「…………よし」

 俺はある屋敷の前で気合を入れた。
 同じ唐人商人街の一角。自邸に勝るとも劣らない規模の西洋風の屋敷だ。
 マリアン家。
 ブックマン家に比肩し得る規模の商家。商うのは火薬に、武器にとそこはかとなくきな臭いものが多いけれど、それでも十分名家と呼んで差し支えは無いだろう。
 屋敷の主は二人。現当主であるクロス・マリアンとその養い子の、アレン・M・ウォーカー。
 共に夜会ではよく見かける顔だ。事に当主の方は派手好みで、よく夜会でも目立つ存在。
 対照的に息子の方はどちらかといえば物静か――――――けれど血筋の知れない一介の孤児の身からその才を買われてマリアン家の養子に、次いでは総領にと定められた程の才覚の持ち主。
 
「…………」

 今回訪ねるのは、その息子の方。
 年が近い為、夜会で顔を合わせれば挨拶くらいはする仲だ。とはいえ突如約束もなしに訪問するような仲でもない。
 …………追い返されなければいいのだけれど。

 供を先に行かせ、門番に来訪を告げさせる。
 静かだった屋敷の先は一気に慌しくなり、そして数分後には門扉は全開にされた。

「若旦那、お会いしてくださるそうで」
「良かったさ」

 案内役の老人について高いエントランスを潜る。細やかなステンドグラスに、見事なレリーフ。瞬間目を奪われていると、階上から声が掛かった。
 
「お待たせしました」

 まだ高い、少年の声だ。
 振り仰ぐと、静かな微笑を浮かべた少年が佇んでいた。
 シャツにベストを着てリボンタイを結んだ如何にも良家の子弟といった出で立ちでありながら――――――その瞳の中に油断のならない物を感じ取り思わず身構えた。

「急な訪問で申し訳ない」
「いえ、僕も貴方とは一度ゆっくり話してみたいと思ってましたし。幸いにも今日は義父もいないので」

 どうぞ、と。
 屋敷の奥に誘われるままについていった。




<続>



第十五羽へ
第十三羽へ

胡蝶の儚夢初頁へ  



小説頁へ