内外の有力者や、取引先まで呼んだ盛大な婚儀と披露宴を終え。
 夕刻より、身内と親しい人々での小規模な宴を開いた。
 途中までその中にいた花嫁は侍女に呼ばれ先に席を立ち、残された花婿は散々にからかわれた。

「いやぁ、しかしマリアンのお嬢様があんなにお美しい方だったとは。知っていればうちの息子の嫁に是非、と望んだものですが」
「あれだけお美しい上にお家柄もあれでは、あちら様に選ぶ権利がありますでしょう?」
「はは、違いない」

 此処にいる人々の殆どが、今日始めてユウを見た。
 婚儀を終え、披露宴の段になってようやう目深に被っていた綿帽子を取ったユウの姿に、人々は感嘆の溜息をつくか息を呑み驚いた顔をするかのどちらかだった。 

「ラビ殿、盃が空いておりますよ。どうぞ」
「はは、そのようにこれから初夜の床を迎える花婿殿に酒等勧めては…………」
「おっとこれは失敬。気が利かないもので」

 目の前でのやり取りに、俺は苦笑を返す他ない。
 何故なら――――――

「…………。」

 半目で睨むアレンが、俺のすぐ傍にいるからだ。

 新たに義弟となったアレンが、俺とユウの事をよく思っていないのは知っている。
 それが目の前でこの会話では、(会話している本人達に悪意は無いにしろ)不機嫌になるのも、まぁ仕方ないといえば仕方ない。
 結局継がれた盃を舐めているうちに、ふと襖が開いて着飾った侍女が一人やってきた。 
 宴の盛り上がりに水を差さないようにとそっと小声で耳打ちをされる。

「若旦那様、もうそろそろ。…………奥様のお支度も整いますので」
「分かったさ」
「…………行ってらっしゃい。別に邪魔しやしませんよ」

 ぼそっ、と隣故に聞こえていたらしいアレンが呟く。
 
「はは、は。…………じゃあ、そっちもごゆっくり」
 
 そっと立ち上がり、先に外へ出た侍女について廊下へ出る。
 ちらと見た先のマリアンの当主と実の祖父は、人々に囲まれての談話中。…………出て行ったことには気付いてはいるだろうけれど、わざわざこちらにそれと分かる様に示すつもりは無いらしい。

 庭に面した廊下に吹き抜ける夜風が、酒と高揚に火照った頬に気持ちがいい。  
 案内された先は西の湯殿。先ずはと汗を流す。
 侍女らが外でうろついて、暗に早くとせき立てられた為、湯に浸かる事はなかった。
 用意されていた布で体を拭い、揃えられた夜着に袖を通す。
 相変わらず体が熱いのは、酒の所為か湯の所為か、或いは。

「――――――…………」

 手持ちの灯り一つを持った侍女の先導で辿り着いた先は、まだ建てられたばかりの東の屋。
 西洋の花の模様入りの灯篭が等間隔で飾られ、今は婚儀の為に飾られた色取り取りの紙細工が夜風に揺れている。

「奥方様は、三の間に。――――――では、失礼いたします」

 東の対の屋の入り口まで来て、そこで侍女は踵を返した。…………初夜は二人きりでと、そう言いたいらしい。
 取り残された其処で、改めて緊張している自分に気付いて、自分に小さく苦笑した。
 静かな屋の中の廊下を歩くと、いくつかの障子の内一つから小さく明かりが漏れている。
 目指す所を見つけ、過たずそこの障子を開いて――――――小さく目を見張った。 
 
「…………、」

 広い畳の寝室の中。
 四隅には小さな行灯が置かれ、僅かに揺れながら部屋の内を照らし出す。
 …………その中央の褥の上で、彼女は、今日俺の妻となったばかりの人は、真白の寝巻き一枚で正座していた。
 目を閉じていた彼女が足音にだろうか、目をゆっくりと見開き、
 灯りを受け、輝く双眸と視線が合った。




<続>



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