別に、俺がどうしようと俺の自由。


お前がどうしようが、お前の自由だ。






「ユウと一緒の任務なんて久しぶりさぁ。帰りたくないー」

「うっせぇな。馬鹿なこと言ってねぇで早く帰んぞ」



ラビとの共同任務はあっけなく終わってしまい、ガヤガヤと賑わう街を抜けて帰路へと着いている。

俺は呆れた顔で、自分の隣にいる男を一瞥した。任務なんてものは早く終わらせてどんどんこなしていくべきであり、遠足気分で「帰りたくない」などもっての他だ。

コイツと俺はたぶん、世間一般に言われる恋人同士ってヤツなんだろうと思う。告白はアイツからだったが、俺はそれを承諾したのだから。だけどただ一つ、世間の恋人達と違うとすればそれは、俺がラビと同じ気持ちではなかったということ。

告白した時に互いが両想いだった、なんて都合の良い幻想は実際にはそうそう起こり得ることではない。なのに世界にカップルが絶えず出来ていくのは、今はまだ好きじゃないけれどこれから好きになるかもしれない、という可能性を踏まえているからの話。
俺とラビの場合もやっぱりそうで、友人として好いていたラビに告白されて、まぁラビだし…いいか、という安易な考えで付き合うことに同意したにすぎない。 もとより恋愛に興味などないし、恋人も好きな女もいなかったから……というか、乏しい俺の人間関係の中でラビが一番仲が良かった、というのも理由の一つか もしれない。



「ツレないさーユウは」

「いつまでもグチグチ言ってんじゃねぇよ」



ラビは、大切な友達だ。好きか嫌いかと言われればもちろん好き。でも、恋愛感情の好きと友達としての好きがどう違うのかは、まだ分からない。

その辺の女と付き合うくらいなら、互いを良く知る友人のラビと付き合う方が楽だと思った。
恋人になったからと言って俺達の関係は変わらないし、正直友達だった頃と何が違うのか分からない。違うのはたまにキスをするくらいで、でもキスといっても唇を重ねるだけなんだから、部位は違えど握手と同じようなモンだろ?


だからよく、わからない。


いつか俺も、ラビのことを恋愛対象として好きになる日が来るのだろうか。



「ねぇユウー、じゃあせめてどっかでご飯くらい食べない?ねっ、お願いさ!」

「…ったく、しょうがねぇな」

「やったー!」



…………ん?

ふと、子供みたいにはしゃぐラビを見ていたら視線を感じた。アクマの気配とも殺気とも違う、何かもっと別の……。

周囲をぐるりと見渡せば、昼間の街は多くの人で賑わっていてごった返している。しかしその、道行く人々のいくつかの視線が、ラビに向けられていた。
チラチラと意味ありげに視線を送っては、黄色い声で色めき立つ女達。何の話をしているかなんて、聞こえなくとも見当がつく。



「………。」

「ユウ、どしたんさ?」

「………。」

「ユウ?」

「え…あぁ、なんでもない」



なんだろう。胸のあたりが、変な感じだ。

胸焼けか?今朝、食い過ぎたっけか…?

楽しみさね、と笑うラビに適当に返事を返して、とりあえず今日の昼飯は軽いものにしておこう、と思った。














あの時感じた謎の胸焼けはこっちが拍子抜けするほどすぐに引いて、俺達は手近な店に入ってメニューを広げていた。



「ハンバーグにするべきかステーキにするべきかどっちだと思う?」

「知らん。さっさと決めろ」



というよりそんな大真面目にメニューを睨み付けるようなことでもないだろ。料理ならジェリーがいつでも好きなもん作ってくれる訳だし。

いつまでたっても優柔不断に悩んでいるラビに、いい加減店員を呼んでしまおうかと半ば思い始めた時、やたらと甲高い声が頭の上から降ってきた。



「あのぉー、お二人ですかー?」



声の主を見た瞬間、心の中でげっ、と唱えた。口から出なかったのがせめてもの救いだ。



(ケバい……)



本来の皮膚の上に何センチ塗り込んでやがるんだ!?と疑いたくなるくらい濃い化粧。服装や持ち物、装飾品のどれをとってもチャラチャラガチャガチャ目に煩いものばかり。おまけにこの距離を保っていても臭ってくる、甘いを通り越して不快な香水の香り。

口には出していなくとも、自然と顔で嫌悪感を出してしまいそうだ。



「うん、二人だけど?」

「えー、ちょーど私たちも二人なんだよねー?」

「この後どっか行きません?」

「うーん、ごめんね、今この子と一緒に来てるから…」



この子ってなんだこの子って。俺も男だ。

しかしラビはこんな訳の分からん女達相手でも表情一つ変えることなく普通に会話をしている。やっぱり次期ブックマンたる社交性の成せる技か…?

そんなどうでもいいことを考えながら、まぁラビがうまく追い払ってくれるだろう、と俺は無関心を決め込んでいた。が、頭の悪い女達はしつこく、なかなか食い下がらない。

ラビの野郎何もたついてやがんだ、そんなもんズバッと断っちまえば良いんだよ。こっちは戦争中だてめぇらと遊んでる暇なんかあるか。
早く断れ、と苛々しながら念じていた俺の気なんか露ほども知らず、連絡先を書いた紙を差し出されていたラビは困ったようにはにかんだ。



「あー…じゃ、またね?」



………は?

