『…………大変お気の毒な話ですが…………』

 通ってる大学の事務室に呼び出されて受けた電話。
 そんな始まり方したから、何が起こったかと思わず身構えた。
 今の所俺が一番怖いのは自分のアパートに何かあることだけど。

 だけど続いた言葉は予想外で、しかも、割とどうでも良かった。


 まぁ世間一般的な人間から見ればそれは全然どうでも良くないんだろうけど。

『お父様が、事故でお亡くなりになりました』

 次の瞬間俺が気にしたのは、其れは加害者側なのか被害者側なのかという事だけだった。






 ガタゴト揺れてる電車の窓の外をぼーっと見上げる。
 着ている借り物のブラックスーツが堅苦しい。
 親父が死んだらしい、そう人事みたいに友人に伝えたらこぞって早く行け何やってると急き立てられた。
 住所も行き先も知らない、そう言ったら一人がわざわざ事務室まで行って着信履歴見て、連絡してきた奴の電話番号を控えてきた。
 連絡させられて、友人が調べた其処までの行き方のメモを片手に俺は駅のホームまで引きずられて電車に押し込まれた。
 そして今に至る。

「…………」

 親父が死んだ。
 って言われてもねぇ、だ。
 死んだお袋と親父は俺が生まれる前から仲が悪かった。
 産まれた直後位にはもう仲は修復不可能なくらいで、俺は親父の顔を見たのはお袋の葬式の時だけだった。まぁ学費や養育費は貰ってたからそう言う意味じゃ感謝してたけど。
 だけどそんな状況で親子の情なんて産まれるわけも無くて。
 死んだって聞いた瞬間だって、「へぇ」って位だった。
 …………俺、薄情かねぇ?
 まぁ現住所も知らなかったくらいなんだから、ある意味当然な気がするんだけどなぁ。個人的には。

 ――――――次…………

 あ、此処だ。

 …………面倒くせー。
 
 俺は溜息一つついて、鞄を持って席を立った。



 



「ティキ・ミックさんですね。どうぞお掛けください」
「あー…………はい」
「弁護士の方からご連絡が行ったかと思いますが…………この度はご愁傷様です」
「はい」

 指定された先は警察署だった。
 聞いた話によれば事故は加害者でも被害者でもなく、勝手にガードレールに突っ込んで海に落ちたらしい。

「…………で、ですね…………」
「はぁ…………」

 死因は事故。それだけははっきりしてた。
 相手がいないだけマシ、それだけ分って俺は後の話は半分上の空で聞き流していた。 



 見せられた死体は間違いないかって聞かれたって良く分りゃしなかった。多分そうなんじゃないすかって返事したら担当刑事らしい奴が目を剥いていた。見せられて気分が良いもんでも無いっつーのに。
 警察署が終わったと思ったら今度は弁護士の所。…………盥回しか面倒くせぇ。
 そろそろいい加減帰りたい、そんな事を思いながら向かった先は警察署から程近いビル。
 そこに待っているモノなんて今の俺に知る由も無かった。










「貴方がティキさんですか…………」
「はぁ…………」

 何だよ。
 文句あんのかこいつ。

 弁護士のおっさんは俺を見るなり何やら考え込んでいるようだ。
 
「いえ、失礼致しました。早速のお話で申し訳ありませんが…………実はお越しいただいたのは遺産相続の件です」
「はぁ。何かあるんですか?」
「正直な所、思い入れが無ければ放棄なさる事をお勧めいたします」
「…………?」
「実は、財産よりも借金の方が多いんですよ。私は貴方のお父様にご依頼いただいておりまして、自己破産の手続きを取らせていただいておりました。今回その途中なので…………」
「あー、成る程分りました。いらないんで放棄の方向で」

 成る程ねぇ。
 そういう事か。
 でも、誰がプラマイゼロ以下になるものなんか貰うってか?

「分りました。…………それともう一つ。貴方のご兄弟の件なのですが」
「…………キョーダイ?」

 思わず声が裏返った。
 …………何? 俺兄弟いたっけ?

「お父様は貴方のお母様と離婚後他の女性とご結婚なさっています。その間に、一人。ただその方も亡くなっているので…………」
「はぁ…………母親の親類に引き取ってもらうって線は?」

 俺が言うと、弁護士は苦々しい顔で顔を横に振った。

「…………前述の通り、一切遺産については望めない状況です。親しい親族の方もいらっしゃらないようで、」

 遺産狙いの奴すらいないって事か。

 だけどそんなん、俺だってどうしようもない。
 こちとら貧乏学生の身だ。引き取れなんて言われたって…………

「施設へ、という方向でお話を勧めさせて頂いて宜しいですか?」
「あー…………まぁ、」

 宜しいも何も、他にどうしようもねぇじゃんそんなの。
 大体、…………そんなの俺にどうにかする義理なんか、


 キィ…………



 その時だ。
 細い音を立てて、事務所の奥のドアが開いた。
 
「…………」
「ユウ君、どうしたんだい?」
「…………」

 そこに居たのは、顔色の悪い子供一人だった。







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