「はよー」
「ってお前何フツーにガッコ来てんだよ!」

 何時も通りに学校行ったら片っ端から突っ込まれた。
 笑って交わしつつ、ブラックスーツを貸してくれた奴にはクリーニングしてから返すから、と伝えておく。
 葬式は上げない。面倒だし親父の知り合いなんて誰一人知らないし。墓の在処すら知らないんだから無縁仏にでもしておこうか。まさかお袋の墓に突っ込むわけにもいかねぇし。
 いっそ海か山にでも散骨…………とまで考えて自分で失笑した。なんだそれ。俺はどれだけ薄情なんだ。
 しかも俺は墓参り含めて面倒な事は一切する気もないけどあの俺の妹? だかがどういうつもりかまでは分からない。将来父親の墓参りをしたいって思ったときに墓すらないってのは流石に酷いんだろうか。でも墓だってタダじゃないんだよな…………。
 つらつらつらつら考えてるうちに一限目の講義が終わった。
  
 次の講義は三限だ。その合間にパチでも打つかとフラついてると仲の良い友人連中にとっつかまった。

「ティキ!」
「おー」
「ガッコ来て大丈夫なのかよ?」
「全然。だって一緒に暮らしてた訳でもねぇし」

 四割の心配と六割の好奇心を浮かべた顔の奴らに苦笑する。ま、仕方ない。隠し立てしたいとも思ってないし。

 パチンコの予定を変更して食堂の一角に陣取って俺は聞かれた事に大人しく答えていた。警察とのアレコレや、弁護士のとの話。遺産どころか借金しかない事。それから、

「あと、俺って妹いたらしいんだよな」
「へ?」

 話の途中、ついでに呟いておいた。

「まだ幼稚園児くらい? って感じの子。親父ともう死んじまったどっかの女の間の子らしいけど」
「え、えぇ、どうすんだよそれ」

 何故か俺以上に狼狽えだした奴らに、

「どうすんだよって…………そりゃ面倒見てもらうさ、国に」
「それってつまり」
「施設。当たり前だろ、俺が面倒見れるわけ無いじゃん」
「…………」

 ついでに言うと見る義理も無い。と思う。義務はあったかもしれないけど、弁護士が手続きしてくれるくらいなんだから絶対って訳でもなさそうだ。
 俺の返事に友人達は黙り込んだ。二重の意味で仕方ない。俺の言ってることもやってることも薄情に見えるのは仕方ない。実際薄情だ。
 だけど半分しか血の繋がらない妹やらを引き取るほど俺に余裕はない。親父が死んだからこれからの学費は全額自分で出さなきゃならない。そんな状況で簡単に子供を引き取るなんて言える訳がない。言えるとしたらそれは只の無責任だ。
 
「…………。まぁ、そりゃそうだよなぁ…………」

 納得したように呟いた友人に頷いておいた。





 数日してから、弁護士からまた連絡が来た。
 あの子供が施設に入ったという連絡だ。望む望まないに関わらずあの子供の親族は俺只一人なので今後もこう言った連絡は全部俺に来るという。面倒だしどうでもいいです俺関係ないんで、って言えたらどんなに楽か。
 面接可能日の説明もあったけど当然聞き流していた。行くつもりは特にない。
 財産の類も処分が終わったら連絡くれるらしい。まぁ、換金できるものは全て換金して借金の返済に。残った分は放棄だ。最初に決めた通りで、全部順調。そしてどうでもいい。

 その後の連絡は数ヶ月後で、俺はその間全ての事を忘れて過ごしていた。
 
 そんな俺の呑気な、そしてこれまでどおりの生活をぶち破った忌々しい連絡は弁護士からだった。

『ご兄弟の件で少しお話が――――――実は、施設で…………』

 全く忌々しい。

 俺はけして善人じゃ無いと自負しているがそれでも人並に善悪の区別位は付くつもりだ。そこに自分の損得が絡むと必ずしも正しい選択をするとは限らないってだけで。
 だから最近テレビのワイドショーやらを騒がしている子供への虐待事件なんかに眉根を寄せたりする。――――――数分後には子供の名前も何も覚えてないけど。
 何時もどおり眉根を寄せて「世の中おかしいよなぁ」と呟くだけで終わらせられなかったのはその被害者が俺の半分血の繋がった弟だったりするからだ。
 弁護士が面会に行ったら明らかに殴られたらしき怪我を負っていたという。無力で保護者の無い子供達は往々にして被害者になりやすい。原因は分かるがそれが正しい筈がない。
 勿論耳を塞いで聞かなかった事にすることも出来た。一度はそうした身だ、施設に送って国の保護下にあれば幸福とは迄は言えずともそれなりに人並みに暮らしていけるんだろうと。
 だが、それすら危ういとすれば。

「――――――ったく…………」

 どうして人生はこうも上手くいかないんだか。




小説頁へ