『ねぇ、ユウ!』
『何だ? ラビ』
『俺たちが結婚したらさ、色んな所を一緒に見に行こう?』
『色んな、所?』
『そう、この国の外には色んなものがあるんさ! すっごい大きな三角形のお墓とか、白いお城とか…………』
『三角形の墓…………? 城は、此処にもあるじゃねぇか』
『此処のとは全然違う形さ! ね、絶対行こう!』
『うん、いいぞ』
『ホント!?』
『お前と一緒なら、何処でも―――――――』
叶わなかった約束。
もう叶える事も出来ない約束。
思い出してしまったのはきっとあいつの所為。
「!」
ふと、鳴った不協和音に思わず指先が止まる。
考えても仕方ない事に思いを馳せる余りに手元が疎かになったか、と小さく自分を嗤う。
珍しい過ちに、それまで目を閉じて柱に凭れ掛りながら聞いていたのだろう客が、そっと近づいて来た。
「珍しいですね、貴方が間違うだなんて」
それはそうだろう。それこそ子供の頃から何度と無く弾いて来た曲だ。目を閉じてだって演じられる。
今だ放していなかった、弦に触れたままの指先に手が重ねられた。
「、」
「何かあったんですか?」
気遣わしげな声。
視線を合わせることは出来なかった。そうしたなら敏い相手にあっという間にこの胸の内の動揺を見透かされそうで…………。
無言を貫き通せば無理を通すつもりはなかったのか、手が離れた。
「…………」
視界が白く染まり、そしてそのまま抱きしめられる。
「もう少しです」
「…………、」
「もう少しで、貴方を此処から連れ出せる」
「…………アレン、」
戒める様にその名を呼べば、困ったように笑うまだ少年が、
「…………諦め、られませんから。――――――義姉さん」
「…………それでも諦めろ。それも出来ないなら、もう此処に来るな」
そう言って胸を押して遠ざけようとするにも、力の差は歴然でそれは敵わない。
「嫌です。約束したんです、僕らは――――――…………」
「貴方を必ず、助け出す。」
<続>
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