは! 言い得て妙ですよラビ!!」

 アルコールが入った所為か、ウォーカーはハイテンションでテーブルをバンバン叩く。彼の馬鹿力でその様な事をするものだから、先程から空いている皿が15センチ位浮かび上がっては落ちている。割る前に止めさせねば、とは思うのだが残念なことに酔っぱらい共には私の言葉など全く届いていない。

「俺もさー、ホクロ二つは知らん相手じゃないし応援してやりたいんだけどさー。相手が寄りによってあの鉄の処女<アイアンメイデン>のユウだろー? ちょっと厳しいよなー」
「…………何ですか、鉄の処女って」

 それは中世で使われていた拷問器具の筈だ。何かの本で読んだ。

「文字通り。おっかねーんだぜ、ユウって。軽いつもりで声掛けてくる男共、片っ端からざっくり切り捨ててさぁ。ほら、ユウってあんな顔じゃん、見た目だけならすっげぇ美人じゃん? 小学校の高学年位からしょっちゅう色んな男に声かけられててさ」
「まぁ幾ら美人でもあんなに乱暴じゃどうかと思いますよ、今の世の中女性からだってDV成立するんじゃないです?」
「まぁそりゃそうなんだけど、黙ってればお淑やかお嬢様系だもんでさ」

 お淑やか? お嬢様? それは誰に対する形容だ?
 確かにラビの後ろに無言で控えていた姿はそう見えるかもしれない。だが何処のお嬢様が、あんなに強い目で人を見る?
 淑やかさとやらを期待して彼女に声を掛けた輩は、結局彼女の目すらまともに見ていないと言うことなのだろう。ただ造形が美しい、それだけで。中身の事などどうでもよかったのだろうか。

「本当に黙ってれば、ですけどねぇ」
「まぁほら、さ。美人だった分、怖い思いも嫌な思いも一杯したから余計にな。ちょっと男性不信っぽくなってるし」
「嫌な思い?」

 ウォーカーと顔を見合わせる。
 何だ? その話は。

「あれ、リンクはともかくアレンも知らなかったっけ? ユウが剣道始めた理由」
「いえ、聞いてませんけど」

 神田ユウは剣道の有段者だ。高校の女子剣道で全国制覇したと聞いている。

「中学生位ん時からかなー。女っぽくなってきたもんで、変なのに付き纏われるようになったりしてさ。登下校なんかは大体俺と一緒だったけどやっぱり毎日って訳じゃなかったし。何度が物陰に引きずり込まれそうになったりとかもあったみたい」
「…………!!」
「あったみたい、って軽く言ってくれますけどラビ、僕そんな神田のハードな過去初めて知ったんですけど。それ確実にレイプ目的じゃないですか…………」
「あんまり聞かせたくない類の話だからな。これ、ユウにはオフレコさ」
「分かってますよ。…………ちなみにその物陰事件とかって、神田は無事だったんですよね?」
「そりゃ勿論。俺やユウの兄貴達で犯人ボコボコにしたし」

 成る程、それで自衛の為に武道を…………
 しかし、普通の女性であれば自衛する前にまず誰かを頼るだろう。まずは親族の男性を、そうでなければ親しいか、もしくは恋仲の男性を。

「流石にその時からユウを一人で下校させる事は無くなったんだけど、本人が結構嫌がったんだよね」
「何でまた」
「…………誰かが必ず迎えに来るもんだから、今度は女子にあれこれある事無い事吹聴されたみたい」
「…………」

 見事な迄に「四面楚歌」だ。
 …………彼女の何処か人を寄せ付けない雰囲気の理由はそれか。

「んでまぁ、何でそういうユウのバックホーンを今俺が喋ってるかっていうとリンク、オマエさんが惚れた相手はこういう相手だって事理解させときたかったからなんだけど、お分かり? レベル1で初期装備じゃユウは攻略出来ないさ」
「…………さっきから何ですか、そのレベル1だとか初期装備だとか」
「リンク、あの名作を知らないんですか!?」
「は?」

 ウォーカーが驚いたように私を見るが、驚愕をされても知らないものは知らない。
 
「リンクゲームとかしなさそうさぁ。とにかく、ユウは簡単には攻略出来ないさー? マジ頑張れよチェリーボーイ」
「チェリーって、ラビさっきから僕の腹筋壊そうとしてません?」

 笑いながら机に突っ伏すウォーカーが顔だけラビに向ける。何やら馬鹿にされている雰囲気だけは感じ取り閉口した。
 ふと、今此処に彼女がいたらどんなに良かったか、と考える。――――――そうか。この無意味な仮定に走る状況が、「恋をしている」という事なのか。
 自分一人で結論付けて、頷く。
 アルコールの消費量と比例して五月蠅くなっていく二人を眺めながら、非生産的な物思いに時間を費やした。




  名作=ドラ◯エ。


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