拒絶の言葉。
諦めを浮かべた凪いだ眼差し。
――――――胸が、苦しい。
「ユウ…………!」
何度名を呼んでも彼女は頑是無い幼子のように頭を振るだけ。
「お願いだから、待ってて! 絶対、助けるから…………!!」
「……………………」
悲しい無言の拒絶。
抱き寄せた彼女をそのまま褥の上へと組み敷いた。
漆黒の眼差しが微かに怯えを浮かべる。
「怖がらないで…………」
ただ静かに唇を重ね合わせる。
――――――彼女が折れて、最後に応の返事を返すまで、ひたすら俺はユウにキスし続けた。
太夫を買って、した事が接吻だけとは随分な話。けれど俺の胸の内は穏やかだった。
朝方、身支度を終えて楼から去る支度をする俺を、ユウは無言で見つめていた。
「…………ユウ、すぐに迎えに来るから」
「……………………、期待しないで待ってる」
「期待しないはひどいさ」
くす、と小さく笑いながらの言葉。
俺はユウが微笑ってくれたことにほっとしていた。
「、」
「必ず、来るから…………」
一度強く抱きしめると、おずおずとそれに応えてくれた。
昼夜の逆転した色街の中、俺達は静まり返った明るい往来で唯只管、抱き合った――――――。
ガシャンッ!
「――――――っ、」
「ぼ、坊ちゃま!! そのお怪我は!?」
「僕は大丈夫です。飛び道具を持った襲撃者が敷地内にいます! 至急警備担当の人達に連絡を…………襲撃者は生きたまま捕らえてください」
マリアン家。
普段は静かなそこは、今はまるで蜂の巣でも突付いたかのような騒ぎだ。
留守を預かる総領息子が、左目に手傷を負わされた。
白い髪が流れ出た血で紅く染まるのを、使用人達が息を呑んで見つめる。
「あと、全員窓には近づかないように! 窓から襲撃されています!! 外出中の師匠にすぐに連絡を取ってください、師匠も襲撃される可能性があります、警備担当の内半分は此処の警備の続行、もう半分はすぐに師匠の護衛へ!!」
左目を手で覆いながらも決然と振舞うその姿に、徐々に使用人達にも落ち着きが戻る。
襲撃自体はきな臭い武器を扱うマリアン家としてはけして珍しい事ではない。
「っつ…………」
「ぼ、坊ちゃま…………」
「大丈夫です。掠り傷ですよ。…………それから警備担当以外の使用人の皆さんを至急全員屋敷内へ戻してください」
「は、はい」
「…………くそ、」
彼にしては珍しく毒づいて、そして見つめる方角の先は色街――――――。
「姉様、お客様でございます」
「…………ああ、」
「ミック卿は最近よくお見えになりますね」
「――――――そうだな」
何処か上の空の姉貴分に、禿の少女は首を捻る。
「そういえばミック卿がお贈りになりました香は焚かれないのですか?」
「――――――香?」
そんなものが、あっただろうか?
それにしても、この禿はよく喋る…………
くら、と眩暈を覚えて一瞬目を閉じた。
今一度目を開くと鏡に映った自分はお世辞にもいい顔色とは言えない。
――――――彼女には見えていなかった。
視界の端、鏡に映った部屋の隅で小さく煙を上げる香炉が…………
<続>
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