「アレン、これを見ろ」
「はい?」
ある宿屋。師匠は部屋で、僕に一枚の紙を押し付けた。
「…………冒険者募集?」
世界樹の中を調べる冒険者を募っているらしい。募集主は、ハイ・ラガード公国。…………それほど遠くない国だ。
そして僕は、師匠の目をも引いたのであろう一文に眼が吸い寄せられる。
「最上層まで辿り着いた冒険者には莫大な報奨金…………ですか」
今僕がお供をしている師匠は世界中ありとあらゆる場所で借金を重ねまくる、言ってしまえばダメ人間だ。恐ろしいことにその内の何割かは僕の名義になっている。
しかしながら、ハイ・ラガード公国の掲げている報奨金は、それすら一括で返済しきれるであろう金額だった。
「次の目的地はハイ・ラガードですね、師匠」
「ああ。…………ただし」
「?」
師匠はそこで不自然に言葉を切ると、懐を探った。そこから現れた「馬鹿弟子専用」と書かれた金槌。
嫌すぎる予感に頬が引きつる。それを右手に持ったままの師匠に追い詰められて壁際に張り付いた。
「あ、あのう…………師匠…………?」
「こんな美味い話、逃がしたくないのは山々たが…………間の悪い事に利子代わりに受けた仕事がありやがる」
師匠はこれでも、各国から引く手あまたの有能なガンナーだ。軍の将校クラスのポジションを用意するからと誘われることも多いけれど、一ヶ所に留まるのが嫌なのかそれとももっと別の理由なのか、特定の国に属さない根なし草のままだ。
きっと国からお金を借りることはいくらなんでもないだろうし、そして師匠が逃げずに受ける気があるというなら、それは十中八九師匠の愛人からの依頼なんだろう。
「報奨金は最初に最上層に辿り着いたギルドまたは個人一組限定だ。ノロノロしてりゃ他に先を越されかねん」
「は、はい」
「ところでだ馬鹿弟子。俺はそろそろお前を独り立ちさせようと思っててな」
あああああ、嫌な予感がする!
師匠は右手の金槌を振り上げて――――――
「という訳で、逝ってこい、アレン」
字が違う、なんて突っ込む間もなく。
頭への激痛と共に、僕の意識は途切れた。