「「「…………」」」

 僕ら三人は、こっそり視線を交し合って小さく溜息をついた。
 七階。
 僕ら三人では来るだけで満身創痍になる此処に、今は無傷で辿り着いている。
 それもこれも、神田のお陰。
 一人僕らから離れて先を行く彼が、出会い頭の魔物たちを片っ端から切り捨てていく為、僕らは全く戦闘になっていない。
 明らか過ぎる実力差の前に―――――――僕達は、ただ溜息をついて、賞賛の眼差しを贈るだけだ。

「―――――――おい、」
 
 そんな時、前方から神田に声を掛けられ、僕達は慌てて駆け寄った。 
 


 上へ昇る階段。八階へと昇った僕達は、そこの空気の異常さに一瞬息を止めた。
 何というか、空気が熱い。
 
「サラマンドラは其処だ」

 神田が剣の先で小さな扉を差した。魔物達は扉を通って出て来たりする事は無い。分かっていても扉一枚隔てて尚感じる熱気に、思わず緊張が走る。
 
「水場は?」
「近くにある」
「じゃあそこでキャンプって事で…………」

 此処まで来たことがあるというラビと神田が話し合って、僕等は近くの池の畔で、キャンプを張る事になった。



「何だかこうしてると、此処が樹の中だって事忘れちゃいます」
「そうね、ほんと」

 池も在るし。

 火を起こした僕等は、今携帯食料を調理している真っ最中だ。
 ずっと戦い通しだった神田だけは、木の根元に座って身体を持たせかけながら目を閉じている。何かあったらすぐ反応できるようにと、彼の直ぐ傍らには愛刀もあった。

「アレン君、お皿とってくれる?」
「あ、はい」

 スープ状の鍋の中身をよそって、僕は最初に神田の下に持っていく。

「はい、どうぞ」
「…………、」

 …………が、神田は眉根を寄せてそのお皿を見るだけで中々手を出そうとしない。

「神田? …………嫌いなもの入ってますか?」
「…………」
「はいそこ、好き嫌いしない!」

 リナリーの声が鋭く飛んできた。
 僕はなから押し付けるようにして神田にお皿を渡す。
 神田は軽く舌打ちし、スプーンを握った。



 
 更にリナリーとラビの分を取り分け、残りは僕の分になる。
 鍋から直接食べている僕に神田が呆れたような、驚いたような、――――――ラビ曰く「アレはバケモンを見る目さ」との事だったけど――――――目をしていた。あれかな、行儀が悪いって言いたいのかな?

「違う違う」
「どうかんがえても量ね」
「そうですか?」

 本当はスープよりしっかり固形なものを食べたいんだけど、此処じゃそうも言ってられない。持ってきていた少しのお肉は、スープの中に入っていた。
 物足りないというのが正直な所だったけれど、僕は黙って空になったお鍋を前に手を合わせる。
 リナリーとラビも食べ終わりそうだし、終わったら一緒に洗いに行こう。

 ――――――と、僕は神田の手元に注目した。
 余り、減っていない。

「?」

 やっぱり嫌いなものでも入ってたのかな?
 僕は焚き火から少し離れた所の神田の下へ向かった。
 リナリーはラビと会話していて、今はこっちを見ていない。

「神田、…………やっぱ苦手なもの入ってるんですか?」
「…………肉」

 ぼそり、と神田は低く呟いた。

「何でこんなに肉ばっか入れやがる」
「え? 僕としてはまだ物足りない位なんですが。…………それ、食べないんですか? 食べられない?」
「…………」

 神田は小さく頷いた。
 僕はそれを了承代わりにして、――――――彼のお皿の中からお肉だけ取った。

「!」
「じゃあこれは僕が貰います。…………ごちそうさま」

 リナリーに気付かれないうちに、と僕はすぐさま神田から離れ、リナリー達の会話に加わった。
 
 なので、僕は気付いていなかった。神田が瞬きを繰り返しながら、お皿と僕を交互に見ていた、そんな彼にしては珍しい事に。





「ねぇ、皆、」

 洗い物を終えた後、リナリーが言い出しづらそうな顔で話し出した。

「あのね、ちょっと、」

 チラチラと池のほうを見ている。
 …………?

「ああ、水浴び? 行って来るといいさ」

 ラビが軽く答えた。
 ああ、そういうことか。

「見張りいるなら俺g」

 
 ガンッ!!


 続くセクハラ紛いの言葉に、僕は盾で思い切り殴っておく。

「…………いってぇ! ちょ、酷いさ!」
「何が酷いんですかそういうのをセクハラって言うんですよ」
 
 …………神田も、呆れたように溜息をついてる。
 そして立ち上がり、僕らの目の前をスタスタと通過し、池と此処を隔てる茂みの前にドカッ、と座りなおした。

「「??」」
「行って来い。雑魚の気配なら見てなくてもすぐ分かる。…………そこの阿呆共も見張る」
「ちょっ…………ラビと一緒にしないで下さい!!」
「アレンそれどういう意味さ!!」

 覗きなんかしませんよ!! 

 だけど、神田は僕らを冷ややかに一瞥し、

「――――――俺の前で下らねぇ真似してみろ。この場で斬り捨ててやる」

 間違いなく本気の目で、そう言った。









 リナリーが水浴びの最中にも、そしてその後の僕らの時にも、魔物の襲撃は無くて一安心だった。
 幸運な事にも、近くにいるサラマンドラのお陰? で弱い魔物は余り近寄ってこないとの事だった。 

「神田は?」
「…………後で行く」
 
 そんなやりとりの後。
 火の番の順番だけ決め――――――リナリー、ラビ、神田、僕という順番だ――――――、僕らは焚き火の近くでそれぞれ丸くなる。
 最初の番のリナリー以外、それぞれが眠りに落ちて、どのくらい経っただろうか?



 ――――――パシャンッ



 僕の耳に、水音が聞こえた。



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