『困った、どうしたものか』
『神田の家の者は須く死罪とのお触れが出ているではないか! それを…………戻ってきたとはいえ…………』
『このまま匿えば我等とてお咎めがあろう…………』
蒼い顔で話合う御祖父様と伯父上達。
その真ん中で、俺はもっと蒼い顔をした母上に抱きしめられていた。
『しかし…………今此処で神田の血を継いでいるのは…………』
全員の視線が俺に集まる。その視線にたじろいで母上の裾を強く握り締めた。
『この娘だけではないか』
それまで極々当たり前の事だと信じて疑わなかった、平和で少し退屈で、そして幸せだった日々は九つの歳に突然前触れ無く壊れた。
―――――――父上は高潔な人であったから。
例え相手が上司で在ろうとも、不正が許せなかったのだろう。
その当時は全く理解出来なかった事情も、ある程度時が経ってから説明されれば納得もいった。
父上は、濡れ衣を着せられたのだ。
故に切腹すら許されず罪人として斬首され、神田の家は取り潰しになった。
そして、神田の血に繋がる者は須らく、罪人の一族として―――――――…………
「―――――――っ!!」
びくん、と身体が震えた。
夢を、見た。
子供の頃の、夢を―――――――。
魘されたのだろうか、俺の身体は寝汗に濡れていた。不快な感触に眉根を潜める。
恐ろしい夢だった。いや、あれは事実だ。夢なんてものじゃない。確かにあった、過去の事実。
頭に鈍痛が走る。気持ちが悪い。
陽はまだそう高くない。目覚めるにはまだ早い。だけど寝直すつもりにもならなかった。
あんな嫌な夢の続きなど見たくも無い。
「…………恨むな」
自分に小さく言い聞かせる。
「恨むな、諦めろ…………」
それが俺に出来る、唯一の。
『…………!!』
『――――――!!』
言い争う声。怒鳴りあう声。
――――――母上の泣く声。
全てが怖くて、ただ怖くて蹲って耳を押さえて、泣いた。
「――――――ふ、ぇ…………ラビ、ラビ…………怖いっ…………!!」
また明日、って挨拶したのに。
もう、そんな明日は何処にもない。
縁談は破談になったと、もう聞かされていた。
だけど怖くて怖くて、其の名前を呼んで縋るくらいしか出来なくて――――――
次の日俺は伯父上に手を引かれ、知らない人間に引き渡された。
最後に振り返って見たのは座敷の隅で顔を覆って泣く母上の姿で、俺はもう二度と此処には戻って来れないと直感で悟った。
そして神田ユウという人間は死んで。
俺は、娼妓蓮宮になった。
<続>
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