家の門前が騒がしい。
 私室に篭って調べ物に専念していた俺は、段々と騒がしくなってきた外に疑問を抱き外に出た。
 暗い中、松明の元で門番が二人、誰かと揉めているらしい。
 
「誰さ?」
「わ、若旦那。それが…………」
「ブックマン家の若様ですね?」

 見れば初老の男性だ。
 西洋の仕着せに身を包んだ…………

「マリアン家の執事さんさ?」
「左様でございます。…………先触れの無い訪問、失礼千万と恐縮しております。しかしながら事は一刻を争う事態。どうぞ我らと共に御出で下さい」
「…………一刻を争う事態?」

 そこで彼は声を潜めて、囁いた。

「…………お嬢様の件でございます」
「!」

 それが誰を指しているのか、聞くまでもなかった。

「…………俺、行って来る。誰かジジイに伝えといて!!」
「わ、若旦那!!」
「じゃあな!」

 叫んで、走り出す。
 門扉から僅か離れたところには僅かな灯りを灯したマリアン家の家紋を描いた俥が一台。
 走って近付くと簾が中から跳ね上げるようにして開かれた。そしてそこから腕が伸びてきて、腕を掴み無理矢理に引っ張り上げる。

「いでででっ!!」

 痛みに抗議する間も無く、すぐに俥は走り出した。

「荒っぽくなってすいません、ラビ」
「ア、アレン?」

 掴み上げた張本人の少年が、余りそう思っていなさそうな声で詫びた。

「もうちょっとやり方ってもんが…………っお前その目っ!!」

 文句を言いながら振り向いた瞬間。
 額から左目の下辺りまで走る、この間までは無かった生々しい傷跡に思わず息を呑んだ。

「…………ミック卿の手の者にやられました。…………大丈夫です、視力には影響ありませんから」
「ミック卿…………あの阿片窟の?」
「ティキ・ミック卿。彼は千年伯爵の身内、伯爵の六男です。義姉さんを狙っています」
「!」

 ティキ・ミック卿といえば阿片窟での実力者で、悪い意味で名高い人物。
 一度だけ見た事がある。褐色の肌に、黒い髪の色男。

「聞けば今桜雪楼の方にミック卿はいるとか。…………この襲撃のタイミングで、何もないと思わない方が可笑しいでしょう?」
「…………そうさね」

 言いながらアレンは素早く手元の銃を組み立て始め、一つ出来上がった短銃を投げて寄越した。――――――流石は武器を商う家の子息。用意も良ければ手際も良い。

「使えますよね?」
「当然!」

 ついでに使いやすいものをどうぞ、と言われ床に並べたナイフの中からダガーを一本取った。
 それを腰に差して、向かい側のアレンの手元を見る。
 アレンは俺に渡した物よりも二回りは大きい銃を組み立てていた。

「大門を突っ切って! そのまま店の正面につけてください!!」
「あ、荒っぽいですよ坊ちゃま!」
「どうだっていいんですよそんな事は!」

 花街一の大妓楼相手に随分と無茶を…………
 けれど異論などあろうはずもなく。
 俥が速度を緩め始めると同時に、俺達は飛び降りた。



<続>



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