何、そいつらの電話番号ヘラヘラ受け取ってやがんだよ。そんなもん、一言いらねぇ、って言ってやれば済むことだろ?
受け取ったってことは、連絡する気なのか?お前のこと何にも知らねぇような、お前の好きなものも嫌いなものも、お前の抱えてるものの重さも何にも知らねぇ、ただ鬱陶しく媚びてくるだけのこんな女に、お前が気を遣ってやる必要がどこにある?

さっき感じたのとよく似た、だけどさっきよりずっと酷い胸焼けがしてくる。
ムカムカとして気分が悪くて、女の香水の匂いを吸ったら余計に気分が悪くなった。



「おい、帰るぞ」

「えっ?でもまだ料理…」

「もういい」



戸惑うラビの手に握られていた紙切れを乱暴に引ったくって、テーブルに置いてあった灰皿に丸めて捨てた。
女達が耳障りな声で何事かをキーキー叫んでいた気がしたが、俺はそんな奴らを視界に入れるのも嫌で、振り返らずにラビを連れて店を飛び出した。














「ユウ、急にどうしたんさ?」

「ほっとけよ」

「そんな訳にいかないでしょ?あの子達ユウのこと超睨んで…」

「うっせぇなほっとけって言ってるだろ!!」



ああ、腹が立つ。

何だってこんなに腹が立つのか分からない。そんな自分にも余計に腹が立った。
ただ胸のあたりがムカムカして、感情のコントロールが効かなくなる。頭のどこかではラビは悪くないと分かっている筈なのに、吐き出さずには、責め立てずにはいられなくなる。

こんな感情は、知らない。



「だいたいお前がちゃんと断らねぇのが悪いんだろうが!連絡先なんて軽々しく受け取りやがって馬っ鹿じゃねーの!相手がアクマだったらどうすんだよ、警戒心が足りねーんじゃねぇの?全部お前が悪いんだ!!」



興奮して荒い呼吸を、地面を睨み付けながら整える。
ラビは何も言わなくて、俺も気まずくて口を開くことができなかった。

言いたいことを全て吐き出してしまったら、徐々に冷静さを取り戻してきて後悔した。
ラビを怒らせてしまったかもしれない。理不尽な俺の怒りに、きっとラビも呆れ返ってしまっただろう。



「ユウ」



静かに名前を呼ばれて、ビクッと肩が震えた。

地面に落とした視線を上げることができない。



「もしかして、あの女の子達に妬いた?」

「え………?」



予想していなかった言葉に反射的に顔をあげると、ラビはニッコリ笑って俺の顔を覗き込んできた。

妬くって……そんな筈はないだろう。
だって俺は、お前が何をしようとお前の自由だから、と。ずっとそう思って来たんだ。



「…んな訳ねぇだろ。だってお前は、ただの友達で……」

「違うさ、ユウ」



ラビはゆっくりとした動作で俺の手を取ると、そっと手の甲に口づけた。



「オレ達は、恋人さ?」



───恋人…?

確かに俺達は恋人だけど、お前は俺のことが好きだと言うけど、じゃあ俺は……?
俺はずっと、『いつか好きになるかもしれない』と思っているだけだった。俺にとってのお前は、ずっと仲の良い友人だった。

その、筈なのに。



「ユウ、キスしよっか」

「はっ?」

「いいからいいから!ほら、」



何の脈絡もなく言われた言葉に戸惑いつつも、ラビが強引に唇を合わせてきたから抵抗しても無駄だと分かって力を抜いた。


「……ッ!?」



が、何かヌルリとしたものが唇の合間を縫って入って来たかと思うと、俺の舌を絡めとって吸い上げた。

驚いてラビの胸をドンドンと叩いても一向に離れる気配はなく、舌を引っ込めてもその“何か”にどこまでも追いかけられて頭の奥がぼうっとしてきた頃になってやっと解放された。



「…やっと、ユウの心まで手に入った」



驚きと酸素不足に咳き込んでいたら、優しく微笑むラビに生理的に滲んだ涙を掬い取られた。


胸がムカムカする、あんな感情は知らなかった。

こんな変なキスも知らなかった。

腹が立って怒鳴りたいのに、奴の本当に嬉しそうに笑う顔を見ていたら満たされる、こんな感情も知らなかった。



「もう我慢しないから……ユウ、覚悟しててね」

「? お、おう?」



知らないことだらけだったのに、気がつけば俺は、お前のせいでたくさんの新しいことを知っていた。
そしてたぶん、これからも知っていく。

だけど俺は、まぁそれも悪くないか、と自然に思うことができたんだ。





ばか、んなんじゃねーよ
(いつの間にか好きになっていたなんて)






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付き合うって、必ずしも両想いから始まるものではないと思うんですよねー。それにしても私の小説はどうしてどれもこれもワンパターンなんだ…(A.文才がないから)
恐れ多くも大好きな井森様のバースデーに捧げさせて頂きます!お誕生日おめでとうございます//!!








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な ん だ こ の 萌 え る 二 人 は !
こんなのいただけるならBA☆BA☆Aになるのも悪く無いね!むしろ全然良いね!
ナチュラルブルーな処に萌の塊をありがとうございましたっ!!