「まずは当家に使者殿をお遣わし頂きまして。どうもありがとうございます」

 明らかな皮肉を放ってから、アレンは口の端を吊り上げた。

「…………ああ、少年がアレン・ウォーカー?」
「ええ」

 絶対零度の眼差しでやり合うアレンとティキ・ミックを他所に、俺の視線は奴の腕の中でぐったりしたままのユウに注がれていた
 眠っている、訳ではない筈だ。これだけの騒ぎの中。

「じゃあ目的は―――――――」

 ティキは腕の中のユウにちら、と視線を落とした。

「―――――――でも残念だったね。お姫様は、ほら」

 嘲る様な響きを台詞に持たせながら、ティキはユウの顎を掴んで俺達の方を向かせた。
 俺達は揃って息を呑む。

 ―――――――ユウの瞳は濁り、何処も見てはいなかった。

「ユウ!? お前、ユウに何をした!?」

 思わず怒鳴ると、ティキは薄く酷薄な笑みを浮かべる。

「―――――――さぁ、どうしたと思う?」

 瞬間、アレンが構えていた銃で部屋の隅を撃った。
 何かが砕ける音が、した。

「あーあ、酷いな。高価いんだよあの香炉」
「…………阿片か!!」

 アレンが吐き捨てて、そしてその言葉に俺は背筋が凍った。
 
「そう。どんなに愛しても俺の物にはなってくれなかったから―――――――こうして壊してみた」

 言いながらティキは、ユウの打ち掛けの合わせ目に手を入れて見せた。相変わらずユウは何の反応も示さない。

「…………っ、このっ…………!」

 アレンは銃を正面に構えて、けれど発砲できないでいた。
 ティキがユウを楯にする事を恐れてるんだろう。

「…………な、んで…………何でそんな事したんさ!? 愛してたなんて言うなら、何でそんな真似…………!」
「青い事言うね。お前さんはあれかな、たとえ別の奴とでも、好きな人には幸せになって欲しいとか言うタイプ?」
「当たり前だろ!?」
「当たり前、ねぇ…………俺は俺以外の奴のとこに行かれるくらいなら、いっそ殺して傍に置いときたい派だけど」
「そんなの…………絶対おかしい!」

 ―――――――どうして俺を裏切ったの?(だけど、それでユウが幸せなら、ば。)

「お前はユウが好きだったんじゃない、そんなのただの所有欲だろ!?」
「…………煩いよ、お前」

 ティキの声のトーンが落ちた。

「そんなのどうでもいいじゃん。…………無意味だ」
「…………!!」

 ティキが素早く取り出したもの。それは黒光りする短銃だった。

「…………本当、煩いよ」

 過たずその銃口は俺の胸を狙っていて―――――――乾いた銃声が一つ、部屋に響いた。



<続>



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