「旦那様、お止め下さ…………っ」
「…………怪我をしたくなければ退いて下さい」  

 制止してきた若い衆を、アレンが睨みつけた。 普段は紳士然とした良家の子息である彼が、生々しい傷痕を見せながらそう脅せば楼の人間は息を呑んで下がる。

「蓮宮太夫は鳳凰の間に?」
「は、はい…………ですがお客様がお見えに」
「ミック卿ですね」  

 ちら、とアレンと視線を交わし、階段へと走り寄る。 
 と、そこに、一人が立ちはだかった。

「はいい、やんちゃは外でね坊や達」  
 
 金色の髪に白磁の肌。蒼の瞳。 
 …………見た事のある、

「金蘭太夫。…………此処は一つ引いてくれないさ?」
「何言ってるの。此処はね、駄々を捏ねればいいって場所じゃ」

「ユウが危ないんさ!!」  

 …………思わず、叫んでいた。 
 その聞き慣れないのであろう名前に多くの楼の人々は顔を見合わせ、けれど目の前の金蘭太夫だけはすっ、と目を細めた。

「どういう意味かしら?」
「説明してる時間は無いさ、気になるならくればいい! アレンッ」
「はい!」  

 立ち塞がる彼女をなから突き飛ばすようにして、無理に押し通った。 
 長い階段を駆け上がる。  
 下では眉根を寄せた金蘭太夫が、一人。

「…………まさか」  






 目の前には昏い眠りに堕ちている女が一人。 
 …………彼女のあの瞳を、二度と見れないことを少しだけ残念に思った。 
 けれど、こうでもしなければ彼女を手に入れることは、けして出来ない。

「…………ユウ、」
 
 青褪めた頬を指先でつい、と撫でて一人物思いに耽る。
 と、何やら部屋の外が騒がしい。
 格式と礼を重んじるこの楼で珍しいこともあったものだと、思う。
 だがその次の瞬間、襖が蹴り飛ばされて、強引な乱入者が現れた。

「ちっ…………」

 意識の無い彼女を抱き寄せて、闖入者を睨む。
 紅い髪の青年と、白い髪の少年の二人組。
 うち一人は、見覚えのある、

「お探ししましたよ、ミック卿」

 まずは白い髪の少年が一歩を踏み出した。絶対零度の眼差しで。
 俺はその少年と睨みあい、彼が口を開くのを待った。




<続>



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