「――――――あ、」

 水辺のキャンプを撤収した僕らは昨日通り過ぎたサラマンドラの巣の前に戻って来た。
 …………そこに人影を見つけて思わず声を上げる。

「ベオウルフ…………」

 ラビの呟きに、その人が同行するベオウルフのフロースガルさんなのだと気付いた。
 僕達が近付いていくと、フロースガルさんはにこっ、と笑って、

「やあ、お早う。…………君らがBRSの?」
「あ、はい、僕はアレン・ウォーカーです」
「君らの話は酒場のマスターから聞いてるよ。何でも最近来たギルドの中じゃ一番活躍目覚しい…………と」
「…………」

 そんな風に褒められるとちょっと照れる。大体僕らなんてまだまだだ。

「神田君も、元気そうだね」
「…………、」

 フロースガルさんがそう声を掛けると、後ろの方にいた神田はふいっ、とそっぽを向いた。
 …………あれ? 顔見知り…………?

「…………やれやれ、嫌われてしまったようだ」

 軽く肩を竦めたフロースガルさんは僕らに視線を戻して、

「それじゃあ、作戦会議と行こうか」
 




 
 作戦会議とは言ったものの実はそんなに策はなかった。僕らが一言で言えば弱すぎるからだ。
 攻撃役の主力に神田を、そのサポート兼防御役にフロースガルさんを。更にそのサポートに僕が付き、リナリーは頭と足を縛る。(戦闘開始と同時にオールボンテージだと言っていた)ラビは…………回復兼アイテム係だ。ちょっと失礼な気もするけど。

「気を引き締めていこう。かなりキツい戦いになる」

 フロースガルさんがそう言い、僕らは緊張した面持ちで頷いた。
 僕らの力は何処まで通用するのだろう。
 思わず体が震え――――――僕らは、先を行く神田について扉を抜けた。
 
 





 ガァァァァァッ!!!


「あ…………っつ…………!」

 ファイアガードを掛けても尚感じる凄まじい熱気。
 盾を高く掲げて、今僕は背後のラビの回復術を待っている。

 前方では神田が身軽に飛び回りながらヒット&ランでサラマンドラにダメージを与え続けている。フロースガルさんも神田と同じような位置で、的確に防御と攻撃を使い分けながら戦っている。
 ショートレンジ専門だとばかり思ってたのに、遠距離からの飛び技などロングレンジにも対応しうる神田は、流石たった一人で旅を続けられる歴戦の冒険者だけある。
 けれどそれにしたって怪我がない訳じゃない。神田はまともに喰らえば一撃で終わるサラマンドラの尾の一撃から辛くも身を反らせ、けれども逃げ切れずに腕に赤い線が走った。

「ラビ! 僕より先に神田をっ…………!」

 利き腕に傷を負ってもけして怯まない力強さ。
 あの時――――――獣王との戦いの時に見た、僕が心惹かれたあの強い目に、今の眼前の敵の所為ではない武者震いが体を走り抜ける。
 
 ――――――僕らを鼓舞する、力強い眼差し。

 憧憬とも言えるその感覚に、士気は高まっていく。 

「――――――エクスタシー!」

 頭・腕・足…………全てを封じられたサラマンドラに、リナリーの強烈な一撃が叩き込まれ、

「細雪!!」

 的確に弱点を突いていく神田の攻撃に、サラマンドラの勢いが目に見えてなくなっていく。

 
 ――――――勝てる、そんな一瞬気が緩んだ瞬間に、

 

 グギャアアアアアアアッ



「っ!」
「――――――!!」
「「「!!!」」」

 耳を塞ぎたくなるような声をサラマンドラが上げたかと思ったら、神田とリナリーが突然その場に倒れ臥した!

「なっ、」
「神田! リナリー!!」
「死声だ、まずい、耳を塞ぐんだ!!」

 フロースガルさんの声に慌てて僕らも耳を塞ぐ。

「やばい、やられたっ、」

 ラビが慌てて回復しようとした時、サラマンドラの獰猛な色を宿した瞳がこっちを向いた!!

