例えば、けして手に入らないものがあったとして。
それを、諦められる人間と、諦められない人間がいるだろう。
そして諦められない人間の中には、無理だと分かっていてもそれでも手を伸ばす人間と、
手に入らないなら壊れてしまえ、と思う人間がいて――――――
――――――そう分けるとしたならば、俺は間違い無く一番最後の人種だろう。
彼女はけして手に入らないと思い知った瞬間から、俺は彼女を滅茶苦茶に壊してみたいと思うようになった――――――
「ティキ様、お耳にお入れしたい事が」
自邸の書斎。幾つかの書面に眼を通していた俺の元に、彼女の回りを張らせている奴がやってきた。
耳打ちされた内容に、瞬間眼を細め――――――次いで湧き上がる愉悦に唇を歪める。
「ねぇ、どういう顔をすると思う?」
「?」
「彼らをさ、傷つけたら――――――ユウはどんな顔をするのかな?」
「こんにちは、義姉さん」
夕方、日が落ちる前に訪れたアレンは今日もにこやかに笑っていた。
昨夜の所為で酷く具合は悪かったが、それを悟らせぬように何でもないように振舞う。
黙って茶を立ててやると、アレンは嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます、…………ねぇ、義姉さん。ラビという人をご存知ですか?」
「!」
不意にアレンから思いがけない名前が出て、俺は思わず目を見張った。
「ブックマン家の総領息子です。ご存知ですか?」
――――――覚えていますか。
アレンがそう囁いた。
――――――忘れられる筈も無い。
先だっては、客として現れた。何か不思議な事を言っていたような気もするけれど、正直動転していてそれどころじゃなかった。
それより前は、大昔の、退屈で平凡で幸せだった頃の象徴だった。
「僕、彼に会いました」
「な、んで…………」
「彼が来たんです。義姉さんの事を聞きに」
ずず、とアレンが茶を啜る。
「彼、僕らを義姉さんのお客だと思ってたみたいですね。…………間違ってはないかもしれませんけど」
金蘭が言っていた。あいつが、俺の周りを調べていると。
それは、何の為?
「彼は、貴方を助けたいと言っていました」
「――――――」
思いがけない言葉に、再度瞠目する。
助ける? 誰を?
――――――俺を?
無意味、な。
<続>
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