「っ!!」

 慌ててラビの前に飛び出して、盾を掲げる。
 再び襲ってくる、焼け付くような熱気。

 一瞬収まった隙に盾を下げ、確認するとサラマンドラの足元近くで倒れ臥した神田とリナリーを庇いながらフロースガルさんが盾を構えていた。

「一旦退こう、体勢を立て直す!!」

 その声に頷く間もなく僕もフロースガルさんの方へと駆け寄った。ラビは、別の方向に向かって駆け出す。
 手前で倒れているリナリーを抱き上げると、ほぼ同時にフロースガルさんが神田を抱き上げ、そして僕らは扉へと向かって走る。
 

 …………転がり出るようにして扉から出て、僕らは大きく溜息をついた。










「――――――よし。もうちょっとで目ぇ覚ます筈さ。そっち二人も、傷診せて?」
「ありがとう、ラビ君」

 僕らは、昨日キャンプを張った水場まで戻り、そしてそこで休憩をとった。
 瀕死状態の神田とリナリーを寝かせ、ラビが回復を掛け――――――そして僕らも回復して貰う。

「あの声、何だったんですか?」
「あれは、死へ誘う声でね。聞かされると、運が悪いと持っていかれる」

 命をね、とフロースガルさんが続けた。
 …………隣では大きな犬? 狼? が大人しく座っている。

 聞かされただけで命を奪われる声…………か…………。

「うう…………ん…………」
「…………、」
「あ、」

 そんなものがあるんだ、と半ば感心していた僕は、神田とリナリーが微かに呻いた事に意識を持っていかれた。

「大丈夫ですか、二人共」
「…………、アレン君?」
「…………何だ、此処は」

 ほぼ同時に目を見開いた二人はそれぞれに不思議そうな(神田はむしろ不機嫌そうな)顔で僕らを見上げて見回す。

「敗走したよ、幾らなんでも分が悪かった」
「…………」
 
 その言葉に神田は思いっきり渋面になった。

「覚えてるかい? 君らは死声を受けてしまったんだ」
「…………ちっ、あの火トカゲ…………」

 舌打ちした神田は忌々しそうにサラマンドラの住処のある方角を睨みつけている。

「全滅しなかっただけめっけもんさぁ。前、どっかが死声食らって全滅したしな」

 ラビが肩を竦めた。

「…………ぶっ殺す、」

 神田が低く呟いて、視線を更に険しくした。
 そこにラビが、

「…………リターンマッチ申し込むなら、また今度にするさ。取り敢えずは任務完了な訳だし。薬泉院届けに行かなきゃだし」
「え?」「あ?」

 ラビの言葉に、僕と神田は同時に声を上げる。

 任務完了って…………サラマンドラを倒せてないのに?

 僕らが怪訝な顔をすると、ラビとフロースガルさん、そしてリナリーは顔を見合わせた。

「…………え、って…………」
「ラビ君?」
「ほら」

 ラビは言いながらアイテムを仕舞っている袋を開くとそこから赤とオレンジの羽毛がふわりと舞い上がった。
 そう言えば…………
 大公様が病気で、サラマンドラの羽毛が万能薬の材料で…………

 …………そうだ、確かに言われてはない。倒して来い、だなんて。

「「…………」」

 思わず神田の方を見ると神田と視線が合った。

「…………」

 けれど神田は僕と視線が合うとふいっ、と逸らしてしまう。

「ま、まぁともかく。じゃあこれで大公様の病気は治るんですね?」
「その筈さぁ」

 ラビがふわふわ舞い上がる意外にも柔らかそうな羽毛を大切に袋に仕舞い直した。

「いつ採ったんだい?」

 フロースガルさんが不思議そうな顔でラビに訊く。

「逃げてくる直前。サラマンドラがそっちに気ぃ取られてたみたいだったからさ」

 そう言えば、ラビが別方向に走り出してた…………

「公女様もこれでご安心なさるわ」
 
 リナリーが微笑みながら続ける。
 神田は釈然としない顔だけど、けれど薬泉院に届けに行く事に異論は無いらしく黙ったままだ。
 …………僕は一人、別の理由で少しだけ眉根を寄せた。



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